過去の名車のリメイクモデルが結果的に大幅なサイズアップを迫られる中、大きくなたとはいえ日本での5ナンバー枠に収まるほどコンパクトにまとめられたスタイルが高い評価にもつながっている現行型の3代目フィアット 500(チンクェチェント。通称”ニューチンク”とも)。現行型がオマージュをした名車、2代目フィアット 500”チンクェチェント”とは、どんな車だったのでしょう。

 

フィアット NUOVA500 / 出典:http://www.fiat-auto.co.jp/archives/FIAT_NUOVA_500.php

 

 

戦後復興期のスクーター代替を狙った国民車

 

フィアット NUOVA500 / 出典:http://www.fiat-auto.co.jp/archives/FIAT_NUOVA_500.php

 

第2次世界大戦後、敗戦国ではあったものの、戦後を見据えてサボタージュやレジスタンス活動の支援といった反ドイツ的活動を行ったおかげで連合軍から早期の操業再開を認められたイタリア最大のコングロマリット(複合企業体)、フィアットは、戦前に開発した2人乗り大衆車のヒット作、初代フィアット 500”トッポリーノ”を戦後も生産・販売していました。

その後継車として4人乗り大衆車の600”セイチェント”を1955年に発売。

定員が倍になっても車両価格は倍にならないコストパフォーマンスの高さがウケてヒット作になるも、フィアットとしては新たな市場へ、より簡便な自動車を売り込みたいと考えていたのです。

それがすなわち、戦後復興期に民需転換を図ったかつての軍需産業が次々に発売していたスクーターで、庶民の乗り物としてすっかり定着していたものの、復興につれ経済的余裕の出てきた者が次に求める乗り物が自動車なのは明白でした。

その対象として600では少々オーバースペックだったので、いわば、4人乗れる最低限のスペックの超小型車を新たに開発する必要が生じたのです。

どこかで聞いたような話ですが、要は戦後日本で2輪車やオート3輪からの乗り換え需要を促すために計画された「国民車構想」と似たところがあり、結果的にイタリアと日本で同時期に同じような車が誕生することに。

それが日本だとスバル 360(1958年発売)や三菱 500(1960年発売)であり、イタリアでは2代目フィアット 500(1957年発売)となるのです。

なお、2代目フィアット 500の正式名称はNUOVA500(新500)ですが、実際には500のイタリア語読みである「チンクェチェント」と呼ばれます。

 

イタリア製小型車の傑作と、黎明期の日本車の奇妙なほどの近似点

 

フィアット NUOVA500 / 出典:http://www.fiat-auto.co.jp/archives/FIAT_NUOVA_500.php

 

さて、このNUOVA500ですが、基本的には600の小型版4人乗りコンパクトカーでした。

開発を担当した主任技術者のダンテ・ジアコーサは、後に直列配置のエンジンとミッションを横置きするジアコーサ式FF(フロントエンジン・前輪駆動)を開発した人物です。

しかし、NUOVA500開発時点ではFF車に不可欠な耐久性と信頼性を持つ、等速ジョイント付きドライブシャフトが無く、当時パワートレーンをコンパクトに収めてキャビンスペースを極大化する手段として一般的だった、RR(リアエンジン・後輪駆動)を採用する事に。

エンジンも軽量コンパクトで最低限の性能を持つものとなると選択肢が乏しく、騒音や振動面で厳しさを感じつつも、やむをえず4サイクル空冷2気筒OHVエンジンを搭載しました。

しかしそれがかえってNUOVA500の個性となり、後にリメイク版500に2気筒「ツインエア」エンジンが搭載される時も、むしろ喜んで受け入れられたのです。

ボディはVW タイプ1(ビートル)など当時の車では一般的だった、表面積を減らして軽量化しつつボディ剛性確保にも貢献していた曲面多用のモノコックボディで、エンジン騒音緩和のためにキャンバストップが設けられ、これを開くことで車内から騒音を逃がしていました。

 

フィアット NUOVA500と同時期、はるか彼方の日本で開発されたスバル360には近似点が多い。/ Photo by Rex Gray

 

ここまでの特徴を見ると、曲面を多用し、軽量化のほか騒音対策で樹脂製ルーフやキャンバストップを採用したモノコックボディにRRレイアウトという意味ではスバル360、4サイクル空冷2気筒OHVエンジン搭載のRR車という意味では三菱500に似ています。

他にも初期型でスーサイドドア(後ろヒンジで前が開くドア)を採用している点など共通項は多く、日本車で例えれば「三菱 500のエンジンを積んだスバル360」のような車が、NUOVA500だったと言えるかもしれません。

