「一定区間内のバックや180度ターンを含むコースで走行し、ジムカーナと違いサイドターンなどは行わない」と聞くと、「フィギュアとは懐かしいなぁ」という人もいるでしょう。主に学生の自動車部向け競技だったフィギュアと似たようなイギリス発祥のモータースポーツ、オートテストが2015年から新しいJAF公認競技となり、次第に注目度を増しています。今回は皆さんがお持ちのファミリーカーでも出来ちゃうオートテストについてご紹介します。
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新導入のきっかけは“モータースポーツ人口減少を食い止めたい!”
「若者のクルマ離れ」などと言われて久しいですが、実はモータースポーツの世界でもそれは深刻な問題です。
ロボットカーのレースならばともかく、ほぼ全てのモータースポーツは運転する人間がいて初めて成り立ちます。
ところが1990年代初頭のバブル崩壊以降、モータースポーツ人口は減少の一途。
日本の公式モータースポーツを統括するのはJAF(日本自動車連盟)ですが、そのJAFが発給しているモータースポーツライセンス所持者はひたすら減り続けているのです。
その結果、自動車メーカーはモータースポーツ向きのクルマを作らなくなり、サーキットの経営は悪化。
ジムカーナやダートトライアルなどの参加者も減り続けて競技会が成り立たなくなり、ますます人口が減り…と負のスパイラルに陥っています。
結局のところ、スポーツ走行に向いたクルマや、ヘルメット、グローブといった安全装備を購入しないといけないのが原因ではないのか?
そうであれば、どんなクルマでも参加できて、専用の安全装備が不要なモータースポーツを始めればいいのではないか?
こうして2015年6月にJAFが発表した新競技「オートテスト」は、モータースポーツ人口の減少を食い止め、振興する事を目的とした、期待の新競技なのです。
2015年に決まったJAFのモータースポーツ振興策
JAF(日本自動車連盟)によると、オートテストは以下のように定義されています。
一定区画内に前進、後進、180度ターン等を含む任意に設定されたコースで走行タイムおよび運転の正確さを競うスピード行事。
引用:JAFモータースポーツニュースNo.268(2015年6月1日発行)http://www.jaf.or.jp/msports/msinfo/image/ms_news268.pdf
コースを設定する区画は最大200m四方までと設定されていますから、たとえスタートラインからアクセルをふかしてロケットスタートをかけても、そうそうスピードは乗りません。
ましてやその中を直線的に走るわけでも無く、バックや180度ターン(転回)の必要性もありますから、ただ点と点を結ぶように速く走ればいいというものでは無いのです。
最短距離を速く走るよりも、いかに正確で無駄の無い運転ができるかが求められますから、速く走れるドライバーなら勝てるというものでもありません。
以前、テレビのバラエティ番組の企画で「ダンボール箱を左右に積み上げた、バックによる車庫入れを含む幅の狭いコースを作り、どの職業のドライバーが一番早くゴールできるか」が競われた事がありました(もちろん、ダンボール箱に接触してはいけません)。
レーシングドライバーも含めた参加者の中で、勝ったのはひたすら正確な運転を心がけた、タクシー運転手だったのです。
「速く走らせる」と「運転がうまい」は全く異なり、「運転がうまい人が勝つ」それがオートテストと言えるでしょう。
ジムカーナと似たところもある
この初心者向け公認競技というジャンルは従来、「ジムカーナ」が受け持ってきました。
ジムカーナとは何ぞや?という問いに対して簡潔に回答すると、「1~2分程度で走りきれるように設定された短いコース内を、一番速く走った人が勝つタイムアタック競技」です。
コースの大きさには規定が無いものの、短距離タイムアタックである以上はオートテストと大差は無く、実際にジムカーナとオートテストは同じコースでも開催されています。
ジムカーナでも脱輪(通常は1輪ごとに5秒ペナルティ)やパイロンタッチ(コース上に置かれた、触ってはいけない「パイロン」こと三角コーンに触れると、通常は5秒ペナルティ)、ミスコース(失格)というペナルティがあり、単純に速ければ勝てるわけではありません。
「いかにミス無く速く走る」という意味では、ジムカーナもオートテストも同じだと言えます。
クルマの性能自体は大きな差を生まない
ただし、ジムカーナとは基本的に前に向かって走るものであり、オートテストのように
【ここでバックしなさい】
【このラインを前輪2本だけ通過させなさい】
などという制約はありません。
しかもミスをしない事が大前提な上にターンセクションも狭い事から「曲がりきれずにバックギア」などしていては勝てません。
そのため、サイドブレーキを使ったスピンターンした上に、その間もいかに前進するかを考えながら走らせるかなど、使えるテクニックをフル動員しなければいけないのです。
全日本ジムカーナ上位陣クラスともなると「片輪を浮かせてコーナリングからそのまま立ち上がり、着地と同時に振り返しで8の字ターン」くらいの事はやってのけますし、そのようなマシンづくりをしています。
一方のオートテストは、スピードがそこまで乗らない上に、クルマの性能よりドライバー自身の操作の正確性で勝負が決まるようなところがあります。
早いけど扱いにくいクルマより、スピードはそこそこでも操作しやすくミスもしにくいオートマ車の方が、オートテストには参加しやすいでしょう。
低速型のコースレイアウトで、スポーツカーへの下克上もある?
