中古車情報サイトやカスタムショップのHPを見ていて、妙に巨大なホイールと低扁平大径タイヤを履いたセダンやクーペを見た事はありませんか?最低地上高が高いとはいえクロスオーバータイプのセダンとも異なり、ギラギラした巨大ホイールの主張がとにかくすさまじいこのカスタムは、「ドンクスタイル」や「ハイライザー」など、いろいろな呼び名がある、アメリカンカスタムの一種です。

ドンクスタイル(ハイライザー)のフォード マスタング / Photo by Shelby L. Bell

ローライダーの対極でリフトアップとも異なるドンクスタイル

リフトアップにも見えるが、大径ホイールを履かせるためにやるのがドンクスタイル / Photo by juxtapose^esopatxuj

ボディそのものは大人しく、エアロやメッキパーツは最低限。ボディカラーや内装に凝る場合もありますが、それより何より目立つのはその車高と、最低地上高です。

ボディが地面から高いところにあるとはいえ、「リフトアップ」や昔のオフローダーで流行った超大型マッドタイヤを履く「ビッグフット」とも雰囲気は全く異なり、ちょっと派手なアメ車、あるいはUSDM(アメリカ仕様にカスタマイズした国産車や輸入車)にギラギラした大径ホイールを履かせているのがやたらと目立ちます。

これに30や35などの低扁平タイヤを履かせ、さらにディッシュと呼ばれるホイールの皿部分が、ホイールにタイヤを履かせるリムの外径(リム径)よりはるかに大きいため(リム径22インチに対しディッシュ径26インチなど)、タイヤはオマケ、ホイールが主役のようにも見えるスタイルです。

ホイールはもちろん、タイヤ外径も純正よりはるかに大きなものを履かせるため、事実上タイヤとホイールだけで最低地上高が稼がれており、ゴム(タイヤ)をちょっと巻いた4つのどデカいホイールに、ボディを載せたようなスタイルとなっています。

これが「ドンクスタイル」、あるいは「ハイライザー」、「サウス系」、「マイアミスタイル」と呼ばれるアメリカンカスタムの特徴で、アメリカンカスタムやUSDM系のイベントで頻繁に見かけるスタイルです。

大径タイヤを履く最低地上高の高いセダンやクーペと言えば、かつて存在したスバルのレガシィアウトバックセダン(日本ではワゴンのみで未発売)、あるいはメルセデス・ベンツ GLCクーペやBMWのX2、X4などのクロスオーバーモデルは存在しますが、あまりに巨大なホイールは、それらの「セダン/クーペSUV」とは全く異次元の存在感です。

発祥はアメリカ南部でシボレー インパラやカプリスを改造した「ドンク」

1970年代の5代目シボレー インパラをベースにした、これぞ元祖「ドンク」 / Photo by Phillip Pessar

この「ドンクスタイル」は元々、アメリカ南部で始まった文化らしく、有名ラッパーなどが好んだ事で広まり、アメリカ西海岸で流行した「ローライダー」(ローダウン車)、「スポコン」(スポーツコンパクト)に対抗する、南部や東海岸の文化として発展しました。

ベース車はセダンやクーペ、コンバーチブル以外にSUVでもピックアップトラックでも何でもよく、アメ車のみならず日本車やヨーロッパ車でも構わないようですが、その元祖と言われているのが1970年代のアメリカンフルサイズ乗用車、シボレーの「カプリス」や「インパラ」といった、安価にベース車が手に入るアメ車です。

元々は1970年代に販売されたインパラが、オイルショックや排ガス規制によるパワーダウンによって、精悍なインパラ(Impala)ならぬロバ(Donkey)のようだ、と言われ、Donkeyを略した「ドンク(donk)」と呼ばれていたのを語源としています。

1970年代のインパラやカプリスをベースにすれば「ドンク」、同じく1980年代なら「ボックス」、1990年代なら「バブル」と通称され、その他の車をベースにしたカスタムの総称として「ハイライザー(高く上げる人)」や「マイアミスタイル」、発祥の地から「サウス系」とも呼ばれるようです。

