「最高のスポーツセダンとは何か」1990年代を知る自動車マニアならば、日産 プリメーラを思い浮かべる人も少なくないでしょう。それまでひたすら屋根の低いハードトップ車がもてはやされていた中で、一見平凡な4ドアファミリーセダンと思わせておいて、キレ味鋭いハンドリングと実用的な室内空間を両立させたプリメーラは、まさに「衝撃」の車でした。
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「901運動」の産んだ最高傑作
1990年代までに技術の世界一を目指す、日産の「901運動」。
特に日本車ではそれまで取り組みが浅かった高いレベルのハンドリングや路面追従性、高速長距離走行での安定性の向上のため、日産開発陣は幾度となくヨーロッパ詣でを繰り返し、今まで自分たちに何が欠けていたのか、これから何をすべきかを考え続けました。
その結果は1980年代後半から花開き始め、S13シルビアやR32スカイラインなど、現在まで高い評価を受ける車を多く送り出し、1990年代はじめの日産黄金時代を作り出します。
その中でも901運動の申し子と言うべき、一台の4ドアセダンがありました。
日産 P10 プリメーラ。
一見してどこにでもあるような、しかも当時の日本で流行していたルーフがペタペタに低いスポーティな4ドアピラーレスハードトップでも無い、単なるファミリーセダン。
しかし、人々はその車が実はとんでもなく素晴らしいハンドリングを備えた強烈なスポーツセダンであることを聞き、まさかこの車が?と驚愕します。
そしてステアリングを握る機会があると、それが本当であったことを知り、さらに驚きを深めたのです。
それはまさに、それまでの日本車の常識を覆す「事件」でした。
日本が作った初めてのヨーロッパ車、P10プリメーラ
P10プリメーラは、「日本が初めて作ったヨーロッパ車」だったと言えるかもしれません。
ゴツゴツと硬い足はそれまでの日本の常識からすればクレーム物でしたが、既にヨーロッパ車に慣れ親しんでいたユーザーは「日本車もついにヨーロッパのレベルに達したか」と驚きました。
フロントに採用されたマルチリンクサスペンションによるハンドリングの評価は非常に高く、見た目の平凡さとは裏腹の爽快な走りを見せたのです。
それでいて、当時の日本車としては高いルーフと広い室内空間は乗員に卑屈さを味合わせず、「プリメーラパッケージ」と宣伝されたこの車がただ者では無いことを実感させました。
最初は「これまでの日本車との違い」に戸惑ったユーザーもプリメーラの非凡さに気づき、4ドアピラーレスハードトップ車が流行終了と同時に大不人気車へ転落する中、モデル末期まで好調なセールスを記録しています。
P10プリメーラ・BTCCやJTCCでの活躍
スポーツセダンとして高い評価を得たP10プリメーラは、レースでも活躍しました。
1991年からワークス体制でBTCC(英国ツーリングカー選手権)への参戦を始め、1993年から頭角を現し始めてブランズハッチの第6戦・第7戦で2位入賞し手応えをつかむと、第9戦シルバーストンでは1-2フィニッシュを決め、ついに初優勝を勝ち取ったのです。
1994年は再び下位に沈んで苦戦した一方、この年から始まったJTCC(全日本ツーリングカー選手権)の第17ラウンド・インターTECでは星野 一義のドライブするカルソニックプリメーラが初優勝を果たしています。
1995~1996年はBTCCへ不参戦、またはセミワークスのみでの参戦でしたが、1995年のJTCCには2台のプリメーラが参戦し、やはりインターTECで星野 一義が1勝を上げ、日本でのP10プリメーラの戦いに区切りをつけました。
P10プリメーラの代表的なスペックと中古車相場
日産 HP10 プリメーラ 2.0Te 1990年式
全長×全幅×全高(mm):4,400×1,695×1,385
ホイールベース(mm):2,550
車両重量(kg):1,170
エンジン仕様・型式:SR20DE 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,998cc
最高出力:150ps/6,400rpm
最大トルク:19.0kgm/4,800pm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:29~79万円(2017年6月現在)
キープコンセプトながらセダン不振時代で苦戦したP11プリメーラ
1995年9月にプリメーラは2代目P11にモデルチェンジ、プリンス店向けのプリメーラのほか、サニー店向けにフロントグリルなどが少し異なるプリメーラカミノを販売。
基本的にP10からのキープコンセプトとされましたが、そもそもセダン市場の不振が始まっており、P10ほどの成功作にはなれませんでした。
そこで、当時のステーションワゴンブームに乗ったプリメーラワゴンの投入や、可変バルブ機構Neo VVLを採用しパワーアップしたSR20VEを搭載するなど、テコ入れを図ります。
しかし、せっかくのSR20VEも5MT仕様が無く、6速CVT「Hyper-CVT M6」との組み合わせのみ、しかもこのCVTがマニュアルモードでも最高出力190馬力を発揮する回転数に達する前にシフトアップしてしまうなど、チグハグ感が否めなかったのは残念です。
P11はBTCCで日本車初タイトルを獲得するなどレースで大活躍!
