1990年代前半、660cc化された軽自動車には後輪駆動の本格スポーツが相次いで誕生しました。そして、その後のトールワゴンブームの始祖、ワゴンR登場とともに現在の「単に安くて手軽なだけでなく、付加価値が高い軽自動車」の時代が始まったのです。そんな中、本格スポーツでは無いながらも、趣味性は高いフルオープンカーとして登場したのがダイハツ リーザスパイダーでした。

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー  / 出典:https://iheartjapanesecars.wordpress.com/2016/03/05/86-93-daihatsu-l111s/

 

多様な価値観への移行を促した軽自動車の660cc化

 

リーザスパイダーの試作コンセプトカー、FX-228 / 出典:http://keicarsfanzine.com/cars/daihatsu-leeza

 

2017年12月現在の軽自動車は、俗に「新規格」と呼ばれる1998年10月以降に変更された規格で開発・販売されていますが、それ以前の「旧規格」も1949年の軽自動車規格登場後、段階的に排気量やボディサイズの拡大を経てきました。

最後の「旧規格」となった1990年1月の改正では、それまでのボディサイズ拡大や排ガス規制の強化に伴い、必要なパワーを得るためにエンジンの排気量が550ccから660ccへと拡大。

既に”64馬力自主規制”が課せられていたターボエンジンでなくとも、出力、トルクとも十分に得られるようになりました。

さらに同時期に行われた税制改正で購入時の軽商用車の優位性が少なくなり、軽自動車は5ナンバーの軽乗用車が販売の中心となって、快適性や質感の大きな向上が図られていきました。

そして、それまでの「安価で手軽な実用車」としてシティコミューター的なハッチバック型2BOX車、商用車としての実用性に優れた1BOX車、トラックの3種類が主だった軽自動車において、実質的な変化を起こしたのが660cc化だったというわけです。

その結果、「趣味性」や「多用途性」、「長距離・長時間運転での快適性」といった要素が濃く盛り込まれるようになったことに加え、バブル景気による贅沢な開発費も手伝って、それまでの軽自動車に無かった新たな車種が創造されていきました。

その代表的なものがいわゆる「ABC」、オートザム(マツダ) AZ-1、ホンダ ビート(Beat)、スズキ カプチーノ(Cappuccino) およびAZ-1の兄弟車スズキ キャラ(Cara)という後輪駆動スポーツカー群と、軽トールワゴン初の大ヒット作、スズキ ワゴンRです。

しかし、1991年から1993年にかけてデビューしたこれらの革命児だけではなく、新たな価値観を提案した車種はほかにもありました。

それが以前も紹介した軽タルガトップ、ヴィヴィオ T-Top / GX-Tと並び、現在では珍車として紹介されることも多いフルオープン軽乗用車、ダイハツ リーザスパイダーです。

 

スペシャリティカー、リーザを文字通りぶった斬る!

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー  / 出典:http://cars–reviews.com/content/daihatsu-micros.html

 

ベースとなったダイハツ リーザは軽自動車が550cc時代の1986年にL70型ミラ / クオーレをベースとして登場した軽スペシャリティカーでした。

ホイールベースを短縮して全高を下げ、後席は補助的な+2シートになったものの、前席、ことに運転席は同社のコンパクトカー、シャレードと同等のスペースを確保し、軽自動車で初めて鉄板をむき出しにしないフルトリム・ドアを採用。

スタイリッシュで運動性能が高く、当時としては高い内装の質感で「脱・実用車」を図り、スズキ セルボに対抗していたモデルです。

660cc時代に入ってからもベースをL200型ミラに変更、型式もL100型からL111型に変わるビッグマイナーチェンジを受けたものの、外観上は前後バンパーの拡大など若干変更されたのみで、ほぼそのまま販売が続けられています。

 

ダイハツ L100S リーザ(550cc乗用モデル)  / 出典:https://www.youtube.com/watch?v=xZIHxt08PrY

 

このリーザのボディ上半分をAピラー(前席の目前、左右の柱)とフロントガラスの枠のみ残し、思い切って切断!

これまた上半分はカットされたリアハッチはヒンジ(ちょうつがい)部分が消失しているためボルト8本で車内から固定、後席は廃止されて幌の収納スペースとなり、完全フルオープン2シーターへ!

