「マイナス21秒のロマン」というフレーズを引っ提げてデビューした4代目スカイラインGT-R。賛否両論別れるこのクルマ、ユーザーによっては「失敗作」と言われてしまう事もありますが、はたして本当にそうなのでしょうか?歴代のモデルを振り返りながら結論を導きだしてみたいと思います。
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「マイナス21秒のロマン」
4代目スカイラインGT-R(BCNR33、以後R33GT-R)がデビューした時に付けられたキャッチフレーズ「マイナス21秒のロマン」は、いったい何を意味しているのでしょうか?
これは、世界的に有名な難コースであるドイツのニュルブルクリンク北コースで、3代目スカイラインGT-R(BNR32、以後R32GT-R)が記録したタイムをどれだけ更新したかを表しています。
一周20キロを越えるコースを4代目スカイラインGT-Rのプロトタイプ車両は7分59秒で周回しており、R32GT-Rの記録を21秒上回りました。
最新型のGT-Rは2014年に一周7分8秒で周回していますが、電子デバイスやタイヤなどが改良され、著しく進化を遂げている車両であることを考えると、R33GT-Rが20年前に記録したこのタイムは驚異的な物だったといえるでしょう。
このように恐るべきポテンシャルを秘めたR33GT-Rですが、歴代GT-Rの中では失敗作と評されることもありました。
抜群の性能を誇ったにも関わらず、そのように呼ばれてしまうR33GT-Rとはいったいどのような車だったのでしょうか?
当時の時代背景と共に振り返っていきます。
R33GT-R誕生の時代背景
R33GT-Rがデビューした1995年はバブル景気が崩壊した直後でしたが、世の中はその余韻から抜け出すことができずにいました。
それは自動車業界も同様で、本来スポーツ性が重視されるこのR33GT-Rにもその名残が多く見受けられます。
その名残といえるのが室内で、特に後部座席の居住性を確保するために広げられた空間と、それに合わせたボディーサイズの拡大といえるでしょう。
運動性能が求められるスポーツカーの後部座席を、なぜ広げたのでしょうか?
それは先代のR32GT-Rの後部座席が狭かったという反省点を踏まえた改善策だったのです。
バブル景気だった当時の日本では自動車もステータスの一部となっており、GT-Rに乗っているということが自慢できる時代でしたが、4名フル乗車だと窮屈感が否めませんでした。
GT-Rに4名乗車するの?と思われる方も多数いると思いますが、当時は仲間同士乗合でドライブや旅行に出かけることが多くあり、当時注目の的だったR32GT-Rの出番は多かったのです。
このような時代背景を受け、4人乗っても快適なスペースを確保することができるGT-Rを作れば「最強のスポーツカー」になると考えた日産自動車は、R33GT-Rの拡大化に踏み切りました。
拡大化に伴い、当時日産の中級セダンの位置づけにあったC34型ローレルのプラットホームを利用して製作されたR33GT-Rは、先代に比べ大きくなり丸みを帯びたデザインで登場しました。
そのデザインは賛否が分かれ、シャープさに欠けたことを嘆くファンも多かったそうです。
また専用設計のシャシーでなかったことから、「これはGT-Rではない」という声もあったとのこと。
しかし、その迫力のあるどっしりとしたボディに惹かれるファンも多く、高級感が与えられた内装も人気を得る要因だったようです。
そんな賛否両論あったR33GT-Rのスペックをご覧ください。
1995年式 BCNR33型 スカイラインGT-R スペック
全長×全幅×全高(mm):4670×1780×1360
ホイールベース(mm):2720
車両重量(kg):1530
エンジン型式・仕様:RB26DETT 直列6気筒DOHC ツインターボ
排気量(cc):2568
最大出力:280ps/6800rpm
最大トルク:40.0kg-m/4400rpm
トランスミッション:5MT
新車時販売価格:4,885,000円
※「BCNR」の「C」はスーパーHICASが装備されているという差別化を図るためにあります。
先代と比較すると、全長が130mm・ホイールベースも105mm拡大されて登場したR33GT-Rは、居住性が高くなったため長時間の運転でも疲れにくく、4名乗車でも快適な空間を提供するとが可能となりました。
またその拡大化に伴い心臓部であるRB26DETTにも手が加えられ、トルクアップが図られています。
当時は最大出力がメーカーで自主規制されていたため280馬力となっていますが、自主規制のためエンジンや吸排気系に手が加えられており、市販の状態では本来の性能を発揮できる状態ではありませんでした。
しかし、その規制を排除することにより、あっという間に400・500馬力へとパワーアップしたといわれるエンジンと1000馬力にも対応可能といわれるボディを与えられたR33GT-Rは、大型化された外観とは反比例して超高性能を誇っていたのです。
ホイールベースが延長されどっしりと構えたボディは安定感を生み、高速走行は他のどの車よりも優れていました。
R33GT-Rは当時のユーザーの求めた「高性能」と「高い居住性」を融合した理想的な車だったといえるでしょう。
R33GT-R本気度の証
