プライベートでも仕事でも、タクシーを利用する人なら1度は乗った事があるであろうトヨタ コンフォート。教習車としても多数使われているので、運転免許取得の際にお世話になった人も多いかと思います。ジャパンタクシーの登場で惜しまれつつ2017年一杯で生産を終了しましたが、今でもコンフォートがいいというタクシー会社やタクシードライバーから根強い需要があり、程度のいい中古車は奪い合い状態だそうです。
掲載日:2018/11/16
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6代目80系マークIIをベースにした、トヨタ39年ぶりのタクシー専用車
かつて乗用車とは『タクシーかタクシー上がり』を意味した1950年代、トヨタは初代トヨペット・クラウンRS型と同時にタクシー向けのトヨペット・マスターを販売していました。
しかし、クラウンの耐久性が証明されてくると、結局は乗り心地の良さからタクシー需要もクラウンがまかなう事となり、マスターは発売からわずか1年10ヶ月の1956年11月で廃止。
商用車のマスターラインやスタウトに、ボディパネルが流用されていきます。
そして、その後トヨタはマスターのようなタクシー専用車を作らず、既存車のタクシー仕様を販売し続け、1990年代後半でもクラウンセダン、マークIIセダン、コロナセダンを販売しており、特に1982年発売の7代目T140系を継続していた(FR最後の)コロナは旧式化が目立ちました。
一方、ライバル他社ではマツダがカスタムキャブ(1989-1995)、日産がクルー(1994-2002)といった、旧型車ベースのタクシー専用車を販売しており、トヨタもその後追いながら6代目80系マークIIセダンをベースとしたコンフォートを開発、1995年12月に発売します。
タクシー使用を需要の柱としつつ、マークIIセダンなどの後継で教習車として、さらに積極的に販売する車では無かったのでディーラーの営業マンでも知らない人がいたほどの認知度でしたが、個人でも購入可能だったコンフォート。
タクシー需要がメインだったので、タクシー向けの無線機や料金メーター取り付けスペースを最初から確保していたほか、運転手の長時間乗務による負担を減らす視界の確保や、ドライビングポジションのセッティングを容易にしていました。
『急いで!』とお願いすれば、本当に急げる実力を持ったコンフォート
コンフォートには、ロングホイールベース版で直6エンジンも設定された中型タクシー向け『クラウンコンフォート』や、より明確なクラウン風デザインの『クラウンセダン(6代目)』も存在し、コンフォートファミリーを形成していました。
基本となるコンフォートは1.8~2リッターガソリン(教習車仕様のみ)、2リッターLPG、2.4リッターディーゼルと3種類のエンジンを選択可能。
動力性能は実用トルク一辺倒で、ボディやサスペンションも耐久性重視なのでスポーティ-な印象は外観からは感じられませんが、切羽詰まった用事で呼び止め、「急いでください!」などと言おうものなら、『本気で急げる』性能はありました。
筆者はとある場所でコンフォートのタクシーに乗車し、乗らねばならない列車の時間を告げたところ、およそ普段のコンフォートから想像できない走りに度肝を抜かれたものです。
何しろスポーツタイヤもスポーツサスも組んでいない実用車でありながら、そのスペックからは想像できない速度でコーナーに突入、しかもスキール音ひとつ立てる事なく弱ドリフト程度でスムーズにクリアしていったのです。
正直、それ以来「タクシーを呼び止め『急いでください』など二度と言わない。」と心に誓うほどの激走でしたが、同時にそのようなドライブでも非常に快適な乗り心地だったのも印象的でした。
また、2017年いっぱいまで生産されたので、結果的に『最後のFRタクシー専用車』となったコンフォートですが、タクシードライバーからの評価はその経験年数に比例して非常に高く、若い、あるいは経験の浅いタクシードライバーならプリウスなどFF車でも『例え大雪でも業務には支障がない』という声を聞きますが、ベテランドライバーほど『運転しやすさと耐久性で比較できる車がもう無い』と言うのです。
