国産車メーカーは、様々な会社が参入しては消えていくを繰り返して今に至るのですが、ここまで残っているメーカーは「もうダメかも、という時に現れたヒット作が救世主となった」パターンが多く、例えばマツダは2度も救世主に救われたしぶといメーカーです。そのマツダで1度目の救世主となったのが、5代目ファミリア。歴代初のFF車だった事から、「初代FFファミリア」とも呼ばれています。
めげないマツダの救世主、クラス最後発FFハッチバック
1960年代に4輪乗用車市場へ参入し、西ドイツ(当時)のNSUと提携したロータリーエンジン開発に成功するや、世界初の2ローターロータリーを搭載したコスモスポーツやファミリアロータリークーペなどで未来のエンジンを作ったメーカーと、大きく名を上げたマツダ。
それまでの3輪/4輪小型トラックや商用車メインから、高性能スポーツイメージにチェンジして売り出し、厳しい排ガス規制に対してもサーマルリアクター方式の導入で、「クリーンなエンジン」とされました。
しかし、1973年に第4次中東戦争の影響で第1次オイルショックが起きるとガソリン価格が高騰。自慢のロータリーは「アメリカンV8エンジンより燃費が激悪なエンジン」とされ、ロータリーに傾倒しすぎたために高効率レシプロエンジンでは出遅れていたマツダ車は、一気にソッポを向かれてしまいます。
そして一時は、広島の山という山に売れないマツダの在庫車があふれていたとまで言われる苦境の時期を何とか耐え忍び、1978年には初代RX-7でロータリー復活の狼煙を上げるも、1979年に今度はイラン革命の影響で第2次オイルショックが巻き起こりました。
4代目ファミリアのスマッシュヒットで立ち直りかけていたマツダも今度こそと危ぶまれましたが、そんな絶妙のタイミングで1980年6月に登場するや、大ヒットとなったのが5代目BD型ファミリアです。
初代フォルクスワーゲン ゴルフ(1972年発売)以来、世界中の小型車で主流になっていたFF(前輪駆動車)化への波にも取り残され、国産車メーカーでは最後発のFFコンパクトカーとなった5代目ファミリアでしたが、それだけにもっとも洗練されていた事で、「和風ゴルフ」との位置づけを獲得。
1980年の第1回日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したほか、1982年から1983年にかけては計8回にわたり、同クラスライバルのトヨタ カローラや日産 サニーを抜き去って、月間販売台数トップを記録します。
そして倒産しかけた悪夢再びという状況から一転し、1980年代のマツダ黄金期を築き上げる原動力となったのです。
FFの長所を活かしたパッケージと洗練されたデザイン
5代目ファミリアでは、まだFRだった先代で好評を得た3ドア/5ドアハッチバックに加え、少し遅れて4ドアセダンも追加。ライトバンだけは、5代目に合わせたフェイスリフトのみでFRの旧型が継続生産されました。
そのなかで大ヒットとなったのは3ドアを中心としたハッチバック車でしたが、リアハッチ開口部が横長のテールランプユニットより上だったため、積み下ろしの容易さという意味では古臭く、リアハッチが前傾しすぎてラゲッジルームが狭い、後席ヘッドスペースに余裕がないという問題が残されていました。
しかしデザイン上はスポーティで、ヘッドレストを外してフルリクライニングすれば、後席とのフルフラットも可能だった前席や、前に倒せばラゲッジ拡大、後ろへのリクライニングも左右独立で可能な後席など、快適性が確保(4ドアセダンもトランクスルーあり)されていました。
さらにラゲッジスペースは二重構造で、床下にも収納スペースを設けるなど、リアデフに邪魔されるFR車では不可能なFFならではのスペース効率が追求された点は、さすがライバルを研究し尽くした最後発FFコンパクトだけはありました。
FFレイアウトも、マツダ初のFF車だったルーチェ・ロータリークーペとは異なり、エンジンとミッションを直列で横置きしたジアコーサ式で、エンジンルームが前後スペースに占める割合は最小限。
4輪独立懸架のストラット式サスペンションも、リアは2本のロアアームと長いトレーリングアームを組み合わせてナチュラルなトーコントロールを行い、コーナリング時の安定性が抜群な「SSサスペンション」を採用するなど、「クセがあって乗りにくい」とされた初期横置きFF車のネガティブ面を見事に克服しています。
新開発の1.3&1.5リッター直4エンジンも従来型からの小型軽量化に成功。SOHC2バルブ式で尖った高性能はありませんでしたが、1.5リッター版へEGI(電子制御燃料噴射)を採用した「XGi」グレードの追加や、同ターボ版の追加で、動力性能も段階的に充実していきました。
そうしたメカニズム面やパッケージ面よりまずウケたのは、洗練されたウェッジシェイプ(クサビ型)と角目2灯ヘッドライトによるスッキリしたデザインで、赤いファミリアXGのルーフへサーフボードを載せればナンパでも好評とされ、「陸(おか)サーファー」、「赤いファミリア」を代名詞とした、大ヒットを巻き起こしました。
主要スペックと中古車価格
マツダ BD1051 ファミリア XGi 1983年式
全長×全幅×全高(mm):3,955×1,630×1,375
ホイールベース(mm):2,365
車重(kg):830
エンジン:E5 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,490cc
最高出力:63kw(85ps)/5,800rpm(※グロス値)
最大トルク:121N・m(12.3kgm)/4,000rpm(※同上)
10モード燃費:15.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット
(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
80万円・1台
古きよき青春時代の1ページに欠かせぬ1台
ファミリアは4代目も、映画「幸せの黄色いハンカチ」に使われたり、利便性の高い5ドアハッチバック車がヨーロッパでウケるなど、スマッシュヒット。
知名度の上がったところで最新FFコンパクトとして5代目が登場したのも、各社のFFコンパクトがほぼ出揃ったという絶妙なタイミングで大ヒットとなり、苦境のマツダを救います。
現在の視点で見ると、低すぎるルーフによるヘッドスペース不足や、荷物の積み下ろしなどの使い勝手に残る課題など、旧時代を引きずった部分も多いモデルですが、当時としては考えられる限りの工夫を凝らし、ユーザーの絶大な支持を受けた車です。
幼少の頃や青春時代の1ページに登場するなど、記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。
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