R33GT-Rは販売当初より「Vスペック」やレースベースグレードとなる「VスペックN1」が設定されており、スポーツ走行やモータースポーツを視野に入れた車両開発がされていまいた。
これらの車両は、ベースグレードであるGT-Rをモディファイしたものであり、日産がこのR33GT-Rをモータースポーツで活躍させようとしていた意気込みが感じられます。
テスト段階では、試走したレーシングドライバーから酷評を受けたこともあったそうですが、N1耐久選手権(現在のS耐相当)ではチャンピオンを獲得するなど、そのポテンシャルはGT-Rと呼ぶに相応しい物だったといえるでしょう。
それでは、最強の市販車を目指したVスペックと、モータースポーツのために開発されたVスペックN1に与えられた追加項目をご紹介いたします。
V スペックの変更点
アクティブLSD
アテーサE-TS PRO装着
専用セッティングの足回り装着
ローダウン化
新車販売価格:5,290,000
Vスペック N1の特徴
カーボンセンターリヤスポイラー装着
カーボン製アンダーカバー装着
メタルタービン採用
空冷式オイルクーラー装着
N1専用ピストン
N1専用ウォーターポンプ
省かれた装備品
助手席エアバック
エアコン
オーディオ
集中ドアロック
リアワイパー
ボディカラーはホワイトのみ
新車販売価格:5,990,000
「LM」という存在
R33GT-Rには、「LMリミテッド」と名付けられた限定モデルがありました。
「LM」とは、ル・マンを意味しており、当時R33GT-Rがル・マンに参戦した記念として販売されたモデルとなっています。
このR33GT-Rは、ル・マンに参戦し、総合10位で完走した実績を持っているのです。
また、ベーシックグレードのGT-RとVスペックに用意された「LMリミテッド」は、どちらも共通のモディファイが施されていました。
そんな、スペシャルモデルとなった青く輝く「LMリミテッド」の変更点をご紹介します。
角度調整機能付きカーボンセンターリヤスポイラー
エアインテーク付きフロントバンパー
フードトップモール
ボディカラーはチャンピオンブルーのみ
新車販売価格:4,998,000(GT-R)
:5,503,000(Vスペック)
また、「NISMO GT-R」というル・マン参戦のホモロゲーション取得のために1台だけ製作された車両もあります。
この車両は型式こそBCNR33ですが、「スカイライン」とは名乗っておらず、「スカイラインを名乗らないGT-R」としても有名です。
かつての栄光が蘇る、4ドアセダン
R33GT-Rのハイライトのひとつと言えるのが、このオーテックバージョンと呼ばれるモデルです。
4ドアセダンとして登場したオーテックバージョンは、1970年初頭にレースで大活躍した4ドアセダンのハコスカGT-Rをモチーフとしており、GT-R誕生40周年を記念するモデルでもありました。
このオーテックバージョンは「BCNR33」という型式が物語るように、4ドアのスカイラインGTS系の車両をGT-Rにしたのではなく、2ドアのGT-Rを4ドアに改良していたところも見逃せないポイントです。
リアフェンダーやリアドアなどは新たに形成して作成されたため、生産は422台という限られたものとなっています。
また、4ドアで高性能だったことから、埼玉県警や神奈川県警の高速隊にも導入され、日々の安全に尽力していました。
モータースポーツだけでなく、日々の安全を守るためにもR33GT-Rは活躍していたのです。
コンプリート・GT-R
R33GT-Rには、もう1つハイライトとなる車両があります。
それは、NISMOが手掛けた「NISMO 400R」です。
この400RはR33GT-RをベースにNISMOがチューニングを施したコンプリートカーで、R33GT-Rのコンセプトである「意のままに操る楽しさ」を追求して作り込まれ、そのままレースに出場できてしまうのではと思われる程のモディファイが成されていました。
1997年式 BCNR33型 NISMO 400R スペック
全長×全幅×全高(mm):4670×1830×1330
ホイールベース(mm):2720
車両重量(kg):1550
エンジン型式・仕様:RB-X GT2 直列6気筒DOHC ツインターボ
排気量(cc):2771
最大出力:400ps/6800rpm
最大トルク:47.8kg-m/4400rpm
トランスミッション:5MT
新車時販売価格:約12,000,000円
こちらが、ニスモ400Rのスペックですが、この400Rはこのスペック表内では表せない程の拘りが詰め込まれた車なのです。
パワーアップされたエンジンに対応するべくのワイドボディ化や足回りの強化が行われており、それに合わせてシートなどもスポーティーな物に変更されています。
そのままの状態で普段乗りからサーキット走行までもカバーすることを念頭に置き、NISMOが全力で開発を行ったこの400Rは55台という少ない生産台数でした。
しかしこの400Rは、どんな状況でも車を「意のままに操る」ことをコンセプトとしたR33GT-Rのあるべき姿や目指した方向性を表していた車両だったと言えるのではないでしょうか。
また、R33GT-Rをチューニングする上で参考にしたい1台であることは間違いありません。
R33GT-Rは成功作?失敗作?