特にプリウスタクシーは車重に対してサスペンションやブレーキがタクシーのような走行頻度の高さには向いておらず、交換頻度が高いため、結果的にはコンフォートの方が安上がりなんだ、という声はよく耳にしました。
そのため、生産終了時は駆け込み需要があったほか、廃業や減車したタクシー会社から程度のいい中古車が出たと情報が入ると即座に購入へ動き、コンフォートの台数維持を図るタクシー会社もあるようです。
D1グランプリでの活躍とTRDチューンド『GT-Zスーパーチャージャー』
ライバルだった日産 クルーが直6のRB系エンジンを搭載可能だった事から、ドリフト競技でも半ばウケ狙い的な意味もあって一時期多用されましたが、コンフォートもD1グランプリに出場していました。
それがモータースポーツ向けパーツのラインナップ多数を誇るオクヤマのドリフト仕様コンフォートで、2004年に教習車仕様クラウンコンフォートをベースに3S-GTEを搭載して製作された後、2006年には藤尾 勉がステリングを握って1年間シリーズに参戦。
目立った成績は同年第3戦富士でのベスト16出場、2ポイント獲得くらいでしたが、全高が低いスポーツカーのドリフトとは違い、寸詰まりでカクカクした『ハコのドリフト』は、古のWRCにおけるフィアット131アバルトラリー並の迫力がありました。
また、2000年代には既にほとんど失われていた『MTで操れる数少ない5ナンバーFRトヨタ』として期待に応えます。
ハイメカツインカム3S-FEをスーパチャージャーで過給し、専用スポイラーなどで武装したTRDコンプリートカー『コンフォートGT-Zスーパーチャージャー』が2003年に発売。
サーキットに持ち込んでも速いと思えるほどの動力性能では無かったようですが、マニアックなスポーツセダンとして話題になり、2018年現在でも個人タクシーで使われている姿をたびたび見かけます。
主なスペックと中古車相場
トヨタ YXS11 コンフォート スタンダード(LPG) 1995年式
全長×全幅×全高(mm):4,590×1,695×1,515
ホイールベース(mm):2,680
車両重量(kg):1,270
エンジン仕様・型式:3Y-PE 水冷直列4気筒OHV8バルブ LPG仕様
総排気量(cc):1,998
最高出力:58kw(79ps)/4,400rpm
最大トルク:160N・m(16.3kgm)/2,400rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FR
中古車相場:26.5万~110万円(クラウンコンフォート含む各型)
まとめ
タクシーで利用する限り、それがプリウスでもアクアでも、あるいはカローラアクシオ、ティーダなどでも多少乗降性に違いがあるくらいで、短距離の移動ではさほど違いは感じません。
しかし、コンフォートに乗車しているタクシードライバーの皆さんにその感想を聞くと、目的地に着くまで『コンフォートがどれだけ素晴らしい車か』を、タップリと話してくれる方が多い傾向に。
「でも、もう新車で買えないですよね?」と聞くと、トヨタが生産を終えてジャパンタクシーに切り替えてしまった事に対する様々な意見を聞かせてくれますが、結論は全て『コンフォートこそタクシーNo.1であり、これを上回る車はもう出ないんじゃないか?』という意見。
これほどプロから信頼され、惜しまれた『タクシー界の国民車』的な車が生産終了したことは本当に残念ですが、それも時代の流れと思えば仕方がありません。
タクシー用途が主であるがゆえ、今後は急速に消えていく運命ではありますが、プリウスなど他のタクシーと乗り比べ、ドライバーに感想を聞くなら今のうち!
既にFF車に慣れたドライバー、コンフォートを知らないドライバーは「特にコンフォートで無くとも。」という人も多いので、『タクシードライバーにとってコンフォートがいかに素晴らしい車だったか』を聞けなくなる世代交代は、既に始まっているのです。
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