試作車は550ccの4ナンバー車(商用)でしたが、量産車は660ccの5ナンバー車(乗用)となり、1991年11月に発売。

新車価格は発売当時のトップグレード、OXY-R(オキシーR)の3AT車が106万5,000円だったのに対し、同じ3AT車で150万8,000円と約44万円ほどアップとなりました。

 

完成度の低さや本格派のライバル登場で超不人気車、そして今は「レア車」へ

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー  / 出典:http://auto-database.com/daihatsu/leeza/1991/leeza-spider_1991/

 

しかし、リーザスパイダーは価格こそ高価なものの、その完成度が問題でした。

一見すると三角窓風に見えるものの、実際はAピラーと接するフロント部のドア枠のみ残して柱を立てただけ。

その柱の中を通す形で、ノーマル同様の窓が開閉するというフロントドア。

リアハッチ残部のボルト止めと補強のために新たに追加されたフレームの溶接がちょっと怪しいリア開口部に、空力上の考慮はなされなかったのか、バタつきが大きい幌、補強不足なのか走るときしむボディなど、手作業で生産しているにしても仕上がりが今ひとつ。

「メーカー純正」と言えどもコーチビルダー(ボディの架装業者)が1台1台丹念に作るような改造オープンカーと比べて、クオリティが低いのは否めませんでした。

後に、熟練工員の技術継承を目的とした「エキスパートセンター」を立ち上げ、ほぼ手作業の工程を交えてミゼットIIや初代コペンといった少量生産車を作るダイハツですが、リーザスパイダー当時は少量生産での品質維持が難しかったようです。

さらに幌を閉めても本来のリーザが持っていたボディラインと異なるため、デザイン上のバランスも崩れていました。

それでもオープン時の解放感は同じ乗用車ベースでタルガトップ方式のセミオープン、スバル ヴィヴィオT-Top / GX-Tよりも優れ、車重はベース車より90kg増加したとはいえ、ターボエンジン搭載により動力性能にも不足はありません。

ただ、同時期に同じフルオープンカーでも本格FRスポーツのスズキ カプチーノや、高回転型MTRECエンジン搭載のミッドシップスポーツ、ホンダ ビートがデビューしてしまったのも、リーザスパイダーの不運なところです。

そして本格軽オープンスポーツの陰でリーザスパイダーは500台も生産されず、1993年春にベースのリーザが生産終了するのと同時に、2年足らずの短い販売期間を終えました。

ただ、リーザのほとんどが実用車として廃車にされていった一方、リーザスパイダーはレア車としてマニア人気に支えられ、生産終了後20年が経った頃には、中古車として流通しているのはほとんどスパイダーという「逆転現象」を起こしています。

 

リーザスパイダーのダイハツチャレンジカップにまつわる都市伝説

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー  / 出典:http://my.reset.jp/inu/ProductsDataBase/Products/DAIHATSU/LEEZA%20SPIDER/LEEZA%20SPIDER.htm

 

フェローバギィと並ぶ”ダイハツ珍車の双璧”であるリーザスパイダーですが、「ダイハツ車専門のジムカーナイベント、ダイハツチャレンジカップに出場しようとしたが、ロールバーを組んでもボディ剛性不足と断られた」という逸話まで残っています。

ただしこの逸話は全くの都市伝説で、主催者のDCCS(ダイハツ・カー・クラブオブ・スポーツ)に出場を断られたところまでは事実ですが、その実態は異なりました。

その事例は2回あったのですが、最初は「リーザとしてエントリーしてきたが、来てみたらリーザスパイダーだったので、さすがに乗員保護用のロールバーを装着してこないフルオープンカーでは転倒時に危険」という理由。

2回目は「今度はロールバーを装着してきました!と言うので確認したところ、強度も無く乗員保護機能を持たない、形だけのロールバーだったので、やはり断らざるをえなかった」というのが真相です。

これは筆者が当時の関係者から実際に聞いた話なので間違いありませんが、「普通の車なら出場できるイベントで出場拒否されるほど、リーザスパイダーのボディ剛性は低かった」と現在まで誤解されています。

 

リーザスパイダーの主要スペックと中古車価格

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー  / 出典:http://my.reset.jp/inu/ProductsDataBase/Products/DAIHATSU/LEEZA%20SPIDER/LEEZA%20SPIDER.htm

 

ダイハツ L111SK リーザスパイダー 1991年式

全長×全幅×全高(mm):3,295×1,395×1,345

ホイールベース(mm):2,140

車両重量(kg):730

エンジン仕様・型式:EF-JL 水冷直列3気筒SOHC12バルブ ICターボ

総排気量(cc):659cc

最高出力:64ps/7,500rpm

最大トルク:9.4kgm/4,000rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FF

中古車相場:37万~42.2万円

 

まとめ

 

住江製作所 フライングフェザーなど黎明期の原始的な軽自動車やオフロード用など特殊モデル、ホンダ S360のように試作止まりなものを除き、2017年12月現在まで史上唯一の「本格スポーツではないフルオープン軽自動車」リーザスパイダー。

販売面では散々な結果を残し、短い生産期間を終えたその数年後、ダイハツ社内で「キミはリーザスパイダーで懲りたんじゃなかったのか?」という声が上がったと言われています。

そう、初代コペンはリーザスパイダー開発担当者のリベンジ作だったという説です。

本当だとすれば面白い話ですが、いずれにせよダイハツはリーザスパイダーに学ぶところが大きかったようで、初代コペンは10年にわたりクルマ好きの目を輝かせる名車となりました。

そう考えると、リーザスパイダーは名車コペンを産む原動力となった「歴史的な挑戦の賜物」と言えるかもしれません。

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