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元祖軽クロスオーバーかホットハッチか?1台2役をこなしたスズキ kei!

今で言うクロスオーバーSUVのようなスタイルで、それでいてスポーツモデルが充実していたアルトワークス後継モデル。さらに、ワンメイクレースが開催されていた時期もあり、MT+ターボの組み合わせが残る最後のホットハッチでもあったのが、スズキ「kei」でした。軽自動車の現行新規格化と同時にデビューし、数奇な運命をたどったkeiは、どんな車だったのでしょうか?

スズキ kei /出典:https://www.favcars.com/pictures-suzuki-kei-1998-2009-368632.htm

元祖軽クロスオーバーSUV?軽ホットハッチ?何でも屋的な軽自動車、「kei」

1995年の東京モーターショーで展示された、スズキUR-1/ 出典:https://www.allcarindex.com/concept/japan/suzuki/ur-1/

1995年秋の東京モーターショーで、スズキブースに展示されたコンセプトカー「UR-1」。

当時はエスクードやジムニーの次期モデル案とも噂されたこの車は、今見ると後のkeiや一部パーツを共用する小型車、スイフト(初代)のデザインスタディだった事がわかります。

実際にデビューしたのはそれから3年後の1998年10月で、スズキが提案する新感覚軽自動車、その名も「kei」と名付けられました。

当時はまだRV(レクリエーショナル・ビークル)ブームの後半で、「SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)」という言葉があまり一般的ではなかった時代です。

スズキ kei(初期型3ドアターボ) /出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=38966&width=1920

一応、初代トヨタ RAV4(1994年発売)や、初代ホンダ CR-V(1995年発売)といった、初期のクロスオーバーSUVはラインナップされていたものの、世間では乗用車感覚のシティオフローダー的なRVと解釈されていました。

そんな時代に、大径タイヤを履いて最低地上高も高めでありながら、本格的な4WDシステムは持たないため、悪路走破性は生活4WDの軽乗用車より多少マシな程度。FF車は車高1,550mmまでに収められ、大半のタワーパーキングや機械式立体駐車場は使用可能というkeiは、たしかに「新感覚」ではあったものの、それが何を意味するのかは、よくわからない何とも曖昧な車ではありました。

そしてそれがそのまま、2009年に販売を終了するまでの約11年ものモデルライフを過ごしたkeiの、数奇な運命の始まりでもあったのです。

見晴らしのいいコンパクトカーか、スポーツハッチか

スズキ kei /出典:https://www.favcars.com/suzuki-kei-1998-2009-photos-369113.htm

keiの初期ラインナップは3ドアのみで、エンジンはDOHC自然吸気(K6A)とSOHCターボ(F6Aターボ)、DOHCターボ(K6Aターボ)の3種類。

基本FF車ながらターボ車にはビスカスカップリングを使ったスタンバイ式4WD(生活4WD)もラインナップされ、ミッションはそれぞれ5速MTと3速AT(DOHCターボ車のみ4速AT)が設定されています。

その後、1999年3月に5ドア車が追加されます。その頃から登録車のコンパクトハッチバック車同様、軽乗用車でも3ドア車が販売の主力から滑り落ちていたため、それ以降のkeiも5ドアが主体となり、2000年5月には3ドア車が廃止されました。

そこまでのkeiは、「最低地上高が高くて着座位置もアイポイントも高いため、見晴らしのいい、普通の軽コンパクトカー」といった具合で、ワゴンRのようにスペース効率が良いわけでもなく、ジムニーのように悪路走破性が高い訳でもない、そしてアルトのように小回りが効くわけでもないなど、目立った取り柄は見つかりません。

一応、アンダーガード風の造形がなされたフロントバンパーや、今ならクロスオーバー狙いとわかるホイールアーチやリアバンパーの樹脂パーツという個性はあったものの、当時は本当にそれに何の意味があるのかがよく理解されておらず、何をしたいのかよくわからない不思議な車でした。

