軽スーパーハイトワゴンに次いでライバル争いが激化しているのは、軽クロスオーバーSUV市場ですが、現在のブームに火をつけたスズキ ハスラーの有力な好敵手として健闘しているのが、ダイハツのタフトです。そんなタフトの精神を持つダイハツ軽SUVは、過去にも存在しています。1999年に発売された「ネイキッド」とは、どんな車だったのでしょうか?

ダイハツ ネイキッド / 出典:https://www.favcars.com/daihatsu-naked-1999-2003-wallpapers-395672.htm

ダイハツ初の軽クロスオーバーSUV「ネイキッド」誕生まで

東京モーターショー1997へ出展されたネイキッドX070 / 出典:https://www.allcarindex.com/concept/japan/daihatsu/naked-x070/

ダイハツ工業という会社は、もともとエンジン屋の「発動機製造」として創立され、オート三輪「ダイハツ号」で商用車市場へ参入したのは戦前の1930年代という古株ですが、1958年にはVシリーズ(ベスタ)で四輪商用車へ、1963年にはコンパーノで四輪乗用車にも参入しています。

そして軽自動車には1957年のミゼットで軽オート3輪へ、1960年には初代ハイゼットで軽四輪商用車へ、そして軽四輪乗用車へは1966年の初代フェローでの参入しているので、現在のイメージとは少々異なり、「軽自動車のダイハツ」としての歴史は意外と浅いものです。

自動車がようやく庶民の足として定着し始め、レジャー用途にも目が向けられるようになった1970年には、ハイゼットをベースにしたFRP製ボディのバギー車「フェローバギィ」を発売した事もありましたが、あくまで実験的な車種であり、市場の関心もあまり呼ばなかったと見えて、限定100台を売りきらなかったとも言われています。

その頃のダイハツは、まだ自社オリジナルの小型車に未練を残しており、1967年以来の提携先(と言っても、当時から実質は親会社)のトヨタに新しい小型車の開発許可を求めつつ(後の初代シャレード)、「あなた方はまず軽自動車をしっかりおやりなさい」と叱咤されていた頃です。

時にはフェローMAX SSやフェローバギィのようにぶっ飛んだ車も作りつつも、基本的にマジメで堅実で使い勝手の良い軽自動車メーカーとして、着実に成長を重ねていきました。

そんなダイハツが初めて軽SUV的なモデルを作ったのは1992年で、3代目(L200系)後期のミラ 3ドア4WDターボをベースとし、最低地上高を上げてバンパーガードやアンダーガード、背面スペアタイヤなどを装着した、当時流行りのRVルックな「ミラRV-4」を発売します。

現在なら「流行のクロスオーバーモデル」としてもてはやされそうですが(ミライースやミラトコットをベースに作りませんかね?)、当時はただの珍車扱いで大ブームとはいきませんでした。

しかし確実にこの種の車の需要があると考えたのか、1997年の東京モーターショーに1台のコンセプトカーを出展。それが「ネイキッドX070」で、既に後に市販化されたネイキッドそのものに見えますが、ベースは4代目ミラや初代ムーヴと同じ旧規格軽自動車のため一回り小さく、搭載されたエンジンは直列4気筒ターボのJB-JLです。

完全平面のフロントガラスや全面キャンバストップ、軽量で折り畳み可能な脱着式リヤシートや脱着式で後ろ向きでも使用可能な助手席、上下開きの2分割テールゲートなど、後のネイキッドより遊び心が随所に散りばめられており、コンセプトとしては現在のタフトに近かったかも知れません。

ちょっと早すぎた軽クロスオーバーSUV「ネイキッド」

ダイハツ ネイキッド /出典:https://u-catch.daihatsu.co.jp/catalog/NAKED/

そのまま市販してもおかしくないクオリティだったネイキッドX070ですが、翌年には軽自動車規格が現行の新規格へ変わるのがわかっていたため、さらにテストを重ねて細部を煮詰め、ダイハツの新規格軽自動車第1世代の1台として、1999年11月に発売されました。

このダイハツ第1世代は、軽商用車を除いてもベーシックな5代目「ミラ」、クラシック調の「ミラジーノ」、トールワゴンの2代目「ムーヴ」、軽4ドアハードトップセダンの2代目「オプティ」、スポーティな軽セミトールワゴン「MAX」、軽クーペカブリオレの初代「コペン」と、実に多彩な顔ぶれが並び、その後の方向性を決めた面白い時期です。

