「4ドアセダン」というカテゴリーは、2020年代に入り、いよいよ消滅の危機に立たされています。それでも「あの頃は良かった」的な人気を今なお誇るのは、1990年代までに登場した、重厚で高品質ではあるものの、現代の価値観で見ると、「決してスマートとは言い切れない」大・中型セダン群です。中でも、先代Y32に続き、丸目4灯ヘッドライトが採用された「グランツーリスモ」を擁するセドリック/グロリアのY33型は代表的。今回はそんなY33型を、4代目レパード(JY33)と共に、ご紹介します。

日産 Y33グロリア グランツーリスモ/ Photo by MIKI Yoshihito

 

日本がとても大変な年にデビューした、日産の主力高級セダン Y33シリーズ

日産 Y33 10代目グロリア ブロアム /出典:https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/motorz.production.assets/wp-content/uploads/2016/09/http-www.tomeipowered.comBTEindex.phptomei-history2735.jpg?id=455

1990年代中頃は、1991年のバブル崩壊による不況の余波がついに全国に及び始め、いよいよ日本経済が不況を自覚し始めた頃でした。

おまけに1995年1月に、阪神・淡路大震災、7月には地下鉄サリン事件と暗いニュースが続き、バブル崩壊からの復活どころか「この先、日本はどうなってしまうの?」と誰もが不安になった時期です。

当時の日産における主力高級セダン、Y33セドリック(9代目)/グロリア(10代目)がデビューした1995年6月は、そんな大変な時代のど真ん中でした。

国全体が大変な時代ではありましたが、日産にとってはさらに大変な時期で、「1990年代に技術力世界一を目指そう」と意気込んだ「901運動」によりデビューしたラインナップの数々の利益が思わしくなく、さらにバブル崩壊による失速で、開発費の捻出にも苦戦し始める始末です。

その結果、販売不振を克服するための改良は、バブル時代の価値観を引きずったままや、熟成不足により中途半端など、コストダウンを強いられた事によって、いかにも安っぽく見えてしまう新型車が続出しました。

どのメーカーも大なり小なり同じ状況ではありましたが、日産は「売れる車がない」という各販売チャネルの悲鳴に応えて乱発した新型車が、販売不振でさらに悪化。

かつてはトヨタと日本一を競った自動車メーカーであったにもかかわらず、坂を転げ落ちるように経営不振に陥っていきました。

Y33型セドリック/グロリアは、業火に包まれ沈み始めた日産を何とか支えようと、日産ユーザーをつなぎ止める重要な役割を背負い、炎の海を突っ切るようにデビューしたのです。

キープコンセプト!しかし中身は一新された正常進化でユーザーの期待に応えた

日産 Y33 9代目セドリック グランツーリスモ/ Photo by Carlos Rivera

セドリック/グロリアは、2代前のY31型でヒット作となり、Y32型でクラシック系(標準グレード)やブロアム系(高級グレード)とは異なる丸目4灯ヘッドライトの迫力あるフロントマスクに変更された事で、スポーツグレード「グランツーリスモ」のイメージが強められました。

そして、ライバルのトヨタ クラウンが「黒縁メガネをかけて七三分けの高学歴エリート」なら、セドリック/グロリアのグランツーリスモは、「サングラスやフチなしメガネで髪はオールバック、くわえ煙草でニヤリと笑う、ちょっとダーティなイメージの実力主義者」という趣で、ライバルとはずいぶん印象の異なる車となっていったのです。

さらにY33型でも、ボディラインにやや流線型のスピード感が加わった他は、そのイメージを踏襲。

特にグランツーリスモは丸目4灯ヘッドライトもキープコンセプトで、グランツーリスモで獲得したユーザーは放さないぞ!という気迫に溢れていました。

エンジンは、従来のVG系V6エンジンに代え、アルミ合金製の軽量ハイパフォーマンスなVQ系へ更新。

モデルチェンジ当初から上級グレード用の3リッターV6DOHC自然吸気「VQ30DE」、同ターボ「VQ30DET」が採用され、1997年6月のマイナーチェンジでは2.5リッターの「VQ25DE」搭載車も追加されます。

VG系には、3リッターSOHCのVG30Eや、後に追加された廉価グレード用2リッターSOHCのVG20Eは残されましたが、VQ系が主力になった事で、サイズが拡大しても100kg近い軽量化を達成。出力強化も相まって、動力性能は大幅に向上しています。

さらに歴代セドリック/グロリアでは初のフルタイム4WD車が追加され、初代ステージア(WC34)と同じ2.5リッター直6DOHCターボのRB25DET(235馬力)を搭載。

同じエンジンは同時期のスカイライン(R33/R34)やローレル(C34/C35)にも搭載されましたが、いずれもFR車用で、R33系スカイラインGT-Rの4ドアセダン仕様(BCNR33改)を除けば、セドリック/グロリアのような4WDターボ車はありません。

「もう1台のY33」、4代目レパード

日産 JY33 4代目レパード/ 出典:https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/motorz.production.assets/wp-content/uploads/2016/09/http-www.tomeipowered.comBTEindex.phptomei-history2735.jpg?id=409

