軽自動車に限った話ではありませんが、近年フロントノーズの短い車が多いとは思いませんか?メカは小さく、キャビンは大きく広くが近代的な車の条件になっているので仕方がありませんが、ロングノーズ・ショートデッキの車は少なくなりました。そうなるとますます貴重に思えてくるのがスズキ カプチーノで、軽自動車が量産されるようになって以降、唯一の古典的FRスポーツな国産軽自動車です。

 

スズキ EA11R カプチーノ / ©DCTMダイチャレ東北ミーティング2013

 

 

「社長、”売る”って言いました??」

 

550cc時代、東京モーターショー1989に出展されたP-89″カプチーノ” / 出典:https://www.youtube.com/watch?v=H3DgKsCy6Es

 

時は1989年10月、平成時代となって初めて、そして晴海から幕張メッセへと会場を移して初開催の『第28回東京モーターショー1989』での出来事です。

30代後半以上の読者にとっては懐かしの深夜番組『11PM』内の特集で、自動車評論家の故 徳大寺 有恒 氏が1台の車を指して「スズキの社長が発売すると…。」と発言します。

それを見て開発陣がどう思ったか定かではありませんが、翌日に収録された別な番組に出演した開発スタッフの1人が「社長が(発売すると)言ったので…発売するんでしょうね?」と、何やらギクシャクした雰囲気が。

新型車とは会議などで打ち合わせの上、発表も含めて綿密なスケジュールで決められると思い込んでいましたが、時には社内すら巻き込むサプライズがあるようです。

そう、これが史上空前の(そしておそらく空前絶後の)ロングノーズ・ショートデッキの古典的スタイルFR軽スポーツ、スズキ カプチーノ誕生の瞬間でした。

これは厳密には1987年、「U.L.W(ウルトラ・ライト・ウェイトスポーツ) P-89」というプロジェクトで開発がスタートしたので、東京モーターショーでのワンシーンから2年前の話になります。

 

スズキ EA11R カプチーノ  / Photo by Niels de Wit

 

当時は軽自動車の世界にもDOHC4バルブ・インタークーラーターボエンジンという、今なら軽トラに積んでいてもおかしくないメカニズムが登場した頃で、それまでせいぜい50馬力程度だった最高出力が一気に64馬力に達しました。

それを搭載した初代アルトワークスの発売(1987年)、そして現在まで続く64馬力自主規制が始まった年にP-89の開発が始まり、ハイパワー化したエンジンで何かインパクトのあるスポーツカーを出そう、という機運が盛り上がっていたようです。

その頃、スズキからのエンジン供給の絡みもあってか、マツダが1985年から開発していた軽スポーツカー(AZ550 Sports。後のオートザム AZ-1 / スズキ キャラ)の情報も入っていたようで、ガルウィングを備えた豪華な車になる予定だということがわかっていました。

そして、それに負けないインパクトならオープンカーだ!それもライトウェイトFRスポーツを作ろうということになり、軽トラの駆動系を流用しながら他の部分で目いっぱい軽量化して、目標車重はなんと450kg。

その後1989年にP-89”カプチーノ”は初公開されたわけですが、スズキの鈴木 修 社長(現会長)の発売宣言は、開発陣にとっても寝耳に水だったようで、目を白黒させるような出来事となったのです。

 

発売してみれば超贅沢な『軽自動車界のユーノス ロードスター』

 

スズキ EA11R カプチーノ / ©DCTMダイチャレ東北ミーティング2017

 

P-89が発表された1989年といえば、世界的に”ライトウェイトスポーツカーのリバイバル”というスポーツカー界の王政復古を巻き起こした、ユーノス ロードスター(海外名マツダ MX-5ミアータ)が発売された年で、P-89も軽自動車版ロードスターと言えました。

しかし、社長が発売するとは言ったものの、問題はそのタイミングです。

1989年10月はまだ軽自動車が550ccの時代で、その年の2月に、1990年1月から軽自動車規格を改定し、排気量上限を660ccへ、排ガス規制を厳しくして、全長も100mm長くできることになりました。

とはいえ、後の現行規格(1998年10月から)とは異なった急な話で、軽自動車各社が一斉に新規格に移れたわけではなく、1989年のモーターショー時点で発表されたAZ550 Sportsもリーザスパイダーも、まだ550ccで作られています。

それを660ccに対応させた上で市販のクオリティに持っていくとなると一大事だったようで、形にはなっていたとはいえ、市販にはまだほど遠い状態でした。

 

スズキ EA11R カプチーノ / Photo by bluXgraphics(motorcycle design Japan)=Midorikawa

 

