松井孝允が魅せたSUGO驚速ポールポジション

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筆者の中で、今シーズンのベストシーンがこちら。第4戦SUGOで松井孝允がみせたスーパーラップだ。

ポールポジションが決まる予選Q2では、松井が駆る86マザーシャシーと嵯峨宏紀がドライブするプリウスGTとの一騎打ちに。セッション後半に嵯峨が1分17秒995をマークしトップへ。これで勝負決まりかと思われたが、これに対し同時にアタックしていた松井が記録したタイムは1分17秒499。

年々ラップタイムが上がっているGT300だが、これはさすがに誰もが予想していなかったタイム。サーキット中がどよめきに包まれた。さらに松井はタイムアタックを継続。限界のさらに限界を攻め、1分17秒493。わずか0.006秒だが自らのベストタイムを塗り替えて見せた。

彼がこのチームから参戦を始めた昨年は、どちらかといえば「土屋武士のチームメイト」という印象が強く、正直ほぼ無名の存在。

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それをオーナーであり、エンジニアであり、ドライバーでもある土屋が育て上げ、わずか1年でGT300を代表するエースドライバーに成長した。

実は、この時期には今季限りで第一線を退くことを決めていた土屋は「これで松井にはGT500に行っても十分に戦えるだけの速さがあることは証明された。あとはメンタル面を鍛えるだけ」と語っていたのが、印象的だった。

決勝ではプリウス勢の逆転を許し2位に甘んじたVivaC 86だったが、確実に流れが良い方向に行き始めたレースだったことは間違いない。

 

井口/山内組がついに初勝利!スバルBRZが2年ぶりの優勝

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シリーズ最長の1000kmで争われた第6戦鈴鹿。今年は天候に左右され、セーフティカーも出動するなど、荒れたレース展開となったが、その中で最後に笑ったのはSUBARU BRZ R&D SPORTの井口卓人/山内英輝の若手コンビだった。

4番手からスタートし序盤からトップ争いを展開するが、レース中盤に他車に押し出される形でコースオフ。タイヤバリアにマシンをヒットさせてしまう。これで優勝争いから脱落かと思われたが、幸いマシンはノーダメージで、その後に導入されたセーフティカーで展開を有利に持ち込むことができた。

そして井口、山内ともにミスのない走りを披露し、BRZ勢としては2年ぶりとなる勝利を飾った。

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昨年からチーム体制を一新し、若い力にステアリングを託していたスバル勢。2人とも才能あるドライバーではあるが、なかなか結果に結びつかず0勝で終了。特にエースに昇格した井口にとっては、結果が残せず悔しい1年となってしまった。

心機一転で臨んだ今シーズンは、開幕前にニュルブルクリンク用のマシンをテストしていた山内が大クラッシュを喫してしまい、幸い大事には至らなかったがドクターストップがかかってテストに参加できない不運も発生。

それでも2人は諦めずに、常に攻め続け、ようやく鈴鹿で優勝。もちろんチャンピオンを目指すためにはクリアしなければならない事はたくさんあるのだが、一つ肩の荷がおりたレースだった。

 

2016GT300のハイライト、VivaC 86対aprプリウスの最終2連戦

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ツインリンクもてぎで行われた最終2連戦。GT300も複数台がチャンピオン争いに絡む混戦となった今シーズン。熊本地震により中止となったオートポリス大会の代替え戦も含め、変則2連戦で開催されたツインリンクもてぎでの最終ラウンドで全ての明暗が分かれた。

連覇を狙うGT-R勢は予選から苦戦を強いられ後退。夏の富士ラウンドで優勝しチャンピオンの可能性を残していたARTA M6 GT3は序盤に大クラッシュを喫してしまい、マシンダメージが大きいことから最終戦は出走できず。これで、今季タイトル争いは土屋/松井組のVivaC 86と嵯峨/中山組のaprプリウスに絞り込まれていく。

多くのファンにとっては日曜日の争いの方が印象に残っているかもしれないが、実は土曜日の第3戦でも相対していた2台。レース後半のトップ43周目のV字コーナーで6番手を走っていた中山に松井が襲いかかり、執念でのオーバーテイク。その後プリウスはマシントラブルでリタイア。結果的にVivaC有利の状態で翌日の最終戦へ。

逆転のためには優勝が絶対条件のプリウスは朝の予選で抜群の速さをみせポールポジションを獲得。一方のVivaCはタイヤ無交換作戦を行うため、決勝序盤からペースを上げられず一時は10番手まで後退。

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いつの間にか流れはプリウスに傾いたかに思われたが、土屋からステアリングを託された松井は、温存していたタイヤでペースをあげライバルに接近。一方のプリウス陣営もタイヤ無交換作戦を敢行し応戦するが、勢いは完全にVivaC 86と松井にあった。

トップ37周目のV字コーナーでインに飛び込み、一撃でパス。そのまま逃げ切り今季2勝目を飾るとともにVivaC 86のシリーズチャンピオンが決定した。

長年栄冠を掴めなかった土屋が最後のチャンスで手にした初のチャンピオンということで注目を集めたが、改めて振り返ると、今年のGT300の主役ともなったVivaC 86とaprプリウスが様々な角度からぶつかり合ったガチンコ勝負でもあった。

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実は2チームとも今季は「打倒ワークス」「打倒GT3」を掲げ、欧州メーカーが威信をかけて投入したマシンたちに「日本のモノづくりの力」で打ち倒すことを目標にして毎戦戦ってきた。

同クラスの勢力図を計るバロメーターにもなっているBoP(性能調整)の影響も少なからずあったが、こうして最終戦では2台の直接対決=GT300チャンピオン決定戦に。開幕戦の岡山ではGT3の独壇場だったが、それに屈することなくマシンのレベルアップに徹してきた彼らが、最終戦では欧州マシンを抑えて堂々のワンツーフィニッシュ。

なかなか浮き彫りにはならなかったが、これもGT300ならではの“名勝負”だった気がする。

 

まとめ(2017年も話題満載?)

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GT500クラス同様に、GT300クラスもストーブリーグの話題は尽きない。

さすがにマシンのラインナップが大きく入れ替わることはないが、導入2年目となる新型FIA-GT3勢がどこまでマシンを熟成させ、またBoPのハンデを乗り越えて速さを引き出してくるのか。

それに対し迎え撃つ形となるJAF-GT、マザーシャシー勢もさらなるアップデートを施してくることは確実。さらにドライバー体制でも世代交代がどんどん進んでいく模様だ。

国外のスーパーカーと国産のハンドメイドレーシングカーによる頂上決戦。2017年シーズンも開幕戦から目が離せない。

 

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