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一時期のスバル車で特徴的だった「ドコドコ」言う排気音、「ボクサーサウンド」ですが、かつてはかなりマニアックな乗り物だったスバル車の人気が定着する中で、気がつくといつの間にか消えていました。同じ水平対向エンジンでも、VW ビートルやポルシェのそれとは異なるサウンドでしたが、なぜあの特徴的なボクサーサウンドが生まれ、そして消えていったのでしょうか?

元祖ボクサーサウンドの1台、スバルff-1 1300G / 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/
懐かしいかと思えば記憶にない?昔のスバルボクサーサウンド

時々乗せてもらった2代目レオーネもボクサーサウンドを奏でていたはず / 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/
スバルという自動車メーカーは、国産車の中どころか世界的にも珍しい「フロントに水平対向エンジンを縦置き搭載したFF、または4WD」というメカニズムを、小型車進出第一号のスバル1000以来、軽自動車やコンパクトカー(ジャスティやドミンゴ)を除き、現代まで一貫して採用し続けているのを、最大の特徴としています。
最初の小型車、スバル1000が発売された1966年というのは初代のトヨタ カローラや日産 サニーが発売された「当たり年」で、庶民が競ってファミリーカーを買い求める本格的なモータリゼーション時代の始まりという波にも乗り、貧弱な販売網ながらもある程度まとまった月販台数を記録して、手応えを得ます。
その原動力となったのがフロントのオーバーハングに搭載されたコンパクトな水平対向エンジンなどの斬新なメカニズムを採用したFF車であった事と、そのメリットを最大限に活かしつつ、フラットフロアにこだわって最大限の容積を確保したキャビンでした。
しかしスバル1000をベースに排気量の拡大など、改良を続けたff-1 1300Gまでの約6年や、後継のレオーネはボディデザインを近代化しつつ、3代にわたり1994年まで(以降は日産からADバンのOEM供給を受けたレオーネバンを2001年まで)販売しているうちに、スバル1000以来変わらぬところの多いメカニズムが障害となり、陳腐化がひどくなります。
そして1980年代半ばあたりのスバル車といえば「4WDというのはスゴイけど、最低地上高が高く妙に腰高で、内外装デザインも野暮ったく、よく言えばマニア向けの車」。
バブル景気の絶頂に向けて盛り上がる世間では、あまり目立たない存在になっており、急激な円高の進行で北米市場も不振だったため、自動車メーカーとしての存在すら危ぶまれていた頃です。
そのため、その頃のスバル車にも「ドコドコ」言う独特のボクサーサウンドがあったはずで、少なくとも不等長エキマニになったスバルff-1以降は、そのはずだと言われても「それなりにクルマ好きな少年」だったはずの筆者には、とんと記憶がありません。
同じ水平対向エンジンでも街ゆくビートルや日光街道を走り抜けるポルシェ911のバサバサ言う音は記憶に残っており、同じスバルでも隣の家に住んでいて休日にはよくキャッチボールに付き合ってくれたオジさんのR-2が奏でるポロンポロン言う2ストロークエンジン音はよく覚えていますが、親戚が乗っていたレオーネのボクサーサウンドなど、全く覚えていないのです。
現在Youtubeなどで聞けるレオーネ以前のスバル車はしっかり「ボクサーサウンド」を奏でているので、あるいは今のように静かな車ばかりではなかった当時、多少ドコドコ言う程度の車は、空冷ボクサーや2ストローク車の排気音に比べて目立たなかったのかもしれません。
意識した最初は初代のレガシィやインプレッサ

初代レガシィRSあたりから、記憶に残るボクサーサウンドを響かせます / 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/
鮮烈な記憶として残っているボクサーサウンドは、レガシィやインプレッサの初代モデルで、それもEJ20ターボを積んだレガシィRSや同ツーリングワゴンGT、インプレッサWRXといった、新世代スバル車以降の事。
それもマフラーの交換が自由になった1990年代半ばあたりから、低回転で「ドコドコ…」、回転を上げると「ズドドドド…!」と代わる、ボクサーサウンドを響かせる車が増えました。
トラックなども「マニ割り」と呼ばれる手法で「パパパパパ…」と独特なサウンドチューニングが行われたり、排気ブレーキに笛のようなものをつけて鳴らしたり、乗用車でもターボ車に社外のブローオフバルブ(軽ターボでも「プッシュンバルブ」などが有名)をつけて、ムキ出しのエアクリ吸気音と合わせて「シュゴ~プッシァア!」と、とにかく公道が普通の排気音と異なるいろんな音にあふれ、にぎやかだった頃です。
その中でもスバルの水平対向エンジンが奏でるボクサーサウンドの響きは独特ですぐわかりましたが、さらに時が過ぎて筆者がジムカーナへ参戦するようになると、4WDターボのクラスで主力車種だった初代インプレッサWRXで、高回転でズドドド!とボクサーサウンドを響かせる車と、シューン!と澄んだ排気音の車にキッパリと分かれているのに気づきます。
当時は知識がなかったのでただ不思議に思っていましたが、今思えばドコドコ、ズドドドと言わせていたのは純正の不等長エキマニ車で、それ以外は等長エキマニ換装車。どちらが速いかといえば断然、ボクサーサウンドを響かせない後者でした。
個性はともかく、排気干渉を伴わず、ボクサーサウンドを奏でない等長エキマニ車の方が、性能では断然上回っており、特に加速の伸びやレスポンスでは雲泥の差があったのを覚えています。
ドコドコいうボクサーサウンドの正体は、不等長エキマニの排気干渉音

