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1990年前後に、販売網の5チャンネル体制を試みたマツダは、ミドルクラスセダンの「クロノス」をベースモデルとして、各ブランドごとにデザインや車格を変えた車種を投入し、拡販を図りました。「オートザム」ブランドで販売された4ドアサルーン「クレフ」もそんな1台で、販売こそ全く振るわなかったものの、他のオートザム車と共通イメージの個性的なデザインが特徴です。

ートザム クレフ / 出典:https://www2.mazda.com/ja/100th/cars/detail_029_clef.html
ラインナップ不足のオートザムに投入された4ドアサルーン「クレフ」

1990年のオートザム店 / 出典:https://www2.mazda.com/ja/100th/virtual_museum/gallery/gallery007.html
オートザム クレフという車はなぜ誕生したのでしょうか?その理由を語るには、まずマツダが大規模な国内販売拡大を夢想して打ち立てた、「5チャンネル体制」の説明が欠かせません。
1970年代の危機を新たなロータリースポーツ、初代サバンナRX-7や、FFコンパクトカーとして大人気となった5代目ファミリアのヒットで乗り切ったマツダは、1980年代末に思い切った販売網再構築と、急速な拡大による大拡販を試みます。
それが最終的にマツダ店・アンフィニ店・ユーノス店・オートザム店・オートラマ店による5チャンネル体制で、マツダオート店を改称したアンフィニ店と、従来からのマツダ店以外は、積極的に他業種からの参入を受け入れ、しかもマツダ店以外は基本的に「マツダ」ブランドではなく、それぞれの販売チャンネル名をブランド化(オートラマだけは「フォード」)した車を販売。
オートザム店は従来のマツダモータース店に代わり、個人経営など小規模な整備工場や中古車販売店を中心に、他チャンネルとは少し毛色の異なるデザインをラインナップしていたのが特徴で、軽乗用車「キャロル」、軽商用車「スクラム」(スズキ キャリイ/エブリイのOEM)、軽ミッドシップスポーツ「AZ-1」、2ドアスポーツクーペ「AZ-3」、コンパクト4ドアセダン「レビュー」などが販売されていました。
他にも、輸入車としてイタリアからランチアやアウトビアンキの車を輸入販売しており、OEM車を除けばコロンとして可愛いデザインが特徴の「オートザム」ブランド車と、WRCでも活躍したデルタなどのランチア車、コンパクトカーのアウトビアンキ Y10といったイタリア車を並べた、ちょっと小洒落た雰囲気を特徴としています。
ただし販売面では、当時のアルトをベースにマツダオリジナルのボディとし、女性を中心にソコソコ人気の出た「キャロル」と「レビュー」以外は全くの鳴かず飛ばずで、キャロルのお店に高額なイタリア製輸入車を買いに行くユーザーも少数派だったため、高額なイタリア車とレビューの間を埋める実用的な車種が求められました。
そこで1992年5月にさっそうとデビューしたのが4ドアサルーンの「クレフ」でしたが、既にバブル崩壊後の経済失速により、マツダの5チャンネル体制も不気味な音を立てて亀裂が走り始めていた頃で、最初から不吉な予感はあったのです。
「クロノス」シリーズのオートザム版

