かつて日産にモコとしてOEM供給されていたスズキ MRワゴン。2代目以降は『日産の軽自動車』としての色彩が強くなりました。しかし、初代MRワゴンはダイハツ・タントのような軽スーパーハイトワゴン登場前のスズキが、ワゴンRに続く新たなヒット作を見つけようと模索していた時期の試行錯誤が見られる、なかなか興味深い1台です。
当初のコンセプトは文字通りミッドシップ!
『MR』という文字を見て車好きなら誰もが思い浮かべるのはMR2のようなリアミッドシップ・後輪駆動のMRレイアウト車だと思います。
そして2001年に発売された初代スズキ MRワゴンはFF車でしたが、コンセプトカーとして初公開された東京モーターショー1999では、画像の通り後輪手前にエンジン用のインテークを持ち、後部フロア下にエンジンを搭載するMRレイアウトで、エンジンをアンダーフロアミッドシップ化することで車内スペースを拡大。
外観も初代トヨタ・エスティマのように伸びやかなワンモーションフォルムを可能にする、というのがそのコンセプトでした。
これはどこかで見たようなコンセプトだと思えば、後に三菱 i(アイ)が採用したレイアウトとパッケージングそのもので、加えて言えばMCC スマートフォーツー(初代)によって、ちょうどこういうコンセプトが流行っていた時期でもあったのです。
もっとも、スズキはそれ以前の東京モーターショー1997でもUW-1という同種のコンセプトを持つリッターカーを出展していたので、それを軽自動車化したのが1999年のコンセプトカーMRワゴンだったのかもしれません。
しかし、アンダーフロアミッドシップは前後方向の車内スペースを広く取れる反面、ラゲッジ床面が高くなったり、重量バランスをよほどうまく取らない限りフロントタイヤの荷重不足による操縦安定性の低下を起こすので、案外難しいものでした。
その為、結果的にMRワゴンは基本的なデザインのみが活されて、フロントにエンジンルームを設けてFF化した上で2001年12月に発売。
翌2002年4月には日産にOEM供給され、モコとしても発売されました。
アルトとワゴンRの中間的存在だった初代MRワゴン
FFおよびFFベース4WDとして発売された初代MRワゴンですが、当時のワゴンRと同じホイールベースだったのでプラットフォームは共通で、そこにMRワゴンのボディがうまく載った形となっていました。
というより、1999年のモーターショーで展示していたものとバンパーやフェンダーの一部処理を除けばデザイン上の相違点は少なく、あるいはリアのエアインテークはダミーで、最初からFF車として開発されたのでは?と考えてしまうほど。
真偽はさておき、初代MRワゴンはワゴンRより若干車高が低いことから、軽トールワゴンのワゴンRとベーシックモデルのアルトの中間に位置する軽セミトールワゴン、あるいは後のセルボのようなスペシャリティカー路線に見えなくもありません。
実際、2代目以降とは異なり『MRワゴン スポーツ』という活発なDOHCターボエンジン搭載のスポーティな派生型をラインナップしており、日産にはOEM供給していなかったため、こちらは完全なスズキオリジナル。
日産は2代目途中でスポーティ版のMRワゴン WitのOEM供給を受けるまでモコにスポーティバージョンをラインナップしなかったので、初代ではスズキと日産の目指すものにかなり差があったことが伺えます。
なお、ワゴンRより低くなった車高による車内スペースの上下空間の減少は前後方向で補っており、リアサスペンションの取り付け位置を変えることで、後席に左右独立リクライニング&前後105mmスライド機構を追加し、ゆったり乗車できるように改良されました。
主なスペックと中古車相場
スズキ MF21S MRワゴン スポーツ 2002年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,580
ホイールベース(mm):2,360
車両重量(kg):860
エンジン仕様・型式:K6A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
総排気量(cc):658
最高出力:47kw(64ps)/6,500rpm
最大トルク:106N・m(10.8kgm)/3,500rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FF
中古車相場:0.1万~50万円(各型全て)
まとめ
スズキはモーターショーに出展したMRワゴンをFFの軽トールワゴンとして開発続行していたものの、ワゴンRやアルトと比べて良く言えばいいとこ取り、あるいは中途半端に思われかねないモデルだったので、日産からOEM供給の話は渡りに船だったのかもしれません。
おかげでワゴンRよりも軽快感があり、アルトよりも使い勝手の良い車種を低いリスクで発売できた上に、スポーツモデルを設定したり、ワゴンRに先行した改良(左右後席独立前後スライド機構)も組み込めました。
しかし2003年に初代ダイハツ タントが登場して以降、軽自動車の主流はより背の高いスーパーハイトワゴンに移っていったのでMRワゴンの存在意義は薄くなります。
それでもパレット(2008年)や5代目セルボ(2006年)が登場するまで、MRワゴンは最大のライバルであるダイハツより、スズキの薄い車種ラインナップを補う、貴重な1台となりました。
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