 

三菱の”チンクェチェント”、リアエンジン大衆車の三菱 500  / Photo by Michael Hicks

 

さすがにフロント:シングルウィッシュボーン リア:ダイアゴナルアクスルを採用したNUOVA500のサスペンションは、スバル360や三菱500とは別物。

さらにデザインも全く異なりますが、同じ時期に似たような車を似たような背景で作っていたという点で、どこか日本人にとって親近感の湧いてくる1台ではないでしょうか。

 

後の進化と後継車を上回る人気も、スバル 360などを思わせる

 

NUOVA500のステーションワゴン版、500ジャルディニエラ / Photo by Andrew Bone

 

発売当初、わずか15馬力のエンジンでスタートしたNUOVA500ですが、1959年に21.5馬力までパワーアップすると、翌年発売される三菱 500とほぼ同出力となります。

三菱 500は1962年には25馬力の594ccエンジンを搭載するコルト600に発展しますが、1972年にはNUOVA500も23馬力の594ccエンジンを搭載する「500R」が最終モデルとして発売されました。

実はこの年、フィアット 126という後継車が登場したのですが、魅力に乏しい126に対してNUOVA500の人気は根強く、結局1977年まで生産は続いたのです。

このあたりも、1969年に後継車R-2(これがまたフィアット 126に何となく似ている)が発売された後も、1970年5月まで生産が続いたスバル 360に似ているところ。

ライバル車に対して陳腐化が進んでいたスバル 360は、継続生産期間こそ短かったものの後継車R-2の人気が今ひとつで、「偉大なる先代の壁は高かった」という意味では共通です。

さらにNUOVA500にはエステートバンの500ジャルディニエラがあり、スバル 360にもライトバンの360カスタムが存在したという共通項まで!!

 

NUOVA500ジャルディニエラとやっぱり似ている軽ライトバン、スバル360カスタム / 出典:http://www.microcarmuseum.com/tour/subaru360-custom.html

 

スバル 360は「ビートル(カブトムシ)」の通称を持つVW タイプ1と比較されて「てんとう虫」という通称を持ちますが、これだけ共通点があると「和製チンクェチェント」という通称も追加したくなるところです。

ただ、NUOVA500はその愛らしくも実用性の高いデザインで国民車として愛されただけでなく、アバルトによる過激なチューニングモデルも存在し、こればかりは比類するものがありません。

若き日にNUOVA500で青春時代を過ごした人物の多さゆえか、事実上”フィアット NUOVA500保護法”とも言える旧車保護法がイタリアには存在し、歴史遺産として手厚く扱われている事実からは、同車が「イタリアの魂」のひとつであることも証明されています。

その部分は、商業的には成功しなかった三菱 500 / 600や、機械遺産に認定されながらも特に保護政策の対象ともなっていないスバル 360との大きな違いと言えるのではないでしょうか。

 

主要スペックと中古車相場

 

フィアット NUOVA500 / 出典:http://www.fiat-auto.co.jp/ciao/?p=396

 

フィアット NUOVA500(チンクェチェント) 1957年式

全長×全幅×全高(mm):2,970×1,320×1,325

ホイールベース(mm):1,840

車両重量(kg):680

エンジン仕様・型式:空冷直列2気筒OHV4バルブ

総排気量(cc):497cc

最高出力:15ps/4,000rpm

最大トルク:3.05kgm/3,400rpm

トランスミッション:4MT

駆動方式:RR

中古車相場:198万~420万円(各型含む)

 

まとめ

 

 

フィアット NUOVA500(チンクェチェント)を日本でメジャーな存在にしたのは、国民的アニメ作品「ルパン三世」での活躍が大きいと思いますが、それを抜きにしても、この小さなイタリア車には魅力あふれるデザインによる存在感があります。

さらに、エンジンフードを開き、サソリのエンブレムも勇ましいアバルト仕様のクルマが猛々しい音とともに走る姿からは、可愛らしいスタイリングと相反する「ギャップ萌え」という要素もあるのではないでしょうか。

フルノーマルでは決して速くは無いクルマだからこそ、非力なエンジンを懸命にブン回して走る健気な姿が見る人の心を打つのかもしれません。

今回は「日本でも偶然ながら、同じような車が同じように登場していた」という例の紹介とその比較もしてみましたが、世界中にファンを持ち、当のイタリア人が誰よりも”チンク”を愛しているという状況には全くかないません。

これほど溺愛される車というのは、本当に幸せだと思います。

 

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