R33GT-Rでよく議論されるのは、はたして成功作なのか?それとも失敗作なのか?ということです。
外見のデザインは個人の好みに大きく左右されるため、一概に成功や失敗を判断することは難しいと思うので、この部分においては、個人の価値観に委ねるとして、外観以外の部分に目をむけてみたいと思います。
発売当初、先代のR32GT-Rと比較されることが多かったR33GT-Rですが、先代からGT-Rが復活したという話題性とモータースポーツで大活躍した印象が強すぎたため、酷評されてしまうことがありました。
またモータースポーツにおいても、JGTCでR32からR33に入れ替わった際、R32が勝利したこともあり、R33は失敗作というレッテルを貼られてしまう結果に。
しかし、その後のJGTCでは熟成を重ね1998年に並み居る強豪を相手にしながらシリーズチャンピオンを獲得し、決して失敗作ではないことを証明しました。
また、当時盛り上がりを見せていた谷田部最高速チャレンジや0-300km加速チャレンジなどの超高速アタックや瞬発力が求められる場面において、R33GT-Rをベースにするチューナーが多くいたところにも注目したいところです。
これは、R33GT-Rが抜群の信頼性と安定性を誇っていたことを示しており、市販車スポーツカーとして素性の良い車だったことを物語っているのです。
そして、快適さを求めた車内設計や限定車ではありますが市販ユースであるNISMO400Rや4ドアセダンであるオーテックバージョンを販売したことは、一般ユーザーをターゲットにした車両開発を行っていたことに繋がります。
R33GT-Rは、普段の移動からサーキット走行まで幅広い場面で活躍できる車として開発されたのです。
これらのことを総合的に考えると、R33GT-Rは「市販されているスポーツカー」としては大成功を納めたといえるのではないでしょうか。
4代目スカイラインGT-Rの中古相場
R33GT-Rの市場価格は現在どのようになっているのでしょうか?
ここではフルノーマルであることと修復歴がない車両を前提に、モデルごとの参考相場価格をみていきます。
GT-R
1995年式・49000km
3,800,000円
1997年式・55000km
2,980,000円
GT-R Vスペック
1995年式・130000km
2,538,000円
1997年式・45000km
4,800,000円
GT-R LM
1996年式・37000km
3,980,000円
オーテックバージョン
1998年式・87000km
4,680,000円
※2017年7月現在
このように、年式や走行距離により開きは見られるものの、修復歴がある車両でも200万円は越えており相場は250万円から400万円と考えておくのが妥当なようです。
また程度が良いものになるとプレミアムが加味されるため、500万円を越える車両や応相談となっている場合もあります。
発売から20年程経つ車両であることを考えると、今後はさらにプレミアムがつくことも!!
ご決断はお早めに、とだけは伝えておきたいところです。
まとめ
BCNR33 GT-R特集、いかがでしたか?
こうして振り返ってみると、決して失敗作ではなかったといえると思います。
時代背景や開発チームの新たな取り組みにより、「最強の市販スポーツカー」として誕生したR33GT-Rは、誰でも何処でも快適に気持ちよく乗ることができる車、そして日本を代表するスポーツカーとして世界でも愛されているのです。
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