1987年、それまで小型FRスポーツ最後の牙城と思われたトヨタ カローラレビン / スプリンタートレノがモデルチェンジでFF化!在庫分を継続販売していた、いすゞ ジェミニ(初代PF)を除き、1.6~1.8リッタークラスのFRスポーツが日本から消滅しました。それを惜しむ声も多かった一方で、時はバブル時代。ソアラは元よりシルビアやプレリュードまでは手が届かない若者向けデートカーとして、AE92型レビン / トレノは歴代最大の大ヒットを記録したのです。
掲載日:2018.12/20
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“最後のFRレビトレ”から”初のFFレビトレ”への大転換
1983年に発売されたE80系から、カローラ店扱いのカローラ、トヨタオート店(現在のネッツ店)扱いのスプリンターは揃ってFF(フロントエンジン・前輪駆動)化されました。
それまで国内主要自動車メーカーの中でも保守層ユーザーの多いトヨタはFF化に慎重でしたが、当時の最量販大衆車がFF化されたとなれば、あとは全車一直線。
E80系のモデルライフ中に、下はスターレットから上はコロナ / カリーナ系、ビスタ / カムリといった2リッタークラスまでのセダンやハッチバック、およびそれらの派生車種が一斉にFF化されていきました。
その中で唯一、孤軍奮闘するかのようにAE85 / 86型カローラレビン / スプリンタートレノ(以下、レビトレ)はFRスポーツとして存続し、人気モデルとなりましたが、先代E70系のプラットフォームはもはや旧態依然である事は明らか。
カローラ / スプリンターのライトバン / ステーションワゴンモデルがE70系を継続生産し、同じプラットフォームを使うダイハツ シャルマン(2代目)もモデル末期とあっては、レビトレだけのためにプラットフォームの継続使用や新規開発もできません。
その一方で、E80系で追加された3 / 5ドアハッチバック車、カローラFXは販売面でもレースの実績でも好調で、FFスポーツが立派に成り立つことを証明していました。
こうなると次期レビトレがFF車になるのは全く自然な成り行きで、カローラFXが存在するためハッチバック車は設定されず、ボディは2ドアクーペのみで良くなったのでコスト面からも一石二鳥。
ただしデザイン面ではあえてのロングノーズ・ショートデッキスタイルで、レビンは”ミニソアラ風”、リトラクタブルライトを残したトレノは”ミニスープラ風”として、駆動方式は異なれど、ソアラ / スープラの下位モデル的な役割を持たせたのです。
これによりスポーツカーとしてだけでなく、”何とか格好がつく範囲で最小のデートカー”としての役割も期待され、実際よく売れて歴代最多の販売台数を記録しました。
基本はカローラそのものだが、飛び道具はスーパーチャージャー
AE90系レビトレをスペック面から見ていくと、ホイールベースからサスペンション形式(前後四輪ストラット独立懸架)、ブレーキに至るまでカローラ / スプリンター / カローラFX / スプリンターシエロ(5ドアリフトバック)と共通です。
1.6リッターDOHCエンジン”4A-GE”搭載版がAE92、1.5リッターハイメカツインカム”5A”系搭載版がAE91という型式も共通で、AE92型は全車グレード名に”GT”がつくのも同じでした。
(ただし、レビトレにはハイメカツインカム、1.6リッター搭載のAE95や同1.3リッターEE90は設定無し。)
つまりE90系レビトレとはカローラシリーズの中でも”独立トランクを持つスタイリッシュな2ドアクーペ”を表し、デザインや装備面は若干の違いで車重などが異なるのみ。
それでも”オヤジくさい4ドアセダン”や、”生活臭漂うハッチバック車”より2ドアクーペの方がデートカーやラグジュアリーなパーソナルカーとして売れた時代なので、デザイン上の作り分けで十分でした。
ただし、レビトレだけの”飛び道具”として、クラス初の電子制御サスペンションTEMS搭載スレード(GT-APEX)や、1986年から初代MR2(AW10系)に搭載されていた、スーパーチャージャーつきDOHCエンジン”4A-GZE”搭載グレード(GT-Z)を用意。
前期型(レギュラー仕様)で145馬力、後期型(ハイオク指定)で165馬力を発揮するとともに、4A-GEの弱点を補う太い低速トルクを持った4A-GZE搭載車は高い戦闘力を発揮し、カローラシリーズの”AE92”の中でも特別な存在となっていきます。
また、GT / GT-APEXに搭載のNA(自然吸気)版の4A-Gも前期の120馬力から、後期にはハイオク指定で140馬力にパワーアップしていますが、これは他のAE92”GT”と同様です。
レースではNAが、ラリーではスーパーチャージャーが活躍
