近年のF1では10代など若手のドライバーが積極的に起用される傾向が強くなっています。創設当初には50代のドライバーがいたり、これほど多くの若いドライバーがF1のシートを埋めることはありませんでした。では、なぜドライバーたちの低年齢化は起こってきたのでしょうか?また、低年齢化が問題視される理由はどこにあるのでしょう。

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低年齢化が進んでいるF1ドライバー

18歳でF1デビューが決まり話題を呼んだストロール(出典:http://www.williamsf1.com/racing/gallery)

今年はランス・ストロールが18歳の若さでF1に昇格することが決まり、開幕前から大きな話題を呼びました。

若すぎるという意見も多いなか、近年ではマックス・フェルスタッペンやダニール・クビアトのようにF1では10代という若さでデビューを飾るケースも珍しくありません。

現在はF1に参戦するために必要なスーパーライセンスの取得に下位のシリーズでの実績が必須となり、18歳以下は参戦出来ないという新たな規定が設けられ、FIA(国際自動車連盟)も低年齢化に歯止めをかける考えを示しています。

メディアなどでは経験の少なさ故の危険性や低年齢化について疑問視をする報道も多く見られますが、実際にどのような問題を抱えているのでしょうか。

 

F1ドライバーの平均年齢はどのように推移してきたのか?

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かつてF1では20代後半や30代にしてデビューするケースも多く、今季マクラーレンホンダのシートを掴んだストフェル・バンドーンは25歳という、近年の傾向からはかなり遅めとも言えるフル参戦を果たしました。

そこからもF1デビューの年齢が若くなっている事は明らかですが、なぜこのような現象が起こってきたのでしょうか。

まず最初にF1が創設されてからのドライバーの平均年齢の推移を10年おきに見てみましょう。

1950年:35.9歳

1960年:31.3歳

1970年:31.0歳

1980年:29.9歳

1990年:28.5歳

2000年:29.3歳

2010年:27.6歳

2017年:26.5歳

こうして見てみると、創設当初からは約10歳ほど平均年齢が若くなっており、データで見てもドライバーが若くなっているのは間違いありません。

1950年代には50代でデビューを飾ったケースもあり、現代とは求められるものやレースに対する考え方が大きく違っていたことも読み取れます。

年齢が若くなった要因の1つには、F1の人気が徐々に高まったことも考えられます。

未だに他のスポーツと比べてモータースポーツの競技人口は少ないですが、人気ドライバーに憧れた子どもたち、もしくはその親たちによって小さな頃からF1を目指す人が増えたことの現れとも言えるのです。

そのため1950年代から著しく低年齢化しているのは、人気や認知度の上昇を考えると当然という見方も出来ます。

しかし、近年話題に上がる低年齢化はこの当時と比べたものではなく、1980年以降との比較をしているケースがほとんどです。

その1980年代に入ってから平均年齢が30歳を下回ったのですが、そこから現在までの平均年齢を比較してみると約40年の間に約3歳程度しか若くなっていません。

しかし、長年F1を見てきたファンはこの数値以上に大きく若返ったように感じているのではないでしょうか。

この頃は今のように10代のドライバーが毎年のようにデビューしていなければ、最年少記録が近年のように頻繁に塗り替えられることもありませんでした。

ではその3歳の差が何故これほど大きく若年化しているように見えるのでしょうか?

 

活躍の著しい若手の存在感が原因?

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では何故、F1はこれほどドライバーの低年齢化が話題に上がるのでしょうか。

モータースポーツは他のスポーツよりも危険性が高いことが大きな理由として挙げられますが、デビュー以降活躍を見せるマックス・フェルスタッペンを見ていると若いから危険という考えが正しい訳ではないと思います。

彼はすでにF1で優勝を飾る実績を持っており、当然ミスを犯したこともありますが彼だけが多くのミスを犯した訳でもありません。

むしろ他のドライバーよりもミスは少なく、優秀なドライバーだという評価は日に日に高まっています。

このフェルスタッペン(19歳)を筆頭にランス・ストロール(18歳)、エステバン・オコン(20歳)などが話題に上がることも多く、若手の存在感が大きくなっているのも理由の1つではないでしょうか。

しかし、そういった若手の活躍は、2000年代に入った直後にも起きていました。

2000年にデビューを飾ったジェンソン・バトン(20歳)を皮切りにキミ・ライコネン(21歳)、フェルナンド・アロンソ(19歳)といった20歳前後の若手ドライバーは、この頃も注目を集めていたのです(カッコ内はデビュー当時の年齢)。

すると、若手ドライバーの話題性が低年齢化を象徴するものではない事が見えてきます。

 

他のスポーツと比べてもF1ドライバーは若すぎるのか?

