電動キックボードから最近トヨタが発売したC+pod(シーポッド)、出光タジマの新EVまで、何かと話題の「超小型モビリティ」ですが、既に社会で広く使われており、個人ユーザーも増えてきているのがミニカー規格の「コムス」です。コムスは、トヨタ系のトヨタ車体が開発・生産しており、トヨタ系ディーラーで購入・アフターサービスを受けることが可能なモデルです。

セブンイレブンの宅配用車両としても使われるコムス / Photo by Daniel Davis

近代的電動ミニカーの先駆者、エブリデーコムスから始まった「コムス」

旧アラコ時代の2000年に発売した初代コムス「エブリデーコムス デリバリー」/ 出典:https://www.toyota-body.co.jp/english/csr/pdf/2007/09-10.pdf

1980年代初頭、50ccエンジンで最高速度は30km/hながら、普通免許ではなく原付免許で乗れて、雨風をしのげる簡易なキャビンつきの1人乗り3輪または4輪車の、「ミニカー(※)」ブームがありました。

(※道路交通法では今だと普通自動車。道路運送車両法では今でも原付自転車の一種)

さまざまな事情で制限速度が60km/hに引き上げられる代わりに、運転には普通免許が必要となったミニカーのブームは、すぐに終わったものの、ミニカー規格自体は残ったので、その後も車椅子のまま乗り込んで運転できる簡便な自動車として、細々ながら新型車が発売され続けました。

エブリデーコムスを遡ること3年、1997年に発売したセニアカー「エブリデー」 / 出典:https://www.toyota-body.co.jp/english/csr/pdf/2007/09-10.pdf

基本的に非力とはいえ、法律上は「総排気量50ccまたは定格出力0.6kw以下の原動機を有する普通自動車」で、最高出力や最大トルクの制限はなく、EV(電気自動車)が現実味を帯びた時代になると、低回転から最大トルクを発揮できるモーターの特性を活かせば、50ccエンジン車より走行性能を格段にアップできるという事で、再び注目されます。

そして高齢者向け低速車の電動セニアカー「エブリデー」(1997年発売)で実績を積んだトヨタの関連会社アラコも、電動ミニカーに注目したメーカーのひとつで、2000年に「エブリデーコムス」を発売。

後のコムスと違って後2輪それぞれにモーターを内蔵したインホイールモーター式で、1充電あたりの走行距離もカタログスペックで35~45km程度。最高速度も50km/h程度とささやかな性能でしたが、ベーシックモデルや配送ボックスを背負った「デリバリー」のほか、遊び心あふれる「オープン」や、かさばる荷物も積める「ロング」も設定されました。

トヨタ車体へ引き継がれ、2代目「コムス」誕生

コムスはさまざまな事業所で宅配や営業用に使われており、東京ヤクルト販売もそのひとつ / 出典:https://www.tokyo-yakult.co.jp/event/contribution_32.html

エブリデーコムスの発売後、アラコはトヨタ子会社の再編で分割され、車体部門はトラックボディメーカーの「トヨタ車体」に吸収合併。エブリデーコムスも同社の製品へと変わりつつ販売継続され、2012年7月に2代目「コムス」が発売されます。

初代より一回り大きくなって丸みを帯びたボディに、1灯式から2灯式になったヘッドライト、申し訳程度のフロントガラスやルーフ、シートといった貧弱さは一掃され、1人乗りとはいえ立派な内外装を持ち、オプションの幌を搭載することで、左右の密閉も可能な風雨にも強いキャビンとなって、一気に「自動車らしく」なりました。

パワーアップして1つにまとめられたモーターにより、最高速度は60km/hに向上。航続距離もJC08モードで57kmと、カタログスペックな事を想定しても30km程度は走れるようになり、近所の散歩や宅配程度に留まらず、幹線道路も経路に含むちょっとした通勤用途までこなせるようになっています。

東京モーターショー2013にはタンデム(縦列)2人乗りのT・COMも発表され、カーシェアなどの実証実験で使われた 出典:https://global.toyota/en/download/13189800/

そして大都市圏ではセブンイレブンやヤクルトなどの営業/配送用車両として見かけるようになり、ちょっとしたアップダウンがある程度の生活道路なら、EV特有の加速性能でキビキビとした走りを目にした人も多いはずです。

発売から8年以上が経過した今も地道に改良が続けられており、タンデム(前後縦列)2人乗りで軽自動車登録、超小型モビリティの実証実験に使われた「T・COM」や、郵便用などのために積載能力を倍増させた実験的なバージョンも作られ、一般仕様も中古車が増加するなど、個人ユーザーも少しずつ増えてきました。

超小型モビリティの実証実験用として、レンタカーやカーシェアサービスでも多用された事から知名度も高く、既に鉛バッテリーをリチウムイオンバッテリーへ交換して航続距離の延長を試みるユーザーも現れるなど、手軽なEVならではのカスタマイズ素材としても、今後が楽しみな車です。

主要スペックと中古車価格

トヨタ車体 コムス(2代目) P・COM /出典:https://coms.toyotabody.jp/style/pcom.html

トヨタ車体 TAK30 コムス P・COM 2021年式
全長×全幅×全高(mm):2,395×1,095×1,500
ホイールベース(mm):2,530
車重(kg):420
モーター:永久磁石型同期電動機
駆動バッテリー:密閉型鉛蓄電池 12V×52Ah×6個
定格出力:0.59kw(0.8ps)
最高出力:5.0kw(6.8ps)
最大トルク:40N・m(4.1kgm)
1充電走行距離:102km(30km/h定地走行)・57km(JC08モード)
乗車定員:1人
駆動方式:RR
ミッション:-
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
29.9万~78万円・57台

豊富な実績と全国のトヨタサービス網がコムスの魅力

コムスはタイなど海外でも使われている / Photo by Raphael Desrosiers

2020年にトヨタ本家から2人乗りの超小型モビリティ(「型式指定車」と呼ばれる軽自動車の一種)、「C+pod(シーポッド)」がデビューしたとはいえ、まだ販売は制限されていて、一般向けは2022年以降。

補助金で安くなっても143~149.6万円するC+podに対し、補助金を受ければ約60万~72万円程度で購入可能でサービス網も全国にあるコムスは、「全国どこでも普通の人が普通に乗れる」という意味で、今の日本でもっとも手軽で身近な超小型EVと言えるでしょう。