E80系まではFRのレビトレ(AE86)、FFのカローラFX(AE82)が参戦していたグループAレース、JTC(全日本ツーリングカー選手権)ですが、レビトレのFF化もあってAE92カローラレビンでの参戦に一本化されます。
そして1988年のデビュー当初はクラス最大のライバル、ホンダ シビックがまだZC搭載のEF3型だったことや、VTEC(B16A)搭載のEF9型登場後も最初はVTECを外していたため、互角の戦いを演じました。
しかし1990年にTeamADVAN(新田 守男 / 鈴木 恵一組)が3勝、そして後継AE101が終盤から登場する1991年もAE92レビンは3勝を上げますが、メーカータイトルはホンダに奪われてしまいます。
これは、シビックが戦闘力アップを果たしたのに対し、AE92レビンは終始パワー差と大きく重くなったボディに悩まされる形になり、タイトルこそ奪えなかったものの、最後まで健闘したです。
また、レースでは富士や鈴鹿で開催されたフレッシュマンレースで多用され、AE86の後継として1989~1997年頃までAE92レビンでのレースが行われていました。
ほかに全日本格式のモータースポーツでAE92レビンの参戦が盛んだったのは全日本ラリーで、発売初期の1987~1988年に数台が1,600ccマシンで戦うBクラスに参戦していますが、当時は結局、同じAE92でもコンパクトで振り回しの効くカローラFXに順次スイッチ。
1995年から第2部門(後に2輪駆動部門)が始まると、パワーウェイトレシオで有利なスーパーチャージャーを搭載したAE92レビンGT-Zの参戦が増え、1996年に2勝を上げた鷲見 宏康 / 高橋 浩子組のように、好成績をおさめることもありました。
しかし、次第にスターレットターボやDC2インテグラタイプRなど走行性能や動力性能で勝るライバルが登場すると上位に上がれなくなり、2000年以降ZZT231セリカやFD3S RX-7と同じクラスになると、下位に低迷するようになります。
また、ジムカーナやダートラでは、全日本格式に参戦した記録こそ少ないものの、やはりAE92レビトレGT-Zが地区戦以下では活躍。
DC2インテグラタイプRでの参戦ノウハウが確立されていない時期には、旧式ながら優勝をさらうことも少なくありませんでした。
ただ、いずれのカテゴリーでも姿を見られたのは1990年代末までで、2000年以降は急速に姿を消していきます。
そして再ブームに恵まれたAE86の陰で、AE92レビトレはモータースポーツの一線からも、市場からもひっそりと去って行きました。
なお、JAF公式記録で”AE92カローラレビン”あるいはカローラFXの参戦記録は数多くありますが、スプリンタートレノに関してはほぼ見当たらず、AE92でのモータースポーツ活動はレビンとFXを中心に回っていたことがわかります。
主要スペックと中古車相場
トヨタ AE92 カローラレビン GT-Z 1991年式
全長×全幅×全高(mm):4,245×1,680×1,300
ホイールベース(mm):2,430
車両重量(kg):1,070
エンジン仕様・型式:4A-GZE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ ICスーパーチャージャー
総排気量(cc):1,587cc
最高出力:165ps/6,400rpm
最大トルク:21.0kgm/4,400rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:37.9万~125万円(レビトレのみ、各型含む)
まとめ
歴代最高のヒット作となったAE90系レビトレですが、1991年の後継AE100系の登場、そしてバブル崩壊でソアラやスープラの中古車が安く買える状況、さらには2ドアクーペ需要自体が急激に先細りしていったこともあり、市場での価値は暴落しました。
つまり中古車としては全くの不人気車種になってしまったため、程度が良く安価で人気のグレードから国外へ流出してしまい、国内の中古車市場からは急速に姿を消していったのです。
筆者も2000年頃、知人の付き添いで出かけた”お買い得中古車市”で大特価のAE92スプリンタートレノGT-Zを目当てにしていたのですが、エンジンをかけてもらったらガラガラガラと異音がひどく、「もうこんな個体しか残っていないのか。」とガッカリした事を覚えています。
それでも現在の中古車市場に残っているものは、それまでのオーナーが比較的大事にしていた車だと思うので、特にGT-ZなどAE101より軽くて俊敏な走りを期待したくなります。
特にトレノはレビトレ最後のリトラクタブルヘッドライト車なので、この種のスタイルが好きな人にとっては、普通に中古車店で購入できる最後の機会かもしれません。
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