Y33系には、セドリック/グロリアのほかにもう1車種、4代目「レパード」がラインナップされました。

2代目まではトヨタ ソアラに対抗したハイソ系スペシャリティカー、3代目は一転してシーマベースの海外向け高級車、インフィニティ Jを日本仕様とした「レパードJ.フェリー」となっていましたが、4代目はY33セドリック/グロリアの兄弟車JY33型となり、車名も「レパード」へ戻されています。

なぜなら、3代目がモデルチェンジをする頃、プレジデント以外の高級セダンがなくなってしまう日産店や、そもそも取り扱いのなかったサニー店のラインナップ不足を解消するために、日産モーター店向けのセドリック、日産プリンス店向けのグロリアとは別車種として用意されたモデルで、1996年3月に発売されました。

しかし、既にレパードJ.フェリーの時点で販売不振に陥っており、サニー店でも高級セダンを求める顧客がおらず、販売は低迷。

歴代モデルを通じコンセプトが安定しなかったレパードを象徴していましたが、スタイリッシュでスポーティなセダンには、セドリック/グロリアのグランツーリスモとはまた違った魅力があり、珍車扱いにするには惜しい車です。

ディーゼル車(RD28搭載)こそないものの、VQ30ターボ車やRB25DET搭載の4WDターボ車が設定され、電動スーパーハイキャス仕様もラインナップされていたため、「ちょっと古くてレアな、カッコイイセダンが欲しい」というユーザーにはオススメのモデルです。

なお、日産としても最初からあまり販売台数を見込んでいなかったためか、1997年10月のマイナーチェンジではセドリック/グロリアと同様の改良が成され、自然吸気スポーツ仕様のXR系には、日産初の直噴エンジンVQ30DEの直噴仕様「VQ30DD」が搭載されるなど、実験車種的な扱いとなっていました。

主要スペックと中古車価格

日産 Y33 セドリック グランツーリスモ /出典:https://www.favcars.com/nissan-cedric-gran-turismo-y33-1995-97-wallpapers-3369.htm

(Y33セドリック/グロリア 主要スペック)
※セドリックとグロリアは基本的に全グレード同一スペック
日産 HY33 セドリック(グロリア) グランツーリスモアルティマ 1995年式
全長×全幅×全高(mm):4,875×1,765×1,425
ホイールベース(mm):2,800
車重(kg):1,580
エンジン:VQ30DET 水冷V型6気筒DOHC24バルブ ICターボ
排気量:2,987cc
最高出力:199kw(270ps)/6,000rpm
最大トルク:368N・m(37.5kgm)/3,600rpm
10・15モード燃費:8.6km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FR
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク


(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
セドリック ブロアム系:15万~99万円・11台
セドリック グランツーリスモ系:15万~109.9万円・21台
グロリア ブロアム系:13万~38.8万円:8台
グロリア グランツーリスモ系:15万~99.9万円・27台
グロリア オーテック コンバーチブル:ASK・1台

日産 JY33 レパード /出典:https://www.favcars.com/nissan-leopard-jy33-1996-99-pictures-209043.htm

(JY33レパード 主要スペック)
日産 JHY33 レパード XRグランスポーツ 1997年式
全長×全幅×全高(mm):4,895×1,765×1,425
ホイールベース(mm):2,800
車重(kg):1,600
エンジン:VQ30DD 水冷V型6気筒DOHC24バルブ 直噴
排気量:2,987cc
最高出力:169kw(230ps)/6,400rpm
最大トルク:294N・m(30.3kgm)/4,000rpm
10・15モード燃費:11.2km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FR
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク


(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
XV系(3リッターターボ):59.8万~69.8万円・2台

純粋な兄弟車としてはY33型が最後になったセドリック/グロリア

日産 Y33 グロリア グランツーリスモ /出典:https://www.favcars.com/photos-nissan-cedric-gran-turismo-y33-1995-97-13921.htm

当初から日産車だったセドリックと、プリンス車として始まったグロリアは、1971年にデビューした230型(3代目セドリック/4代目グロリア)からは、基本的には多少デザインが異なる程度となりました。

そして販売店が異なるだけの純粋な兄弟車として、その後は代を重ねてきましたが、Y34型へのモデルチェンジと同時期の1999年、大きな転機を迎えます。

深刻な経営危機に陥っていた日産は、再建のためにルノー傘下となるに先立ち、1999年4月から「レッドステージ(旧プリンス店・サティオ店・チェリー店)」、「ブルーステージ(日産店・モーター店)」へと販売系列を2つへ集約するも、実際にはすぐ全車種取扱店「レッド&ブルーステージ」へ統合される販売会社が相次ぎました(現在は全て単なる日産販売店)。

それに伴い、Y34型セドリック/グロリアもレッドステージのグロリアはスポーティなグランツーリスモ系、ブルーステージのセドリックはラグジュアリーなブロアム系にキャラクターが分けられ、後にグロリアのみグランツーリスモが復活するなど、兄弟車ながらコンセプトが異なる車となって、全車種取り扱い店舗での扱いを容易にしたのです。

つまりY33型は、同条件で両雄並び立つ事ができた最後の「セドリック」と「グロリア」(そして「レパード」)で、現在では1メーカーで同じセダンが3種類も並ぶ状況は考えられませんが、1990年代後半のY33型はそれが許された最後の世代でした。

そんな「古きよき、ちょっとのんきな時代のちょいワル渋めセダン」として、今や中古車市場では定番のグランツーリスモはもとより、ブロアム系もちょっとした人気車種になっています。

 

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