そうした日本での販売不振とは裏腹に、レースではP10以上の大活躍を演じます。
1996年からJTCCに、1997年からはBTCCにも参戦し、日英両国で主力ツーリングカーとしてフル回転。
1996年のJTCCではアコード圧倒的優勢の中、MINEの第4大会第7ラウンドでカルソニックプリメーラの星野 一義が、第8ラウンドでユニシアジェックス・カミノの影山 正彦が優勝し、最終大会第14戦インターTECでのアンソニー・レイドを含めこの年3勝しました。
JTCCでは1997年にもザナヴィ・カミノの本山 哲とカルソニックプリメーラの星野 一義が各2勝を上げて4勝しますが、この年限りで日産はJTCCから撤退します。
代わって全力を上げた1998年のBTCCではシルバーストンの第3戦で優勝したのを皮切りに快調に勝利を重ねて9勝を上げるなど好成績を残し、ついに日本車初のシリーズチャンピオンを獲得、チームタイトルとマニュファクチャラーズの2冠を達成しました。
1999年もその勢いは止まらず、ローレン・アイエロがドライバーズチャンピオンを獲得してチームとマニュファクチャラーズ合わせて3冠、前年型で参戦したプライベーターがベストプライベーターに選ばれ4冠と賞典を総なめし、文句無しの大勝利!
P11プリメーラによる日産のワークス参戦はこの年で終わりましたが、引き続きプリメーラは各地のレースでその強さを見せつけ続けたのです。
P11プリメーラの代表的なスペックと中古車相場
日産 HP11 プリメーラ 2.0Te 1995年式
全長×全幅×全高(mm):4,430×1,695×1,400
ホイールベース(mm):2,600
車両重量(kg):1,180
エンジン仕様・型式:SR20DE 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,998cc
最高出力:150ps/6,400rpm
最大トルク:19.0kgm/4,800pm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:18~59.8万円(2017年6月現在)
最後のプリメーラ、スタイリッシュなP12
2001年、プリメーラは最後のモデルチェンジでP12となります。
大型化されて3ナンバーのスタイリッシュなデザインは高い評価を受け、SR20VEにも待望の6速MTが設定されますが、初代P10以来のコンパクトながらよくまとまったヨーロピアンセダンの雰囲気からはコンセプトが変わっていました。
ルノー・日産連合となった新生日産のニューコンセプトモデルとしてデザインは評価されたものの、時代は既にセダンやステーションワゴンを求めておらず、2005年12月をもって日本での販売を終了、2008年には海外モデルも販売終了しました。
ブルーバードシルフィ(現在のシルフィ)へその役割を譲ったプリメーラはこれで完全に消滅し、3代15年の駆け抜けるような歴史に終止符を打ったのです。
P12プリメーラの代表的なスペックと中古車相場
日産 HP12 プリメーラ 2.0V 2001年式
全長×全幅×全高(mm):4,565×1,760×1,480
ホイールベース(mm):2,680
車両重量(kg):1,320
エンジン仕様・型式:SR20VE 直列4気筒DOHC16バルブ NEO VVL
総排気量(cc):1,998cc
最高出力:204ps/7,200rpm
最大トルク:21.0kgm/5,200pm
トランスミッション:6MT
駆動方式:FF
中古車相場:9~59.4万円(2017年6月現在)
まとめ
日本車離れしたヨーロピアンスタイルが衝撃を与えた初代P10、セールスで苦戦しながらレースでは大活躍した2代目P11、コンセプトをガラリと変えつつ、そのデザインで新時代の日産を象徴していたP12。
3代15年の中で常に驚きを与え続け、モデルチェンジやマイナーチェンジのたびにどこかワクワクさせた車、それが日産 プリメーラでした。
さらにモータースポーツ活動も絡めて振り返ると、ツーリングカーとして時には不利な状況でも立ち向かって勝利をもぎとり、時には圧倒的な強さを見せています。
姿形は平凡でも、乗ればわかる非凡さで通をうならせるようなスポーツセダンだったプリメーラ。
初代のP10など今でもまたハンドルを握ってちょっと攻め込んでみたい、青春の1台ですね。
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