軽自動車の駆動方式には、その長所・短所も含め、さまざまな方式が試行錯誤されてきましたが、一番多くの方式を試したのはスズキかもしれません。初代フロンテでFF乗用車を極めるかと思いきや2代目では一転、当時としては常識的とも言えたRR方式に。さらにそれでは不便だからと商用モデルはFR方式でした。手をつけなかったのはMR方式くらいかもしれません。
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初代までの全てをかなぐり捨てたような大変化!2代目フロンテ
1967年4月に初のモデルチェンジを迎えたスズキ・フロンテは、正式車名が『フロンテ360』となりました。
わざわざ360とつけた理由は1965年12月に800cc小型大衆車フロンテ800を発売してしまったからだと思われますが、フロンテ800自体が1969年まで細々と少量生産していた程度に終わったので、このネーミングには何か問題があったような気もします。
ともあれ、フロンテ360はスズライトSFから初代スズライト・フロンテまでの蓄積を全てひっくり返すような、スズキにとっては初めて尽くしの車でした。
まずエンジンはそれまでの直列2気筒から空冷2サイクルはそのままながら直列3気筒へと変更。
レーシングスピリットを叩き込んだこのエンジンは、4サイクル6気筒に匹敵すると言われています。
当初25馬力と控えめながら先代より少しパワーアップした程度でしたが、ホンダ N360が31馬力エンジンを搭載してパワーウォーズを始めると、36馬力化したフロンテSS(ストリート・スポーツ)を発売。
さらにSSの装備を充実させたフロンテSSS(スーパー・スポーツ・セダン)まで登場するなど、まるで日産 ブルーバードのようなグレード構成になりました。
そのパフォーマンスを証明するべく、スズキは名F1ドライバー『スターリング・モス』にフロンテSSを走らせ、『太陽の道』と呼ばれるイタリアの高速道路を使った走行テストを敢行。
全行程746.9kmを、なんと平均時速122.4km/hで駆け抜け、驚きのスペックを見事証明させました。
360ccながら、登りもある山間部も含めたコースを約6時間で完走した計算になります。
この時の最高時速は140km/hを記録したとも言われており、間違いなく360ccエンジンの限界値に達したと言っても過言ではないでしょう!
また、エンジン搭載位置を後ろに変更して後輪を駆動するRR方式(リアエンジン・後輪駆動)へ変更した点もトピック。
初代フロンテで西ドイツのロイトLP400から苦労してコピーしたFF方式を、アッサリと捨てたのです。
デザインも曲面を多用した『コークボトル・ライン』へ変更。
これは当時の世界的流行でもありましたが、採用車種の中では世界最小と言われています。
思い切ってRR化したと思いきや、商用モデルはなんとFR化!
さて、乗用モデルをRR化するのは良いのですが、そうなるとスバルの360やサンバーのように、どうしてもリアエンジンの分だけ荷室が狭くなり、正直なところあまり商用モデル向きとは言えません。
それでもRR方式にこだわるならば、サンバーやフォルクスワーゲン車のように、「後ろのエンジンの出っ張りは仕方ないけど、その代わり中央部は思い切り低床!」を売りにする方法もあります。
ただ、初代フロンテまでFFだったので、無理せずともバンなど商用モデルはFFのまま改良する手もあるのでは?と思いきや、何と2代目のフロンテバンはFR化。
もっとも、1961年に初代キャリイでFR車も作れることを証明しており、1968年のモデルチェンジでキャリイバン(エブリイの前身)もキャブオーバー型に変更されていたので、一時的にボンネットバンが存在しない状態となっていました。
そのため、2代目フロンテバンは先代にあたるスズライトバンTLの後継というだけでなく、ボンネットバン時代のキャリイバン後継も兼ねるような形でFRボンネットバンになったのです。
これは、乗用モデルはRR、商用モデルはFRと棲み分けているようにも見えますが、2代目フロンテバンには後席の居住性を改善した乗用モデルの『フロンテエステート』も存在しました。
そしてもちろんカタログにも、姿形も違えば駆動方式まで異なるエステートが同じフロンテとして唐突に並んでいたので、一瞬ギョっとした人もいたかもしれません。
多数の純正チューニングパーツが準備され、サーキットへ駆り立てる
さらに2代目フロンテでは、ロールバーやバケットシート、軽量エンジンフードなど多数の純正レーシングスポーツ・オプションが多数準備されていました。
まさに現在でいうミニ四駆のような感覚で純正チューニングが可能だったわけですが、当時は軽自動車によるミニカーレースが盛んになり始めた頃なので、これらのパーツを装着してレースに出場したドライバーも多数いたようです。
ただし1971年にフロンテクーペがデビューした後も、レースのリザルトでは『フロンテLC10』としか記載が無い場合もあり、フロンテとフロンテクーペ、さらには3代目フロンテ(LC10 II)のどれがどのように活躍したかは、JAFの公式レースリザルトを見ているだけでは判然としません。
主なスペックと中古車相場
スズキ LC10 フロンテ360 SS 1968年式
全長×全幅×全高(mm):2,995×1,295×1,330
ホイールベース(mm):1,960
車両重量(kg):440
エンジン仕様・型式:LC10 空冷直列3気筒2サイクル 3連キャブレター
総排気量(cc):356
最高出力:27kw(36ps)/7,000rpm
最大トルク:36N・m(3.7kgm)/6,500rpm
トランスミッション:4MT
駆動方式:RR
中古車相場:皆無
まとめ
突然のRR化で人々を驚かせた2代目フロンテですが、スバルが360で成功させた『常識的配置』の採用で駆動系の耐久性を向上させたほか、2サイクル3気筒エンジンは確かに振動や静粛性の面で有利であり、一躍人気モデルへと躍り出ました。
ただしホンダ N360登場後のパワーウォーズで36馬力のSSやSSSが登場すると、低回転ではプラグがカブってしまうピーキーさや、エンジンのフロント側配置の3連キャブレター調節には後席側のサービスホールからアクセスが必要など、整備性の問題も出てきます。
とはいえ、無粋な装飾も無くスッキリした曲面のコークボトル・スタイルは現在に至るまで人気が高く、このフロンテ360はフロンテクーペに次ぐ人気を誇るようになりました。
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