オートザム クレフ/ 出典:https://www2.mazda.com/ja/100th/virtual_museum/gallery/gallery007.html
マツダの100周年記念特設サイト「MAZDA 100TH ANNIVERSARY」によれば、クレフを評して、こう書かれています。
”若々しい感性に訴えることを狙って開発され、当時のマツダのV6エンジン搭載車の中で、もっともスポーティさや明るさに振った4ドアセダンと言えます”
マツダ5チャンネル体制の核として、各ブランド(チャンネル)向けに多数の派生車を排出したV6エンジン搭載の4ドアサルーン「クロノス」シリーズの1台で、ベースのクロノス(1991年10月発売)は当初1.8リッターと2.0リッターの2種類のV6エンジンを搭載。
駆動方式はFFのみで、それぞれ5速MT車と4速AT車をラインナップし、末期には2.0リッター直4搭載の4WD車や、2.5リッターV6も追加されました。
これがオートザムの「クレフ」では、2.0リッターと2.5リッターの2種のV6エンジンを搭載したFF車、そして最初から2.0リッター直4の4WD車が設定されており、カタログ上の全長・全幅はやや小さいものの、全高は同じで車内寸法は全高が20mm低くなっています。
最大の特徴は全体的に曲面を多用した滑らかなボディで、確かにスポーティとも言えますが、フォグランプを埋め込んだグリルレスのフロントマスクはキャロルと同じで、2.0~2.5リッター級4ドアセダンとしては少々軽快過ぎる印象です。
これでAZ-3や、せめてレビューと共通の印象を持たせていれば、FFスポーツセダンとして人気が出る余地もあったかもしれませんが、当時「クロノスシリーズ」で多数の車種を同時開発・生産・販売に踏み切っていたマツダ社内は多忙を極めたあまり、デザインの方向性についてやや混乱があったのかもしれません。
また、スポーティさに振ったというデザインはともかく、全車4速ATのみで5速MTの設定がないのは当時としてはまだ時期尚早で、スポーツセダンとしてもユーザー層を限定してしまい、オートザム店の主力である小規模店は、このような3ナンバー車を常時展示できるほど広くない店も多数ありました。
さらに、「キャロルやレビューを買いに来る女性層中心のユーザー」が、4ドアサルーンを求めていたかという根本的な問題もあったようで、クレフの販売は月販100台も怪しいほどの低迷ぶりとなってしまい、実際に新車販売当時でも見かける機会はかなり少なかったと思います。

クレフの末期に追加されたグリルつきのリミテッドX / 出典:https://iheartjapanesecars.wordpress.com/2015/11/07/92-94-mazda-clef-geepa/
末期にはフロントグリルつきの「リミテッドX」も発売されましたが時既に遅しで、知名度が非常に低い上に、グリルの造形も元のプロポーションを崩さない範囲に留めたようで、「レア車中のレア」が追加されただけという印象です。
主要スペックと中古車価格

オートザム クレフ / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=19248&width=1440
マツダ GE5PA オートザム クレフ V6 2.5タイプXS 1992年式
全長×全幅×全高(mm):4,670×1,750×1,400
ホイールベース(mm):2,610
車重(kg):1,270
エンジン:KL-ZE 水冷V型6気筒DOHC24バルブ
排気量:2,496cc
最高出力:147kw(200ps)/6,500rpm
最大トルク:224N・m(22.8kgm)/5,500rpm
10モード燃費:9.7km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F・R)ストラット(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
流通なし
現存していれば、相当なレア車

オートザム クレフ / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=19248&width=1440
5チャンネル体制の崩壊とともに、「クロノスの悲劇」として語られる事の多いクロノスシリーズの中でも、飛び抜けてレア車扱いされているクレフですが、実際の販売期間も1992年5月から1994年12月までの約2年半ほどに過ぎず、規格変更や規制の問題、限定車といった理由で短期間の販売に終わったものを除けば、かなり寿命の短い車でした。
その後は特に後継車があったわけではなく、オートザム店自体もマツダオートザム店として「旧オートザム店のマツダ店」のような扱いで生き残れなかった店もあり、ユーノスやアンフィニ同様、「バブル時代のマツダの夢」に終わります。
オートザムブランド自体はAZワゴン(スズキ ワゴンRのOEM)やAZオフロード(同ジムニー)の「AZ」としてしばらく名残が残され、キャロルのヒットでマツダの軽自動車販売はそれなりに定着しましたが、オートザムオリジナルの4ドアスポーティサルーンは、後にも先にもクレフだけで、現存していればかなりのレア車です。
どこか憎めないフロントマスクを見ていると、「あの頃はこういうデザインでもありだったのか」と一瞬思いますが、考えてみるとあの頃でもアリ…ではなかったからこそ短命に終わることになりました。オートザム クレフとは、そんな車です。
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