特に元祖の「ドンク」は迫力を増すために、フロント側の車高がやや高い独特なスタイルで、それ以外は「ハイライザー」と呼ぶべき、いやいやどれも「ドンク」には違いないなど、アメ車ファンの間でも議論は分かれるようですが、日本では「ドンクスタイル」か「ハイライザー」と呼ぶのが一般的と感じます。

あくまでデザイン面でのインパクト重視!使い勝手はカスタム次第

1972年型オールズモビル・カットラスのコンバーチブルをベースにした、ちょっとおとなしめの「ドンク」 / Photo by Tap Tapzz

ドンクスタイルが他のドレスアップ、たとえばローライダーなどと異なる要点は、「大径タイヤ&ホイール」を履けるようにする点。

そうしなければドンクスタイルにならないのですが、通常の車は純正サイズより多少ならともかく、大幅な大径タイヤを履けるようには作られておらず、まずはフェンダーをバッサリ切り取ってホイールアーチを拡大し、タイヤが入るスペースを作る事が必須です。

さらにショックアブソーバーが通常通り縮むとタイヤがフェンダー内側へ干渉してしまうため、段差などでタイヤが突き上げられたり、重たい物や人を乗せた時の沈み込みでも同様なため、ショックアブソーバーのアッパーマウントとスプリングにはスペーサーをかませ、ある程度以上はショックアブソーバーが縮まないようにしなければなりません。

以上2点だけでもドンクスタイルは実現可能ですが、他にもハンドルを切った時に干渉させないためのフェンダー内側加工が必要となります。

他にも、小さくとも22インチ、大きければ50インチにも達するホイールには、軽量ホイールなどが存在しないため非常に重く、22インチホイールですらタイヤ込みで1本約50kg。

それらに耐え得るためのブレーキやハブなどの強化や、いざという時のタイヤ交換やスペアタイヤの保管方法(タイヤ補修キットで済ませてもいいのですが)、タイヤの大径化で狂ってしまうスピードメーターの補正や、わだちや段差にハンドルを取られやすい対策となるサスペンションへの交換など、実用性を求めだすとキリがありません。

30インチホイールを履いた「ドンク」。このくらい陽気にキメると楽しそう! / Photo by Phillip Pessar

しかし、全てはデザイン重視、インパクト重視であり、さまざまな難関や、十分な対策を取っていない場合の使い勝手の悪さを乗り越えて、なお涼しい顔で自己主張をやりきるのが(アメリカンカスタムですが)「粋」というものでしょう。

何となく日本人の感性に訴えるものがあるような気がするのは、戦国時代に着飾った「騎馬武者」を見るような想いだからかもしれません。

日本ではベース車減少で流行らぬまま終わる?

やっぱり「ドンク」はアメ車でこういうアメリカンな家に止まっているのが似合う / Photo by Steve Baker

なお、日本でこの「ドンクスタイル」をやろうと思うと、まずは「このカスタムが似合う大型セダンやクーペで、適当な価格の車がもう少ない」というハードルがあります。

現行セダンだとトヨタならセルシオ、クラウン、マジェスタ、アリスト、日産ならプレジデントにシーマ、フーガ、レクサスならLSにGS、ホンダならレジェンド、インスパイアくらいまでが「似合う」車でしょうか。

クーペなら3代目ソアラなどで施工例が見られ、他にレクサスSCなど、いずれ中古で安くなればLCやGRスープラなども入ってきそうですが、このあたりの車は中古車が年々減っていく傾向が高いため、いっそハナからSUVで狙った方が話が早いかもしれません。

あるいはそこまでして国産車にこだわるより、やはりアメ車でキメるのが本筋であり、最初からドンクスタイルを得意とするアメ車ショップ、USDMに精通したショップへ依頼する方が一番スンナリいきそうです。

日本だと車高を低くしたいならローダウン(シャコタン)、高くしたいなら「リフトアップ(シャコアゲ)」が普及している事もあり、それらに実用性で劣るドンクスタイルは、なかなか主流にならないかもしれませんが、だからこそやってみれば、かなり目立つ1台となる事でしょう。