すなわち、単にエンジンを660ccに積み替えて前後バンパーのデザインで全長を稼ぐわけではなく、エンジンを後退させてフロントミッドシップ化、バッテリーやガソリンタンクの位置も車体前後の中間点近くに移動して、前後重量配分の最適化を図ります。

そして重心降下のため着座位置を目いっぱいまで下げ、逆に目いっぱい高く上げたフロアトンネル内、つまりドライバーの腰の横をドライブシャフトが通るような作りで、四輪ダブルウィッシュボーン式のサスペンションとともに、かなり本格的なスポーツカーとなりました。

FR(フロントエンジン後輪駆動)というもっともオーソドックスな駆動レイアウトを取りながら、実際には手の込んだ作りをしており、FF車のパワーユニットをミッドシップに搭載したライバルとは異なり、不安定な挙動や重心高による横転リスクは最低限。

4パターン(クローズ / Tバールーフ / タルガトップ / フルオープン)が可能だったルーフも相まって、軽自動車という枠を超えた非常に魅力的なスポーツカーとなったのですが、1998年10月の新規格改正を機に、側面衝突安全をクリアできないため生産中止になりました。

 

全日本ジムカーナのD車両が激しかった!軽レースでも活躍のカプチーノ

 

 

スズキスポーツのパーツを組み込めば、F6Aターボ搭載のEA11Rで660ccのまま最高出力180馬力を発揮したとも言われるカプチーノですが、もちろんモータースポーツでも多用されています。

ジムカーナでは軽自動車という枠に囚われずに活躍し、全日本選手権では長らく出場が途絶えていたものの、2017年に前田 好昭選手がSCクラス(ナンバー無し改造車)にEA11Rで参戦しました。

それ以前には1990年代にモンスター(スズキスポーツ)チューンのジムカーナC車両やD車両での参戦が見られ、中でも圧巻は”パワーフィルターSSカプチーノ”。

改造車というよりほぼオリジナル車両と言えるジムカーナD車両でフォーミュラマシンなどに混じって参戦し、もちろん中身はほとんど別物のフレームにカプチーノ風カウルを被せたものでした。

ちなみにエンジンはセルボモード用のDOHC4気筒エンジンF6Bを排気量アップしてフルチューンした怪物で、1995年に前年までのEVA6.5Aから乗り換えての参戦です。

大澤 勉選手のドライブにより、当時のDクラス不動の王者、山本 真宏選手の”ADVAN T3”と真っ向勝負で1996年までの2年間に2勝を上げ、翌年以降のフォーミュラ隼での快進撃に結び付けていきました。

JAF公認モータースポーツのメジャーイベントで目立つ活躍はこのくらいですが、他にもK4GPや各地の軽自動車耐久レース、スプリントレース、ジムカーナでは、現在でも数多くのカプチーノが走っています。

 

主要スペックと中古車相場

 

スズキ EA11R カプチーノ / Photo by Steve Glover

 

スズキ EA11R カプチーノ 1991年式

全長×全幅×全高(mm):3,295×1,395×1,185

ホイールベース(mm):2,060

車両重量(kg):700

エンジン仕様・型式:F6A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ

総排気量(cc):657cc

最高出力:64ps/6,500rpm

最大トルク:8.7kgm/4,000rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FR

中古車相場:27万~200万円(K6A搭載型のEA21R含む)

 

まとめ

 

スズキ EA11R カプチーノ  / Photo by Niels de Wit

 

記事中、1995年6月のマイナーチェンジで切り替わったK6A搭載型(EA21R)については、ほとんど触れていませんが、おそらくはEA11Rより高いチューニングの難易度(特に1997年3月以降のクラッチやなどが変更されたモデル)、3速ATモデルの設定や低回転からトルクフルなK6Aの特性などが、かえって刺激をスポイルしてしまったのか、EA21Rの話題が極端に少ないのです。

オールアルミエンジンゆえ熱問題に敏感で、EA11Rから冷却気のインテークを増やすための外装変更を伴わないまま搭載されたK6Aが、EA21Rと相性が悪かったことも考えられます。

しかし、K6Aエンジン自体は現在では名機として知られ、ケータハム セブン130 / 160用エンジンとしてなお現役なことを考えれば、これからのカプチーノはEA21Rチューンが熱いのではないでしょうか?

販売台数のピークを過ぎてからのモデルということもあり、EA11Rと比べてもタマ数の少ないEA21Rですが、新しい上にこれまでのチューニング実績が少ないので、むしろこれからのEA21Rに期待したいところです。

ケータハムのような輸入車はともかく、今後作られる可能性が極端に低い国産FR軽スポーツなので、まだまだ楽しむ余地が残されていることは、むしろクルマ好きにとって幸いなのかもしれません。

 

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