自社で開発・生産できない車をどうしても売りたい時、他社モデルへ自社に合わせた装備やデザインを施して販売する手法は現在でも主に軽自動車やコンパクトカーで行われていますが、かつては大型高級車を生産できないメーカーが海外メーカーから輸入販売、自社ブランドで販売する試みも行われていました。その1台が初代デボネア後継となる可能性もあった三菱 クライスラー318です。

掲載日:2019/06/19

三菱 クライスラー318 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=24231

 

初代デボネアのモデルチェンジ費用が捻出できない三菱、窮余の一策

クライスラー by クライスラー(三菱 クライスラー318の輸出元モデル)  / Photo by sv1ambo

 

1960年の三菱500から4輪乗用車市場へ参入していた三菱は、その後『コルト』シリーズや軽乗用車のミニカで車種ラインナップを拡大。

1964年には初代デボネアでついにトヨタ クラウンなどと並ぶ大型高級乗用車市場への参入も果たします。

しかし1969年のコルトギャラン(初代ギャラン)までヒット作に恵まれなかった三菱では、トヨタや日産のように高級乗用車でも大衆車のごとく短期間でモデルチェンジを行う余裕など全くない状況で、1970年代に入る頃には初代デボネアが早くも陳腐化し始めました。

さりとて新規開発もままならなかったものの、フルラインナップメーカーを目指した以上は高級乗用車市場からも撤退したくないという事情もあり、1970年にアメリカのクライスラー社と提携。

相互供給の一環としてクライスラー車を三菱ブランドで輸入販売する事になります。

そしていくつか候補に上がり、実際に販売された中でデボネア後継を狙ったとも言われる4ドアセダンは日本と同じ右ハンドル国であるオーストラリアで生産されていた『クライスラー・ヴァリアント』の高級モデル『クライスラー by クライスラー』に白羽の矢が立ったのでした。

ただし単なる輸入販売か、それとも部品で輸入して組み立てるノックダウン生産か、車名をどうかなど三菱で方針が定まらない時期があったようで、東京モーターショー1971では同時輸入のチャージャー770ともども『クライスラーの車』と素っ気ない名前で展示。

解説も何も無く唐突な感じはありましたが、既にクライスラーとの提携は世に知れていたので、当時の自動車雑誌などには『旧型車(デボネア)の後席にヘキエキしていた三菱グループの社長たちのためにデボネア後継とするようだ』などと書かれていたようです。
(※ただしボディサイズはむしろトヨタのセンチュリーなどに近い。)

そして、結局輸入した車を国内で日本仕様へ手直しし、『三菱 クライスラー318』の名で発売したのは1972年でした。

 

三菱高級セダンをクライスラー車へ切り替える夢は、オイルショックであえなく挫折

 

クライスラー by クライスラー(三菱 クライスラー318の輸出元モデル)  / Photo by Mic

 

元になったオーストラリア製クライスラー ヴァリアントは現地基準で言えば平凡なファミリーセダンでしたが、そこは三菱が高級車として売り出すだけあって、最高級グレードに5.2リッターV8エンジンを搭載するオプションパッケージ装着車を輸入。

元はドアミラーでしたが日本では認可前だったので、一旦三菱の名古屋製作所へ搬入してフェンダーミラー化するなど、日本仕様への手直しを行いました。

ちなみに同様の経緯をたどって販売された車には、いすゞ ステーツマンデビル(GM系のオーストラリア車ホールデン ステーツマン)や、マツダ ロードペーサー(ホールデン プレミアーへマツダが独自に13Bロータリーを搭載)があります。

いずれも自社ではとても扱えない大型最高級セダンのラインナップが欲しいという切々とした事情がありましたが、そうした希望は1973年10月の第4次中東戦争を契機に起きた、第1次オイルショックで全て吹っ飛んでしまったのです。

そのため元より高額で売れていなかった上に、パワフルならガス食いな大排気量V8エンジン車など公用車や社用車に使っていたら、省エネが叫ばれている世の中で何を言われるか分かったものではありません。

1972年に129台、1973年も108台を販売していた三菱 クライスラー318でしたが、オイルショック直後に販売を中止して在庫処分にでもしたのか、1974年の4台を最後にそれっきり姿を消しました。

 

主なスペックと中古車相場

 

三菱 クライスラー318 / 出典:https://www.automobile-catalog.com/photo/1972/1903610/82391.html

 

三菱 クライスラー318 1972年式

全長×全幅×全高(mm):4,980×1,885×1,407

ホイールベース(mm):2,910

車両重量(kg):-

エンジン仕様・型式:水冷V型8気筒OHV16バルブ

総排気量(cc):5,210

最高出力:171kw(233ps)/-rpm

最大トルク:461N・m(47.0kgm)/-rpm

トランスミッション:3AT

駆動方式:FR

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

三菱 クライスラー318 / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=24231

 

もしオイルショックが無ければ、既に旧式化していた初代デボネアは22年間も作られることなくさっさと生産を終了し、三菱の高級乗用車はオーストラリア製クライスラー車に切り替わって三菱グループの経営者陣も広くて新しい車でゆったりと移動していたかもしれません。

しかしオイルショックでやむなく初代デボネアを継続生産した三菱は、仕方がないので2000年代はじめまで独力で高級乗用車を作り続けるハメになってしまいます。

もしデボネアの継続生産や2代目(デボネアV)へのモデルチェンジが無ければ、韓国のヒュンダイと高級乗用車の共同開発をする事も無く、ヒュンダイの現在に至る発展も違う形となって、高級車ブランド『ジェネシス』は無かったかもしれません。

そう考えれば第1次オイルショックと三菱 クライスラー318の販売終了は、地味なようでいて案外世界の自動車史へ大きな影響を与えた出来事だったのではないでしょうか?