30年以上前のバブル時代も「英国車エンスーの入門車」と言われていましたが、どうやら現在も同じ、しかもクラシックカー入門車的な意味合いはより強まった感のある、イギリスのMGB。ラバーバンパー仕様や2+2のGT、GTにV8エンジンを積んだGT V8などさまざまなバージョンがあり、長年い年月を経てモディファイが進んみ、1台ごとに個性満点のモデルとなっています。

MG MGB / Photo by pyntofmyld

ヨーロッパ駐留で味をしめたアメリカ人向けブリティッシュスポーツ、MGB誕生

G MGB / Photo by Bernt Sønvisen

1945年に終戦を迎えた第2次世界大戦で、連合軍は大勝利!その後もソ連との東西冷戦などで多数のアメリカ軍兵士がイギリスへ駐留しましたが、そこで味をしめたのが母国にはない小型軽量で活発な走りが魅力のブリティッシュ スポーツです。

アメリカ人は自らあまり小さい車を作らない割に、日本の軽トラすら愛好家がいるほど小さい車も好むこと、さらにイギリスも戦争で疲弊した国力を復興するために、車は重要な輸出産業だったことも相まって、メーカー各社とも北米向けスポーツカーの開発には熱心でした。

MG-A後継として1962年に発売されたMGBもそんな1台で、当時のBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)傘下であり、戦前から小型スポーツカーの名門だった「MG」ブランドがラインナップする、ミジェットに続く2番目のフルモノコック・オープンスポーツでした。

ただし構造は現在のモノコックボディとは若干異なり、サスペンションはサブフレームに取り付けられ、メンテナンス時にはサブフレームごと足回りを脱着できる構造となっています。

MG MGB GT / Photo by Rutger van der Maar

エンジンは、戦後すぐに開発されたBMC Bタイプの排気量を1.8リッターまで拡大した直列4気筒OHVエンジンで、出力はグロス95馬力と慎ましいながらも、モノコックボディの恩恵で、MG-Aより一回り大きくなりつつも重量は同等だったため、当時のスポーツカーとしては十分な動力性能です。

ミッションは初期に2~4速、後に1速までのシンクロメッシュ機構を追加した4速フロアMT。

後になって、油圧作動式で3~4速、または4速のギア比をハイギアード化する機械式オーバードライブが追加され、実質的に5速または6速ミッションとして使う事も可能となり、ほかに3速トルコン式ATも設定されました。

MG-Aより大型化されたボディは、ゆったりとした車内スペース(特に足元)が提供されたほか、1965年にはピニンファリーナ デザインのクローズドボディとした2+2シーターハッチバッククーペ版「GT」を発売。

キャビンとラゲッジの隔壁を廃して積載性を向上させた事により、主要市場の北米で求められる実用性も確保されています。

大型ラバーバンパーへ換装するも、アメリカ向けラインナップは減少

MGB GT V8 / Photo by peterolthof

MGBおよびMGB GTは当初目論見通り北米市場で好調なセールスを記録したものの、1970年代に入る頃には厳しくなる排ガス規制でエンジンの出力が抑制され、さらにダットサン フェアレディや、続くフェアレディZなど、日本製スポーツカーの台頭で販売面で苦戦を強いられるようになります。

そして1973年には、旧態依然としたBタイプエンジンより大排気量マルチシリンダーでパワフル、しかもアルミブロックのため軽いなど、いい事づくめな3.5リッターのローバーV8エンジンを搭載した「MGB GT V8」を発売しますが、イギリス国外のヨーロッパ諸国向けに少数の左ハンドル車を作ったのみで、アメリカへは輸出しませんでした。

既にアメリカでのMG-Bは古めかしい「懐古調オープンスポーツ」として、積極的な動力性能向上まで求められていなかったとも言われていますが、アメリカではショップ独自に各種V8エンジンへのスワップチューンが行われているため、単にオイルショックの影響かもしれません。

なお、GTにのみに搭載されたローバーV8ですが、オープンボディへ搭載するための改造キットも発売されて日本にも少数が輸入されており、単なる「MGB V8」としてエンスー漫画に登場した事もありました。

MG MGB ラバーバンパー型(左)と従来型(右) / Photo by Rutger van der Maar

さらに1974年のアメリカでは、安全面の法規が大きく変わり、MGBも最初は「サブリナ」と呼ばれた大型バンパーライナーを、次いでフロントのメッキグリルやバンパーを、丸みを帯びた大型ウレタンバンパーへ換装し、ヘッドライト搭載位置を上げるためにフロントの車高を上げるなど、大幅に姿が変えられます。

この「ラバーバンパー仕様」などと呼ばれるモデルは、それまでのMGBのデザインから大きくかけ離れたため、賛否両論だったのはもちろんですが、そのあたりの時期を境にクローズドボディの「MGB GT」が北米への輸出を終了。

古き良きオープンスポーツという以外に存在意義を失ったMGBでしたが、それでも根強いファンがいたため生産・販売は継続されたものの、BLカーズ(合併や国有化を繰り返したBMCの、当時における名残)はトライアンフTR7など、より新型のスポーツカーを拡販するのに、MGBの継続販売は支障になると判断したようです。

MGBの生産終了は、旧MGそのものであるアビントン工場の終焉を意味したため反対も根強かったものの、結局は1980年10月に約18年続いたMGBの生産を終了。

場も閉鎖されて、「MG」ブランドは終わりを告げました。

後にマツダ MX-5ミアータ(ロードスター)の世界的大ヒットで、MGBの近代化版「MG RV8」が発売されますが、それはMGBとはまた別なお話です。

主要スペックと中古車価格

MG MGB Photo / by pyntofmyld

MG MG B 1962年式
全長×全幅×全高(mm):3,890×1,520×1,250
ホイールベース(mm):2,310
車重(kg):910
エンジン:水冷直列4気筒OHV8バルブ
排気量:1,798cc
最高出力:70kw(95ps)/5,500rpm(※グロス表示)
最大トルク:144N・m(14.7kgm)/3,500rpm(※同上)
燃費:-
乗車定員:2人
駆動方式:FR
ミッション:4MT
サスペンション形式:(F)ダブルウィッシュボーン・(R)リーフリジッド

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
ツアラー(オープン)通常モデル:138万~308万円・12台
ツアラー ラバーバンパー:320万円・3台
GT:198万~320万円・2台
GT V8:流通なし

永遠の「ブリティッシュスポーツ入門車」は、これからもきっと、ずっと?

MG MGB / Photo by FotoSleuth

1990年前後のバブル時代に輸入車ブームが巻き起こり、現在も続く「GT roman」シリーズなどのエンスー漫画を数多く描いてきた漫画家・西風 氏の作品において、MGBはミニなどと並んでよく話題の対象となりました。

「いつかはフェラーリに乗る人も、まずは入門編で乗る車」だったり、「そんな事はお構いなく、ずっと寄り添い続ける車」として、特にメッキバンパー車をメインとしたクールなエピソードが多かったものです。

あれから30年以上たち、MGBもいい加減くたびれてしまったかと思いきや、今でも世界中のMGBファンが乗り続けており、再生産されたのかコピーなのか新品部品も出れば、リビルトパーツも豊富なので、いまだに「古い割に手軽に乗れる、古いブリティッシュ・スポーツの入門車」として人気があるのには驚きます。

もうすぐ電動車ばかりになり、MGBのような車は走れなくなるような風潮もありますが、この種の車は古くなるほど実用性を失い、代わりに趣味性が増していき、いっそう輝きを増していくのかもしれません。

これからも何十年と、愛好家の手によって走り続けることでしょう。

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