実は今でも海外では販売しているのですが、日本国内では販売を終了して10年以上になる、日産の本格高級クロカン4WDをご存知ですか?その名を日産 パトロールといい、日本では『サファリ』として1980~2007年まで販売される以前は、この名前が使われていました。そのルーツを辿れば1951年に開発された警察予備隊用の小型トラックにたどり着きます。
CONTENTS
三菱 ジープ、トヨタ・ランドクルーザー、日産 パトロールの元祖がそろい踏みした1951年
最近ではパジェロベースの新型に更新されてあまり見かけなくなってきましたが、自衛隊の1/2tトラック(旧名:73式小型トラック)には、三菱 ジープが長年使われてきました。
筆者も陸上自衛隊で昔乗ったことがあり、良く言えば実用一辺倒で信頼性は高そうな乗り物でしたが、73式以前も1/4tトラックの名でやはり三菱 ジープのもっと古い型を使っていたものです。
その元はといえば、自衛隊の前々身たる警察予備隊が創設されたばかりの頃、旧軍やアメリカ軍の使い古しばかり使用していたので、せめて小型トラック(というか小型野戦車)だけでも更新・増備せねばならないとして、三菱・トヨタ・日産の三社から競争入札を行った事が始まりでした。
その結果採用されたのが前述の通り、米ウイリスから生産権を得ていた三菱 ジープでしたが、トヨタと日産もそれぞれ民間や官公庁その他組織への販売を当て込み開発を続け、商標の問題で改名してそれぞれトヨタ・ランドクルーザー、日産 パトロールとなります。
パトロールの方は、一説によると『新国軍たる警察予備隊でダメだったんだから、警察や消防に売り込もう』という腹積もりだったようで、確かに筆者の実家の近所にある、とある公共組織でも震災の頃までパトロール(さすがに2代目)が予備車として大事にとってありました。
思い切ってジープより強力に?実情は他に適当なエンジンが無かったのではという話も
ともあれ、警察予備隊への入札に落選した日産版ジープ改めパトロールは、そのまま民需向け生産を始めます。
当時どのような生産体制だったかは伝わっていませんが、同様のルートで民需用となったトヨタ・ランドクルーザーなどは、設計図も無しで職人が手作りしており、2代目20系にモデルチェンジする際の輸出のために、初めて図面を引いたそうです。
パトロールも正規輸出は2代目以降のようなので、少なくとも初代は生産が本格化するか、役所から要求されるまで、図面無しで職人が各部品の寸法を現物合わせで作っていたのかもしれません。
従ってエンジンも場当たり的に当時使えそうなものを適当にあてがわれ、戦前設計のトラック用サイドバルブ3.7リッターのA型6気筒ガソリンエンジンが採用されました。
一方ライバルのジープはサイドバルブ2.2リッター4気筒ガソリンエンジンなので、それよりは強力そうに見えますが、それも初期の4W60型や4W61型の話。
4リッターに排気量アップしたC型を搭載した4W65まではサイドバルブですが、1959年にマイナーチェンジでようやくOHV4リッターのP型エンジンに換装されます。
ただ、このP型も全面新設計ではなかったようで、エンジンブロック側面にサイドバルブエンジンでも無ければ必要無いはずのバルブ・リフター点検穴が残されていました。
このP型は実に1980年代まで新車に搭載される長寿エンジンで、ある意味では質実剛健でした。
なお、デザインは同時期のランドクルーザーと比べて、エンジン搭載位置がフロントアクスルをまたぐほど前方だった分だけわずかにショートノーズ・ロングデッキであり、4W61からはグリルにメッキパーツがついて『鉄仮面』とのあだ名を頂戴しています。
それは、当時としてはオフロード用4WDにメッキ装飾など珍しいものでしたが、後のRV(レクエリエーショナル・ビークル)ブームを約30年前に先取りしていたと言えるかもしれません。
なお、ボディタイプは基本的には幌型のショートボディですが、4W65にはロングボディでハードトップ8人乗りのワゴン仕様G4W65もありました。
ちなみに警察予備隊用1/4tトラックでは三菱に敗北した日産とトヨタでしたが、代わりにひと回り大きく人員輸送以外に火砲を含む各種装備の牽引まで行うウェポンキャリア『3/4tトラック』を受注し、日産では4W60系をベースに大型化したQ4W70を納入しています。
これにもパトロール同様に日産 キャリヤーという民生版があり、ひと回り大きいことを考えれば後のトヨタ メガクルーザーのようなものでした。
主なスペックと中古車相場
日産 4W61 パトロール 1956年式
全長×全幅×全高(mm):3,615×1,700×1,930
ホイールベース(mm):2,200
車両重量(kg):1,470
エンジン仕様・型式:NC 水冷直列6気筒SV12バルブ
総排気量(cc):3,960
最高出力:77kw(105ps)/3,400rpm(グロス値)
最大トルク:265N・m(27.0kgm)/1,600rpm(同上)
トランスミッション:4MT
駆動方式:4WD
中古車相場:皆無
まとめ
朝鮮戦争が始まると慌てて再軍備が行われ、旧軍まで含めた中古兵器をかき集めて体裁を整えた警察予備隊(現在の陸上自衛隊)ですが、その過程で2台の『日本版ジープ』がいずれも本家ジープの三菱生産型に負けたおかげで、その後の日本車の歴史を変えました。
一方はもちろん現在のトヨタ・ランドクルーザーに至る系譜ですが、日産 パトロールも現在まで名の知れた日本製大型高級SUVとして、海外では今でも販売されています。
初代パトロールは初代ランドクルーザー(1951-1955)より長く、1960年まで販売されていたので、原型からマイナーチェンジしつつ完成度を高め、今でも海外では使われている個体があるようです。
[amazonjs asin=”B01M0LT3W8″ locale=”JP” title=”トミカ No.61 日産 フェアレディZ NISMO パトロールカー (箱)”]
Motorzではメールマガジンを配信しています。
編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?
配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!