スイスの時計メーカー『スウォッチ』が販売する、シンプルでありながらオシャレな腕時計、その名も『スウォッチ』。1990年代に日本でもかなりの大ブームとなりましたが、その勢いに乗じ『自動車に参入してスウォッチカーを出す!』と聞いた時には驚き、開発・生産担当のパートナーがダイムラー・ベンツと聞いてさらに驚いたものでした。それが、現在も販売されているスマート・フォーツーの始まりです。

掲載日:2018/11/13

初代スマート フォーツークーペ(デビュー時はスマートクーペ) / 出典:http://www.smart-j.com/20th/

 

え、スウォッチの車ができるの?作るのはダイムラー・ベンツ?!

 

まだ『スウォッチカー』と呼ばれていた1994年発表のコンセプトカー / Photo by Joe Simpson

 

1990年代に青春時代を過ごした人なら、『スウォッチ』の腕時計をつけていた人も多いと思います。

カシオのGショックのように多機能でも、ゴツゴツしたタフさもありませんでしたが、シンプルなのに高級感あるデザインの妙と、豊富なカラーリングは単なる時計に留まらず、腕のアクセサリーとしてもさりげないアクセントになっていました。

スウォッチが『スウォッチカーで自動車業界に参入する!』というニュースが流れた時には、「まあ、スウォッチっぽいシンプルで洒落た小さな車を作るんだろう。」、と想像しましたが、実際に作るのはダイムラー・ベンツだと聞いて、少し不安に思ったのは事実です。

ダイムラー・ベンツといえば高級車部門のメルセデス・ベンツであり、高級輸入車の定番となってはいましたが、ダイムラー・ベンツとスウォッチの合弁会社MCC(Micro Car Corporation)が設立された1994年は、まだ初代Aクラスすら発売前でした。

しかも、コンセプトモデルの『スウォッチカー』が発表されると妙に寸詰まりのコロンとした車だったので、スウォッチらしさのあるデザインはさておき、「ベンツがこういう車を作れるの?」と興味津々。

実際、メルセデス・ベンツ初のFF小型車『Aクラス』は、1997年の発売早々にメディアのテストで横転しやすい事が発覚し、リコールの上で対策を余儀なくされて、さしものメルセデスも未経験分野では勝手が異なり、熟成に苦労する姿が露呈してしまいます。

とはいえ、さすがに1998年に発売された初代スマートクーペ / スマートカブリオには大きな問題はありませんでしたが、問題なく使えて環境性能も高く便利、と浸透して採算ベースに乗るまでには長い時間がかかり、その間にスウォッチは撤退してしまいました。

 

日本的な感覚では『オシャレな2シーター軽自動車』、後にスマートKも追加

 

初代スマート フォーツークーペ  / Photo by JK B

 

初代スマートクーペ / カブリオ(後にスマートフォーツー)は、クローズドボディまたは、ルーフとリアウィンドウまで開いて後方に畳めるカブリオの2種類からスタートします。

598ccターボエンジンをリアに搭載して後輪を駆動するRRレイアウト。

オートクラッチ式で3速副変速機と組み合わせて6速化した、シーケンシャル・セミATという独特のメカニズムを持っていました。

日本的な感覚では「600ccターボでこれだけ小さいと、軽自動車?」と思う人も多かったと思いますが、実際には全幅が少しはみ出す(1998年10月以降の軽自動車新規格が全幅1,480mm以内に対し、スマートクーペは1,515mm)ため登録車、つまり白ナンバー。

しかしリアフェンダーを若干加工すれば軽自動車登録が可能だったので、正規輸入開始前から並行輸入し、軽登録をしていた業者は多々存在しました。

 

出典:https://ja.wikipedia.org/

 

また、正規輸入が開始した後(2000年)もフェンダーをつめてタイヤを細くした日本仕様独自の軽自動車版『スマートK』が正規販売されています(2001年)。

全長は思い切り短く2,560mmしかありませんでしたが、2シーターなのでそれで十分かつ座席後方には広いとまでは言えないものの、きちんとした荷室があり、しかもテールゲートもあったので荷物の出し入れは楽など、実用性もバッチリ。

後にスズキが似たようなショートボディ2シーターの『ツイン』(2003年)を作りましたが、全長はスマートクーペより長いにも関わらず、コストダウンのためかテールゲートを省いたガラスハッチのみで、実用性を落としたのとは大きな違いです。

横から見ると背高寸詰まりボディに15インチホイールの大径(に見える)タイヤが短いホイールベースで配されていましたが、サスペンションセッティングに問題が無い限りこの方が安定性は高く、ツインやダイハツ・ミゼットIIも走り系のユーザーは似たようなタイヤホイールを履いています。

欠点としては、やはり熟成不足なのか、あるいは安定性重視のためか、前部に舵角を成約するものが無さそうなRR車にも関わらずフロントタイヤの切れ角が小さいため、最小回転半径が4.1m(ツインは3.6m)と、やや小回りに難があること。

ただ、この種の車はスペック上の取り回しに難があるように見えたとしても、運転席から四隅の把握は容易で、あまり問題にはなりませんでした。

なお、2003年8月のマイナーチェンジでクーペとカブリオはエンジンが698ccに排気量アップしていますが、軽自動車登録のスマートKは598ccエンジンのままで2005年12月まで販売されています。

また、5ドア5人乗りのスマート・フォーフォーが登場した2004年9月に先立ち、2004年5月から、それまでの2人乗りスマートはスマート・フォーツーのクーペ / カブリオ / Kとなりました。

 

主なスペックと中古車相場

 

初代スマート フォーツークーペ  / Photo by Joni-Pekka Luomala

 

スマート クーペ(フォーツークーペ) デビューパッケージ 2000年式

全長×全幅×全高(mm):2,560×1,515×1,550

ホイールベース(mm):1,810

車両重量(kg):750

エンジン仕様・型式:水冷直列3気筒SOHC ICターボ

総排気量(cc):598

最高出力:40kw(55ps)/5,250rpm

最大トルク:80N・m(8.2kgm)/2,000~4,500rpm

トランスミッション:6AT

駆動方式:RR

中古車相場:2万~159万円(クーペ/カブリオ/K/クロスブレード/ブラバスまで含む)

 

まとめ

 

初代スマート クロスブレード / 出典:http://www.smart-j.com/20th/

 

初期には販売不振が目立った初代スマート・フォーツーシリーズは、元々のコンセプトであったスウォッチ社が去り、ダイムラー・ベンツもいつまで続けられるかと冷ややかな視線で見られていましたが、気が付けば3世代目が今でも販売されています。

元々、ヨーロッパでは日本の軽自動車的な『クワドリシクル』などと呼ばれる2人乗りで低速用のマイクロカー市場が存在したので、同じ2人乗りながらも動力性能に優れていて使い勝手が良い以上、知名度の問題さえ解決すれば根付く土壌はありました。

日本でも「4人乗れる軽自動車があるのだから、いらないのでは?」と言われつつ、類似コンセプトのスズキ・ツインが廃止されても地道に販売を続け、今やすっかり市民権を得ています。

知名度アップのための話題作りにも熱心で、シート左右と後方の乗員保護バー以外は窓もルーフもドアも無い『クロスブレード』など、遊び心ある実験的モデルも販売。

『日本の軽やコンパクトではできない所まで突っ込んでくれる車』として、今後にも期待が集まります。

 

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