F1と同じような低年齢化を辿る可能性があるレッドブルエアレース(©Red Bull Content Pool)

このF1のような若年化が、今後見られる可能性があるのがレッドブルエアレースです。

まだ創設されてから歴史の浅いレッドブルエアレースの創設当初から現在までのパイロットの平均年齢を見ると、F1と似た傾向が見られます。

レッドブルエアレース 2003年:45.4歳

レッドブルエアレース 2017年:43.3歳

F1 1950年:35.9歳

F1 2017年:26.5歳

練習出来る環境の少なさは共に当てはまり、創設時の2003年と今季のパイロットの平均年齢を比較すると若くなっていることが分かります。

近年は日本でも開催されるなど徐々に認知度が高まっており、将来はエアレースのパイロットを目指したいと夢見る人も以前と比べて少しづつ増えてきているはずです。

この現象は過去にF1でも起こっているのですが、人気が高まったスポーツほど若い才能が育ちやすく発掘されやすいため、選手の若年化を起こす傾向があるのです。

日本のプロ野球を見てみると主力として使われる選手の平均年齢はどのチームも27歳から30歳となっています。

また、サッカーのJリーグで見てもJ1に所属する全18チームのなかで、平均年齢が30歳を超えているチームは無く、最も若いチームの柏レイソルの平均年齢は25.5歳。

練習出来る環境の違いや競技人口などその特徴に大きな違いはありますが、身体能力や判断力のピークと言われる年齢が20代後半だと言われており、F1の辿っている低年齢化は決して不思議ではなく、むしろ正しい方向に向かっているようにも見えます。

では何故F1では低年齢化が問題のように語られることが多いのでしょうか。

それはドライバーの個性が見えにくくなったという、現在のF1が抱えている問題と大きく関わってくるのです。

 

重要視されるドライバーの将来性

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ここまでドライバーの低年齢化が、パフォーマンスや人気の低下に直接関係がない要素について触れてきました。

ですが、このように低年齢化が進んでいるように見える主な原因はベテランドライバーの減少にあると思われます。

2017年のF1に参戦しているなかで30歳を超えているのはわずか5名しかおらず、その内の3名がチャンピオン経験者という優れた実績を持つドライバーです。

1980年代から20代前半のドライバーがいた事を考えると、10代でデビューを飾ったドライバーたちを除けばそれほど大きな違いは現れません。

では何故ベテランドライバーたちはいなくなってしまったのでしょうか。

実績のない若手ドライバーを起用することはチームにとってリスクを背負うことになり、経験のあるドライバーを雇う方が成績を残すためには無難な選択と言えるでしょう。

しかし、そういった手堅いチーム作りをするケースは徐々に減っており、今季から例を挙げるとドライバー育成を掲げるトロ・ロッソの他にも、ザウバーが揃って若手ドライバーを起用しています。

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このザウバーを引き合いに出せばマーカス・エリクソンは後ろにスポンサーが付いていることは有名で、もう一人のパスカル・ウェーレインは今季からザウバーのマシンに搭載されているメルセデス・パワーユニットを獲得するための布石という報道もありました。

もちろん、どちらのドライバーも優れた実力を持っていることは間違いありません。しかし、本当に一つでも上の順位を目指すのならば、このラインナップは誤りだという意見も少なくないのです。

なぜなら、経験豊富で実績のあるドライバーはF1以外のカテゴリーにも多数いるからです。

しかし、彼らの若さはチームそしてスポンサーにとって大きな魅力であり、将来性という期待が彼らを支援するスポンサーの心を動かします。

F1チームの年間予算は毎年のように膨れ上がり、最低でも100億円は必要だと言われています。しかも、上位を目指すならばこの予算では十分とは言えません。

この予算を少しでも多く用意するために若手を起用し、ベテランは少しづつF1から姿を消すことになっているのです。

ではF1ドライバーを長く続けるには一体どうすれば良いのでしょうか?

 

現在のF1で生き残るには3年以内に勝たなければいけない!?