EJ20DOHCインタークーラーターボを押し込み、いかにもキチキチでエキマニの取り回しに苦労しそうな初代インプレッサWRX / 出典:https://www.subaru.jp/onlinemuseum/find/collection/1st-impreza-wrx-sti/index.html
このボクサーサウンドの正体は、水平対向4気筒エンジンのエキマニ(エキゾーストマニホールド)が不等長な場合にエキマニの集合部分で生じる、排気干渉が原因とされています。
排気干渉自体は直列4気筒エンジンでも起きる上に、アメ車に多い90度V8エンジンでもドロドロ言う独特の「バブリーサウンド」を奏でますが、スバルの場合はEJ20ターボエンジンのエキマニの取り回しがたまたま盛大なボクサーサウンドを奏でるのに最適だったようで、同じEJ20でも自然吸気仕様や、EJ18、EL15などの小排気量車では、さほど印象に残りません。
筆者の母が以前ちょっとだけ乗っていた初代インプレッサCSの購入時、試しにEJ16エンジンを始動してもらったところ見事なボクサーサウンドを奏でましたが、「スイマセン排気系に不具合あるんで、納車までに直しておきます」と言われ、実際その後は静かなものでした。
また、20代半ば以降は基本的に軽自動車かコンパクトカー乗りとなった筆者にはおなじみのダイハツ直列3気筒エンジンでも、ある時にちょっとした不具合で2番(真ん中)シリンダーのプラグがスッポ抜けた事があり、その時も排気干渉で盛大なドコドコ音になった事があります。
こうした不具合がない限り、排気干渉が起きたところで、遠くからでもわかるほどハッキリとしたドコドコ音にはならないため、意図的かターボチャージャーなどのレイアウトの都合上やむなくなのか、大音量のボクサーサウンドは、初期のEJ20ターボ特有だったようです。
今では聞けなくなったかと思いきや、新開発のCB18エンジンでもドコドコ音が?

新しいレヴォーグやフォレスターのCB18エンジン搭載車では不等長エキマニを採用し、限定的ながらボクサーサウンドが復活 /出典:https://www.subaru.jp/levorg/levorg/gallery/photo
その後もレガシィは3代目、インプレッサでも2代目の途中くらいまでは不等長エキマニの採用が続いたのでボクサーサウンドが聞かれましたが、4代目レガシィの登場以降は等長エキマニへの更新や、サウンドチューニングによって、すっかり「普通の排気音」になりました。
スバル車が、かつての「マニア向け」から、高性能・高品質化によるプレミアムカーとしての価値を追求していくと、シンメトリカル4WDによる高い走行性能や安全性の高さで万人に受け入れられるようになって行った結果、個性的なボクサーサウンドは「ただの変な音」となり、排気干渉をなくして性能を追求する必要もあって、排気音の調整が行われています。
こうして近年は、「あえてボクサーサウンドを響かせるための社外品不等長エキマニ」へ交換した車以外、すっかりなりを潜めたボクサーサウンドですが、2020年12月に発売された2代目レヴォーグや改良で搭載されたフォレスターなど、新開発の1.8リッターターボCB18搭載車は不等長エキマニが採用されており、ボクサーサウンドが復活しています。
とは言っても、フルノーマルではしっかり対策されており「不等長エキマニでも普通の排気音」なのですが、STIパフォーマンスマフラーなどの社外品マフラーへ交換することで、エンジン始動から暖気が終わるまでの間、増幅されたボクサーサウンドを奏でるようです。
限られた条件下、それも全盛期より控えめとはいえ、ボクサーサウンドは健在!
厳しい燃費規制の問題でスバルのラインナップでもEV(電気自動車)やフルHV(ハイブリッド車)が今後は増えるとはいえ、それまでの間、「かつてのスバルらしさ」を楽しむ余地は、まだまだ残されています。