上天皇皇后が移動に使用される『御料車』。その歴史は大正時代に遡り、大正天皇の即位時にイギリスから輸入された『デイムラー・ランドレー57.2HP』が史上初の自動車の御料車と言われています。その後も輸入車が採用され続けていましたが、初の”国産”御料車は、1967年から2005年まで40年近くもお役目を務めた、日産 プリンスロイヤルでした。
掲載日:2019.11/28
日産 プリンスロイヤル誕生の背景
1912年(大正元年)、皇室の移動手段が御料馬車から自動車の御料車に変更されました。
以来御料車に選ばれてきたのは、イギリスのデイムラーやロールス・ロイス、ドイツのメルセデス・ベンツやアメリカのキャデラックなどの欧米車でした。
当時の日本車は黎明期で、トラックの「いすゞ号」を中心に生産されており、皇族が乗るようなリムジンを製造する技術は持っていませんでした。
しかし第2次大戦後、日本でも自動車の製造技術が発達し、円熟期を迎えた1960年代、御料車の国産化が計画されたのです。
そこで選ばれたメーカーが、プリンス自動車工業でした。
その理由は、当時の皇太子明仁親王(現上皇明仁陛下)が車を好み、特にプリンスから献上された初代スカイラインや2代目グロリアを気に入っていたからです。
プリンスのみならず国産メーカー全体にとって、御料車を制作できることはとても名誉なことで、メーカーの垣根を超えた開発体制を敷き、当時の持てる国産技術を全て費やした御料車を設計しました。
御料車の名前はロイヤル。
プリンスが開発したので、プリンス ロイヤルとなります。
しかし1967年の納入前を目前にした1966年8月に、プリンスは日産と合併。
日産がプリンスの御料車開発に敬意を払い、日産 プリンスロイヤルが正式名称となりました。
日産 プリンスロイヤルが名車たる理由
高耐久なシャーシで37年間現役
日産 プリンスロイヤルは、1967年から2005年ごろまでの約38年間使用されました。
御料車なので宮内庁は日産と一体になり、整備に余念がなかったことでしょう。
それでも38年は長すぎるように感じます。
そのため、日産はボディの腐食や補給パーツ供給体制の限界を理由に、2004年ごろからプリンスロイヤルの利用を止めてもらえるように宮内庁に進言。
2005年にはトヨタからセンチュリーロイヤル納入が提案された為、段階的に使用を止めることを発表します。
そしてようやくお役御免となり、トヨタ センチュリーロイヤルに、代替わりしたのです。
そんなプリンスロイヤルの長寿の秘密、それはプリンスのエンジニア達にあります。
彼らが普段設計していたのは商用車で、特にシャーシの耐久性に関しては商用車メーカーの中でもずば抜けていたのです。
プリンスロイヤルのシャーシは、実は本格SUV用としておなじみのラダーフレームです。
シャーシの高耐久性のおかげで、プリンスロイヤルが37年間も使用できました。
ちなみにプリンスのエンジニアといえば、スカイラインの生みの親、故・桜井眞一郎氏が有名ですが、彼は乗用車が忙しく(=スカイラインが売りに売れて次期型設計に忙しく)、プリンスロイヤルの開発には携わっていませんでした。
日本製リムジンの先駆け
プリンスロイヤルは、国産車メーカーがメーカーの垣根を越えて開発した、国産リムジン第1号車です。
搭載されるV8 OHVエンジンの排気量は6,373ccで、これは当時の国産乗用車としては最大。
3トンを超える車重の同車を支える心臓として、プリンスが初の国産乗用車向け直列6気筒エンジンとしてグロリアスーパー6やスカイラインGT-Bに搭載していたG7型やG11型エンジンの搭載も検討されましたが、当時世界の高級リムジンでの採用例が多かったV型8気筒エンジンの開発に至りました。
また、そのパワーを受け止めるトランスミッションはアメリカのゼネラルモーターズ製3速ATが採用されました。
これは当時の自動車輸入会社最大手のヤナセ社長、梁瀬次郎氏による協力で実現。
日本の自動車業界が一丸となって、その技術力を示した1台となりました。
その影響は大きかったようで、プリンスロイヤルが御料車として納入された1967年に、トヨタはセンチュリーを発売しています。
日産からは1964年にプレジデント、三菱も同年にデボネアが登場。
それらは、当時のクラウンエイトやグランドグロリアなどの大型サルーンよりも、さらにリムジンとして相応しい設計が施されました。
日産 プリンスロイヤル主要スペック
日産 プリンスロイヤル 1967年式
全長×全幅×全高(mm):6,155×2,100×1,770
ホイールベース(mm):3,880
車両重量(kg):3,200
エンジン仕様・型式:W64 V型8気筒OHV
総排気量(cc):6,373cc
最高出力:260ps
最大トルク:-
トランスミッション:3AT
駆動方式:FR
まとめ
今でこそ日本の自動車技術は、世界でトップクラスとされています。
しかし元々は欧米メーカーのライセンス生産から始まり、パーツを国産化するなどして自動車開発技術を学んできました。
そしてプリンスロイヤルのような実現難易度の高いチャレンジを、繰り返してきた結果と言えるのです。
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