そのため、2000年12月にアルトワークスが廃止となるのに先立ち、同年10月にkeiスポーツがデビューして後継車とされた時も、「え?!そういう車だっけコレ?!」と、驚いたものです。

スズキ kei FISフリースタイルワールドカップリミテッド(2002年11月発売モデル) /出典:https://www.suzuki.co.jp/release/a/a021118a.htm

keiがもっとも本領を発揮したのは、2000年冬からFIS(国際スキー連盟)とタイアップし、フリースタイルスキーのワールドカップをスポンサードするようになったスズキが、FISコラボの特別仕様車として、ジムニーやエスクードと並び、keiもラインナップした時です。

何度か発売されたFISコラボ特別仕様車のうち、2002年11月に発売されたモデルでは軽自動車用としては珍しく(他にはダイハツ MAXくらいしか例のない)、2WDとトルクスプリット式4WDの切り替えが可能な電子制御カップリング(EMCD)が採用されていました。

アルトワークス後継のkeiスポーツとkeiワークス、そして一時は最後のMTターボホットハッチ

スズキ keiスポーツ /出典:https://gazoo.com/catalog/maker/SUZUKI/KEI_SPORT/

2000年10月にkeiスポーツが登場し、2ヶ月後にアルトワークスが廃止された当時は、「ああもうワークスのような車は流行らないし、とりあえずkeiでMTのターボ車が欲しい少数派ユーザーに応えるのかな?」という雰囲気でしたが、ローダウンスプリングの採用など、なぜか妙に本格的だったのです。

そして、「まさかkeiを本格的にホットハッチとして育てるつもりかな?」と思っていると、2001年4月にはレース用に装備を簡素化した「keiスポーツR」と、それを使ったナンバー付き車両による入門ワンメイクレース「keiスポーツカップ」が発表されたことには驚きました。

果たしてkeiとはSUVなのかホットハッチなのか?戸惑っているうちに2002年11月には本格的に専用レカロシートや、最大の特徴である4輪ディスクブレーキを装備し、フロントグリルに「WORKS」の文字も勇ましいkeiワークスがデビューします。

スズキは本気で、keiにクロスオーバーSUVとアルトワークス後継、二足のワラジを履かせたわけで、クロスオーバーSUVの市販車をここまで本格的に一台二役をやらせた例というのは、あまりありません。

なお、2003年9月には初代アルトラパンに64馬力DOHCターボを搭載し、5速MTも準備した「ラパンSS」が登場しており、アルトワークス後継はこちらでも良かったのでは…と思いましたが、初代ラパンが2008年11月に2代目へモデルチェンジされるとSSは消滅。

気がつけば、軽ホットハッチで5速MTのターボ車が残っているのは、keiワークスとkeiのBターボだけになっており、それも2009年10月に販売を終了すると、軽MTターボ車はダイハツ のコペンや、軽1BOX商用車の乗用グレードくらいになりました。

おかげでkeiが最後のMTホットハッチとなり、2014年に現行アルトワークスが復活しなければ、歴史に残る車になっていたかもしれません。

教訓を残した、無念のkeiスポーツカップ

2002年のkei Sport CUP キング オブ キングス /出典:https://www.suzuki.co.jp/dom4/motor/2002/onemake/frame1020_2.htm

さて、2001年4月に華々しく登場したkeiスポーツRとkeiスポーツカップの「その後」ですが、フォーミュラ隼やフォーミュラkeiともども、入門編から上級者まで楽しめるレースをラインナップした事で、スズキのスポーツイメージは大いに高まりましたが、その後は少々寂しい結末を迎えてしまいます。

2004年もシーズン真っ盛りの6月、スズキは突然「keiスポーツRのフロントハブ強度はサーキット走行に耐えられない」と、全車ロールケージや4点式シートベルトなど規定のレース用装備を取り外し、ステアリングナックAssyを新品へ交換するリコールを発表したのです。

