英国製エンスー車の入門編として知られるMGBは、1.8リッター直4か3.5リッターV8を搭載した軽量オープンスポーツ/スポーツクーペでしたが、まだ1.8リッターしかなかった頃にあったモアパワーの声と、モデルライフ末期のオースチン・ヒーレー3000後継を兼ね、3リッター直6が搭載されたのがMGCでした。かなり強引な作りのため不評の声が多かった一方で、それゆえ愛着のある人もおり、「偉大なる失敗作」とも言われています。
MGBへ直6を詰め込んだビッグ・ヒーレー後継、MGC
1962年に発売されたイギリスのオープンスポーツ「MGB」は、モノコックボディの採用により、前作となるMGAより大型化しつつも同等の重量に収められ、足元スペースを中心に車内の快適性も向上するなど正当進化。
搭載されたのはBMCのBタイプエンジンだったものの、1.8リッターへ排気量アップして、動力性能もまずまずでした。
そのため主要市場の北米を中心にヒット作となり、1970年代まで通して生産されるロングセラーになりましたが、その一方で、同じBMC傘下で1959年より販売されていた「ビッグ・ヒーレー」ことオースチン・ヒーレー3000のモデルライフは、1967年には終わりを迎えようとしていたのです。
そこでBMCでは相変わらず好調のMGBへビッグ・ヒーレーのエンジンに手を加えた2.9リッター直6エンジンを搭載し、MGBに大排気量ハイパワーを与えた兄貴分として、MGB同様オープンモデルの「MGC」、クローズドボディのハッチバッククーペ「MGC GT」を1967年に発売しました。
少々強引過ぎたか、MGBとかなり性格の異なる車へ変貌
もともとエンジンルームに余裕のあるMGBでしたが、3リッター直6となるとさすがに強引に詰め込まねばならず、まずボンネットにはエンジンが収まるように膨らみが設けられました。
そして、キャブレターのクリアランスのためには、左側へさらに膨らみを設けなばなりません。
フロントの足回りもMGBのダブルウィッシュボーン式が収まらないのであきらめ、横置きトーションバーで代用した結果、接地性や操縦性が悪化して、エンジン自体の重量増と合わせてMGB本来の軽快な操縦性は失われています。
それでも大排気量化による最高出力、最大トルク向上は確かに効果があり、軽快に振り回すライトウェイトスポーツというより、粛々と余裕を持って高速巡航を行うツアラー的な車へ仕上がりました。
そのため、その大排気量を活かせるステージへレーシングモデルの「MGC GTS」を持ち込み、適正なセッティングを行えばそれなりの戦闘力はありましたが、基本的に重量バランスが崩れているだけでなく、フロントサスもエンジン優先で妥協した産物となるなど、ドライバーにはなかなか高いスキルが要求されました。
おまけに、1.8リッター直4用のエンジンルームへ3リッター直6を詰め込んだため、寸法はどうにかなっても冷却性能や放熱性などの熱問題はいかんともしがたく、ノーマルのままでは日本の夏場のような高温多湿気候で渋滞などハマると、あっという間にオーバーヒートするのも問題です。
結局、MGCの販売実績は不振で、1969年までのわずか2年ほどで生産を打ち切られ、在庫の販売も1970年には終了。MGCは、それっきりのレア車となりました。
主要スペックと中古車価格
MG MGC GT 1967年式
全長×全幅×全高(mm):3,900×1,520×1,270
ホイールベース(mm):2,310
車重(kg):1,183
エンジン:水冷直列6気筒OHV12バルブ
排気量:2,912cc
最高出力:108kw(147ps)/5,250rpm
最大トルク:231N・m(23.5kgm)/3,500rpm
燃費:-
乗車定員:2人
駆動方式:FR
ミッション:4MT
サスペンション形式:(F)ダブルIアーム縦置きトーションバー・(R)リーフリジッド(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
流通なし
手がかかるほど趣味車としては魅力的な「偉大なる失敗作」
結局、MGBの大排気量モアパワー策としては、アルミブロックでBタイプ直4エンジンより軽く、大排気量ハイパワーといい事づくめなローバーV8エンジンを使えるメドがたったため、1973年に登場したMGB GT V8で全て丸く解決します。
MGCは最初からそこまでの「つなぎ役」とも考えられますが、それゆえか鉄製で重い直6エンジンを積むにあたって本格的にコストのかかる対策が行われた形跡が乏しく、安直に作られた車という印象は拭えません。
しかし、これが趣味車となるとアレが壊れる、コレが劣化する、すぐにオーバーヒートするなどと手がかかり、工場でドック入りしている期間の方が長いと言われるほど、可愛くなって愛情を注いでしまうものです。
そうした車をなんとかマトモに走らせ、あわよくば好調なコンディションを維持して「ウチのMGCはそう簡単に壊れないよ!まあここまで来るには…」と、話のタネを豊富にしたいエンスーにとって、MGCという車は「フトコロは寂しくとも、人生をすばらしく豊かにしてくれる、偉大なる失敗作」だと言えます。
なお、筆者も少々古くて何かと手がかかる車に乗っているので共感できますが、そういう車に乗っていると、何も起きないとかえって不安に感じてしまうものなので、困ったものです。
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