しかも、オートテストのコースレイアウトは瞬間最高速度が50km/hを超えないよう配慮されています。
さらに4回以内で最低1回以上はバックする場所を設ける事になっており、バックする場所が多いほど、バックの手間が多いマニュアル車は不利でしょう。
たぶん一番有利なのは、昔ながらのシフトレバーを前後に動かすだけでバックに入れられるオートマ車ですね。
さらに、
【スタート後、最大でも50m毎にマーカー(パイロン)を設置して方向転換等を行う】
【フィニッシュライン(ゴール)の手前25m以内にマーカーを設置して方向転換等を行う】
【フィニッシュライン後方には一旦停止ラインを設定する】
というコース設定が定められています。
これが何を意味するかと言えば、「点と点を結ぶような加速」をキメようとしても、その距離が短いため、加速力の優位が生かせない事。
それでいて大型車でも十分余裕を持って曲がりきれるコース設定も求められているので、サイドターン(パーキングブレーキでリアタイヤをロックさせるターン)ができても意味がありません。
(※ブレーキを使う以上、必要性が無い場所でスピンターンをすると、かえって遅くなるからです)
そして、ゴール手前の直線で思い切りアクセルを踏んでゴールしようとしても、すぐ停止しないとペナルティになるので、やはり加速が制限される、という事です。
走行性能に優れたスポーツカーではちょっとストレスが貯まる一方で、ミニバンやSUVでもスポーツカーに対して致命的な差が出ないため、「下克上」が楽しめるかもしれません。
同乗者に道を教わりワイワイ走ろう!
コース設定はやや複雑になるため、ジムカーナ同様コースを覚えるのが大変そうですが、オートテストでは1人まで同上走行が許されています。
道を教えてもらいながら走る事もできますし、ラリーのノリでナビゲーター役をしてもらい、ひたすら助手席の人の指示を聞きながら走る事に専念してもいいでしょう。
ジムカーナで必要なのは、コースを覚えるということと、速く走ることの両方をやらなければならないということ。
しかし、オートテストでは必ずしも両方やる必要はありません。
それだけでも楽でプレッシャーもありませんし、「遊ぶ余裕」があるというだけでも、オートテストは初心者オススメ競技のひとつです。
隣に乗る人も友達恋人夫婦親戚縁者、はたまた当日会場でお願いしたついでに知り合いになるのもいいでしょう。
こういったところで新たな縁が作れるのも、オートテストの魅力かもしれません。
安全装備も不要、純正シートベルトでOK!
基本的にどんなクルマでもリスキーさを感じさせないコースづくりという事は、どんなクルマでも参加できるだけでなく「勝負できる」という事であると同時に、ドライバーについても同じ事が言えます。
ヘルメットやドライビンググローブといった安全装備が不要で、純正シートベルトさえ締めればOK。
意外とちゃんとしたヘルメットやグローブは高いですから、それが不要なだけでも参加者には大助かりでしょう。
単純にスポーツ走行の観点から言えば、バケットシートを装着して4点式シートベルトを締めた方がシートから体はズレずに安定した操作ができます。
ただ、バックギアを使った車庫入れ操作を考慮すると、そんなものを締めていては後方確認がしにくいですから、これもノーマル車の方が有利かもしれませんし、主催者もそれを狙ったコース設定をするでしょう。
結果、たとえレーシングドライバーが参加するとしても、「普段乗り慣れたノーマルのアシグルマが一番」で、参加車もかなりバラエティに富んだものになりそうですね。
また、同じ意味で身体的なハンディを持ったドライバーでも勝負になるという意味で、バリアフリーなモータースポーツとも言えます。
まとめ
実はこの「オートテスト」と似た競技は昔から「フィギュア」と呼ばれるものがあります。
主に学生の自動車部によって行われており、両者の違いはフィギュアが規則でサイドターンやドリフトを禁止しているくらいです。
今でも全日本大会まで開催されているほどで、それを知っていると「ついにフィギュアがJAF公認競技として認められたのか!」と胸を熱くする人もいるでしょう。
そうでなくとも紹介をしているだけで、走りに行きたくなってウズウズするほどで、来年は自分でも参加してみるか、いっそ主催イベントに組み込んでみようか?などと考えてしまいます。
ジムカーナでも参加するだけならどんなクルマでもいいのですが、本当の意味で「どんなクルマでも勝負できる」オートテスト。
いろんな人がモータースポーツに参加するキッカケとなって、モータースポーツ人口回復の一翼を担えるかどうか、期待したいですね!
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