バブル崩壊後の超不景気による5チャンネル販売体制の崩壊から、フォード傘下入りによる救済に至るまで、短期間で転げ落ちるように絶望の淵に立たされたマツダ。その真っ只中にデビューしたランティスは、国内販売こそ振るわなかったものの、特にクーペが高い評価を受けたデザインや、優れた走行性能により、今でも多くの根強いファンが多く存在する1台です。

マツダ ランティスクーペ/ Photo by RL GNZLZ

崩壊寸前のマツダで生まれた、美しい4ドアクーペとセダン

マツダ ランティスクーペ /Photo by dave.see

1993年9月、マツダから「ランティス」という2種類の車が、異例のデビューを果たしました。

同じランティスでも、4ドアクーペ(実質5ドアハッチバッククーペ)と4ドアセダン(ピラードハードトップ)の2種類があるというのは普通の車ではよくある話で、ホイールベースが同じなら搭載するエンジンなどメカニズムやグレード構成も同じ、というのも珍しい話ではありません。

しかし、外から見る限りこの2車のデザインには全く共通点がなく、「まるで違う車に同じ名前をつけたんじゃないか?」と感じるほどですが、どうも真相はその通リらしく、当時のマツダが陥っていた、崩壊寸前の混乱を象徴するような車だったのです。

当時のマツダは、1989年のマツダモータース店解体や、ユーノス店およびオートザム店の設立に始まり、1991年にマツダオート店をアンフィニ店へ改称することで完結した、販売網の5チャンネル体制(マツダ店、アンフィニ店、ユーノス店、オートザム店、オートラマ店)の負債を抱え、炎上していました。

バブル景気真っ只中で調子のいい頃は、とにかくチャンネル数を増やして各種資本の新規参入を促して販売店を増やすのが正解で、マツダおよびユーノスやオートザム、アンフィニ各ブランド合計の販売台数は1990年に、過去最高に達します。

しかし、1991年にバブルが弾け(バブル崩壊)、猛烈な超不景気時代に突入すると増やしたブランドや販売店と、そのために増強した車種ラインナップ、それら全ての維持や広告宣伝費がのしかかり、世界中に販路を持つとはいえ、あくまで中規模自動車メーカーに過ぎないマツダには、とても耐えられるものではありませんでした。

マツダ ランティスセダン/出典:https://www.favcars.com/mazda-lantis-sedan-1993-97-pictures-62655.htm

やむなく5チャンネル体制の失敗を認めて早々に販売規模の縮小を開始し、各ブランドも本来の「マツダ」ブランドへの集約を進めますが、その頃に開発を終えていたマツダ店向けのファミリアアスティナ後継、および海外向けマツダ323F後継となる4ドアクーペと、アンフィニ店向けの4ドアセダン(ピラードハードトップ)の扱いに困ってしまったと言われています。

今さら2車種をそれぞれ別車種として宣伝する余裕もなく、ブランドも販売チャンネルも集約するため、どのみちどちらも「マツダ」ブランドになることもあり、いっそ同じ車のガワ違い(これは本当にそうだった)として宣伝費用を1車種分にまとめ、販売もマツダ店、アンフィニ店、ユーノス店の3チャンネルで同時に行う事にしたのです。

全く見かけの異なる2つの「ランティス」が生まれた理由には、このような背景があったようですが、後々まで語り継がれる4ドアクーペとは異なり、4ドアセダンは存在自体が忘れられかけているのが、ちょっと寂しいところです。

秀逸なデザインと贅沢な作りが好評、海外でも大人気だったランティス

マツダ ランティスクーペ/ Photo by Mark van Seeters

開発時代はまだバブルの名残が残る時期に終わっていたため、ランティスは内外装デザインにせよ、メカニズムや性能面にせよ、非常に贅沢なものでした。

どちらかといえば保守層向けだったと思われるセダンですが、ゆったりとしたキャビンを実現するためにノッチバックが短く、トランク容量が小さくなってしまう問題を上下方向にボリュームを持たせたデザインでうまくまとめ、実用性もしっかり確保されています。

4ドアクーペは実質5ドアハッチバッククーペだったため、前後席に最大5人が乗っても十分なラゲッジスペースと優秀な積載性を両立させており、さらに薄目のヘッドライトに継ぎ目が少ないシンプルなボディパネルで、研ぎ澄ました刃物か航空機のような鋭利さを持つ、フロントマスクが秀逸です。