ネイキッドもそうした定番および実験的車種の1台としてラインナップされ、X070からは脱着式シートや上下2分割テールゲート、全面キャンバストップなど、継承されなかった部分もありました。

しかし、大部分が同一形状、かつ外付けヒンジで90度開閉可能な前後ドア、外側からのボルト止めで簡単に脱着交換可能なバンパーやフロントグリル、何より骨格をむき出しにしたような外観とセミトリムで素材感たっぷりの内外装、オフローダーらしい丸目ヘッドランプといったデザインやコンセプトはそのままです。

メカニズムはミラやムーヴと同じで、4WDシステムも電子制御などない単純なVCU式スタンバイ4WDでしたが、180mmとたっぷり余裕を持たせた最低地上高により、クロスオーバーSUVとしての素質は十分。それでいながら大部分のタワーパーキングで制約内に収まる全高1,550mmによって、町中での使い勝手も良好です。

つまり現在ならさぞかし使い勝手の良さそうな、そして見栄えもするクロスオーバーSUVとして人気が出そうな車でしたが、現在とは異なり、当時はこうした車は「なんちゃってRV」などと呼ばれて、あまり見栄も張れなかった時代でした。

それでもネイキッドの先進性に目をつけたユーザーは、多数派でなかったとはいえ大歓迎で、自動車への辛口評論で鳴らしていた芸能人のテリー伊藤氏も大絶賛。後に「ネイキッド-@1.(アットワン)」という、テリー伊藤プロデュースの特別仕様車が誕生しています。

ダイハツ ネイキッドF / 出典:https://u-catch.daihatsu.co.jp/catalog/NAKED/GRADE__5003691/

しかし、あまりにも先進的すぎたこと、あるいはその内外装とパッケージングに対し、あとホンの少しでもSUVらしい性能を与える電子制御技術(例えばスタック防止用のブレーキや超低速巡航機能など)などがあれば、未来は変わっていたかもしれません。技術力がまだ育っていなかったのが、ネイキッドにとっての災いでした。

ジムニーやパジェロミニほどの悪路走破性はなく、ムーヴのように広くもない中途半端な車として販売は低迷。2002年1月には角型ヘッドライトと横基調フロントグリルで都会派を気取った「ネイキッドF」を追加するも、2004年4月にはモデルチェンジされることもなく、あっさりと販売を終了し、現在は絶版車となっています。

主要スペックと中古車価格

ダイハツ ネイキッド / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=12337&width=1440

ダイハツ L760S ネイキッド ターボGパッケージ 1999年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,550
ホイールベース(mm):2,360
車重(kg):840
エンジン:EF-DET 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
排気量:659cc
最高出力:47kw(64ps)/6,400rpm
最大トルク:107N・m(10.9kgm)/3,600rpm
10・15モード燃費:18.0km/L
乗車定員:4人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)3リンク

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
1.0万円~99.8万円・259台

ネイキッドの精神は現在の「タフト」へ

ダイハツ ネイキッド / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=12337&width=1440

当時の軽クロスオーバーSUVで、あえなく脱落したのはネイキッドだけではありません。

ホンダ Z、三菱 ekアクティブは短命で、スバルもプレオに設定していたRV調オプションがマイナーで終了。スズキ keiはロングライフモデルとなりましたが、軽SUVにこだわらず、アルトワークス後継の軽スポーツに活路を見出したからと言っても過言ではありません。

ジムニーのような本格派はともかく、軽クロスオーバーSUVなどそうそう売れるものではないと思われていましたが、2014年にスズキがハスラーで再興させると、軽自動車ブームにのってヒット作になり、一躍注目されるようになったのは最近の話。

ダイハツも過渡的なモデルとしてキャストアクティバでつないだ後、2020年に本格的な軽クロスオーバーSUV「タフト」を登場させましたが、その姿はネイキッドの再来というべきものです。

16年越しで蘇ったネイキッドの亡霊が、立派にハスラーとシェア争いを繰り広げているのを見ると、多少コンセプトは新しくなっているとはいえ、かつてのネイキッドファンにとっては懐かしく、嬉しい話なのかもしれません。

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