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先述のように将来性が大きな意味を持つ現代のF1はドライバーの入れ替わりが激しくなり、実力を見極めるための期間は減少している傾向にあります。

2010年以降にF1のレギュラードライバーの座を射止めたのは33名に上ります。しかし、その内の24名が3年以内にF1を去ることになりました。

その生き残った9名の中で優勝を飾ったドライバーは3名に絞られ、名を挙げていくとダニエル・リカルド、マックス・フェルスタッペン、そして先日のロシアGPで優勝を飾ったバルテリ・ボッタスです。

ボッタスは今季メルセデスへ移籍したことが優勝を飾る大きなきっかけとなりましたが、彼を除けば2010年以降にデビューして優勝まで辿り着いたのはレッドブルの育成ドライバーしかいないということになります。

©Red Bull Content Pool

これはレッドブルの育成システムが機能しているという見方も出来ますが、理由はそれだけではないでしょう。

F1ではマシンの性能が勝敗を大きく左右しますが、経験を積みながらF1での戦い方を学んだドライバーたちも存在したからです。

ではそれ以前に優勝を達成したドライバーがどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

現役最年長のキミ・ライコネンより後に優勝を飾ったドライバーが要した年数とF1に参戦した期間を見るとこのようになります。(☆はチャンピオン経験者)

ルイス・ハミルトン 参戦1年目 2007-現役 ☆

キミ・ライコネン 参戦2年目 2001-現役 ☆

フェルナンド・アロンソ 参戦2年目 2001-現役 ☆

セバスチャン・ベッテル 参戦2年目 2007-現役 ☆

ヘイキ・コバライネン 参戦2年目 2007-2013

パストール・マルドナド 参戦2年目 2011-2015

マックス・フェルスタッペン 参戦2年目 2015-現役

ロバート・クビサ 参戦3年目 2006-2010

フェリペ・マッサ 参戦4年目 2002-現役

ダニエル・リカルド 参戦4年目 2011-現役

バルテリ・ボッタス 参戦5年目 2013-現役

ジェンソン・バトン 参戦7年目 2000-2016 ※今季モナコGPにスポット参戦予定

ニコ・ロズベルグ 参戦7年目 2006-2016

ジャンカルロ・フィジケラ 参戦8年目 1996-2009

ヤルノ・トゥルーリ 参戦8年目 1997-2011

マーク・ウェバー 参戦8年目 2002-2013

先日のボッタスを含めるとライコネン以降に初優勝を達成したドライバーは16名。この中からチャンピオン経験を持つ現役ドライバーに注目してみると、4名の内の全員がデビューから3年以内に初優勝を飾っています。

すると、これまで3年で姿を消したドライバーたちがF1に残れなかった理由が見えてくるのではないでしょうか。

F1参戦から3年以内に優勝を飾った人でもチャンピオンを獲れなったケースもありますが、この3年という期間で残した結果がF1ドライバーのその後を見定める1つの指標になっているのです。

その去った人のなかには今後さらなる成長が見込まれていた場合もあったのですが、チームはスポンサーの意向やチーム予算を確保するために積極的に将来性のある若手を起用してきました。

過去にはジェンソン・バトンのようにキャリアを重ねるなかで成長してきたドライバーもいましたが、現在ではそれほど長く経験を積むことが出来なくなっているのです。

バトンは初優勝に時間を掛けたが、キャリア終盤に円熟味のある走りを見せた。(©︎Pirelli)

経験豊富なベテランとして長年活躍したフィジケラやトゥルーリ、さらにはチャンピオンに輝いたバトン、ロズベルグのように、苦しい期間を乗り越えた末に感動的な初優勝を飾るチャンスを掴むことが難しくなっているのです。

近年は20歳前後の若さでF1から姿を消した選手も多く、経験を積むために与えられる時間は僅かと言っていいでしょう。

現代のF1ドライバーには個性が無いと言われる場合も多いですが、実際には個性が見える前にいなくなっているという言い方が正しいのかもしれません。

F1は勝負の世界なので仕方のないことかもしれませんが、こういった要因の末にドライバーの個性が見えづらくなったことが、この低年齢化における最も大きな問題点なのかもしれません。

 

まとめ

以前は鮮やかに現れた期待の新人と実績のあるスター選手、さらに苦労を重ねたベテランなど様々なキャラクターのドライバーがF1で戦っていました。

チームが将来性を重視した結果、現在は豊富な経験を持っていたベテランドライバーはF1に残れず、スター選手と新人の2パターン化しているという見方も年々強まっています。

そのなかでも、現在参戦しているドライバーたちも昔のF1ドライバーに負けない魅力を走りや言葉で見せているので、レースと合わせて注目して見てはいかがでしょうか。

 

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