エンジンは標準グレードの1.8リッター直4は普通でしたが、上級グレードに搭載された、当時の2リッター自然吸気エンジンとしては高出力の170馬力を発揮する2リッターV6エンジンは、吹け上がりやフィーリングの評価もさることながら、加速性能も当時の2リッターFFスポーツで最高レベルでした。

セダンにせよクーペにせよ、「2人乗りならスポーツ、4人乗りならセダン」をコンセプトとしただけあって、立派なスポーツセダン/スポーツクーペとして成立しています。

これで当時の風潮に従って安易な3ナンバー化に走らず、5ナンバー枠に収めた上で、当時最新の衝突安全基準を全方位で満たしていたなど、とにかく大きいことは良いことだと思われていたバブル時代より、むしろバブル崩壊後の倹約時代に向いている車です。

あいにくマツダの経営が火の車どころではないことや、車種ラインナップを急増させた際の製造現場の混乱もあり、特にクロノスシリーズで品質問題を抱えてしまったのは広く世に知られてしまったため、「マツダ車」という時点で日本国内の販売が思わしくないのは目に見えていましたが、販売実績は悪くとも後世に語り継がれる高い評価を得ています。

もちろん、日本でのマツダブランドの評価とは無縁な海外では、2代目マツダ323F(初代はファミリアアスティナ)として好評をもって迎えられ、日本よりも長く販売されました。

ツーリングカーレース仕様のランティスは近年まで現役のものがあり、2014年にはBTCCのサポートレースにも参戦/ Photo by Simon Williams

また、スポーツセダンとして日本のJTCC、イギリスのBTCCなど、4ドア車のツーリングカーレースにも投入されましたが、好成績を残すだろうという下馬評に対し、根本的にはよく回るV6エンジンが重くてフロントヘビー傾向だったことに祟られ、JTCC末期にはファミリアセダンへ交代させられました。

BTCCなどに出場した現地名マツダ323F(2代目)も、好成績を残せなかったという意味では同じでしたが、面白いことに323Fのレース車は所有者を転々と変えつつヨーロッパ各地のツーリングカーレースへ参戦を続け、2013年にはギリシャのレースで、2014年にはBTCCの前座レースで走ったらしい記録が残っています。

主要スペックと中古車価格

マツダ ランティスクーペ/ 出典:https://www2.mazda.com/ja/100th/cars/detail_032_lantis.html

マツダ CBAEP ランティス クーペ タイプR 1993年式
全長×全幅×全高(mm):4,245×1,695×1,355
ホイールベース(mm):2,605
車重(kg):1,210
エンジン:KF-ZE 水冷V型6気筒DOHC24バルブ
排気量:1,995cc
最高出力:125kw(170ps)/7,000rpm
最大トルク:180N・m(18.3kgm)/5,500rpm
10・15モード燃費:11.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット
(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
39万~119万円・5台

マツダ ランティスセダン Photo by Spanish Coches

マツダ CBAEP ランティス セダン タイプR 1993年式
全長×全幅×全高(mm):4,490×1,695×1,355
ホイールベース(mm):2,605
車重(kg):1,200
エンジン:KF-ZE 水冷V型6気筒DOHC24バルブ
排気量:1,995cc
最高出力:125kw(170ps)/7,000rpm
最大トルク:180N・m(18.3kgm)/5,500rpm
10・15モード燃費:11.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット
(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
皆無


実績に恵まれなかったものの、鮮烈な印象を残したランティス

マツダ ランティスクーペ/ Photo by peterolthof

日本での販売は1997年末に終了し、JTCCへの参戦も1996年シーズン初期で終了するなど、販売面でもモータースポーツの成績でも国内では全く振るわなかったランティス。

しかしその秀逸なデザインや、ファミリーカーとしては少々硬すぎるものの、走り好きには刺さるサスペンションセッティングによく回るエンジンなど、芳しくない実績とは裏腹に、人々の心を捉えて離さず、後々まで語り継がれる不思議なほどの魅力がある車でした。

しかし、そうして語られる思い出のほとんどは「4ドアクーペのランティス」であり、当時それなりに見かけてユーザーも少なくなかったはずの「4ドアセダンのランティス」についてはほとんど語られず、公式のマツダ100周年サイト「歴代のマツダ車」でも語られないなど、少々寂しい扱いになっています。

中古車市場でも4ドアセダン版はほとんど見かけない絶滅危惧種となっているため、ランティスについて語る時には、「ちょっと地味だけど中身はクーペと一緒な4ドアセダンのランティスもあったんだよ」と、ほんの少しでも思い出してあげてもらえると幸いです。

 

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