その翌日にはシーズン途中ながら、安全が確保できないという理由でkeiスポーツカップの終了が発表され、翌年以降も開催しないことを決定。

スズキ keiスポーツR/ 出典:https://www.suzuki.co.jp/release/a/a010426.htm

もともと軽自動車関連のレースに参戦しているユーザーなら、スズキ車のフロントハブがレース中にモゲるのは当たり前のような光景であり、もっと言えばスズキ車に限った話ではありません。

何を今さらと思った人もいたかもしれませんが、メーカーが絡んで主催するナンバーつき車両のレースで、しかも初心者も走れるような入門レースとなれば、メーカーとして「そこはしっかり理解した上で自己責任でやって」とは、言えなかったのだと思います。

シーズン途中で強制シャットダウンさた事や、レースを始める前にわからなかったのか?という点に怒りを感じるユーザーもいましたが、むしろメーカーとしてキッチリ責任を取り、非難にさらされるのを承知で事態の収集に踏み切ったスズキの大英断と言えるでしょう。

最終的にkeiスポーツRはほとんどが販売店を通した買い取りだったため、スズキが回収したらしく、少々強引で残念な結果にはなりましたが、「メーカーそのものがワンメイクレースを企画し、そのための車も販売するなら、誰もが安心して参戦できるよう、相応の品質を保証した上で始めなければいけない。」という、苦くとも重要な教訓を残しました。

主要スペックと中古車価格

スズキ kei /出典:https://www.favcars.com/photos-suzuki-kei-1998-2009-368633.htm

スズキ HN21S kei 3ドアSタイプ 1998年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,545
ホイールベース(mm):2,360
車重(kg):710
エンジン:K6A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
排気量:658cc
最高出力:47kw(64ps)/6,500rpm
最大トルク:106N・m(10.8kgm)/3,500rpm
10・15モード燃費:19.8km/L
乗車定員:4人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)I.T.L

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
0.1万~79万円・311台

スズキ keiワークス /出典:https://gazoo.com/catalog/maker/SUZUKI/KEI_WORKS/

スズキ HN22S keiワークス 2008年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,530
ホイールベース(mm):2,360
車重(kg):780
エンジン:K6A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
排気量:658cc
最高出力:47kw(64ps)/6,500rpm
最大トルク:106N・m(10.8kgm)/3,500rpm
10・15モード燃費:19.6km/L
乗車定員:4人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)I.T.L

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
keiスポーツ・8.8万~48万円・17台
keiワークス・10.8万~105.9万円・116台

結局、keiはやっぱりホットハッチ?

スズキ kei /出典:https://www.favcars.com/pictures-suzuki-kei-1998-2009-368634.htm

最後に、結局スズキ keiという車はなんだったのか、軽クロスオーバーSUVだったのか、軽ホットハッチだったのか、についてです。

現在(2021年1月)販売されている軽クロスオーバーSUVは、電子制御運転支援技術の発展により、駆動メカニズムそのものは並の車と同じでも、ブレーキ制御で安定性を高めたり、スタック時の脱出機能を持たせたりして、悪路走破性が高められています。

もちろん、最低地上高が高いだけでも多少険しい路面や冠水路の走破性は高まるため、災害時にはありがたいものの、それだけでSUVを名乗るのは無理があるというものです。

実際にはレースの実績もあり、今でもミニサーキットなどではkeiスポーツやkeiワークスなどでスポーツ走行を楽しむユーザーが少なからずいるため、ホットハッチへカテゴライズするのが正解ではないでしょうか。

ダイハツやホンダに対抗した軽スポーツを開発中という噂は絶えず聞きますが、スズキだけでもホットハッチを地道に続けていてほしいものです。

 

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著者:兵藤 忠彦

ダイハツ党で、かつてはジムカーナドライバーとしてダイハツチャレンジカップを中心に、全日本ジムカーナにもスポット参戦で出場。 その後はサザンサーキット(宮城県柴田郡村田町)を拠点に、主にオーガナイザー(主催者)側の立場からモータースポーツに関わっていました。

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