その昔、まだ軽自動車が現在の規格になる以前。旧規格軽自動車にはボンネットから後ろが文字通り「箱」になっている軽ウォークススルーバンがありました。そうした今から見ると珍しい軽商用車の中でもひと際特異だったのがミラミチート。何とこの車、ガルウイングドアならぬ「ガルウイングカーゴ」でしたが、さらにぶっ飛んだ車を東京モーターショーに出展していたのです。
今でも人気のウォークスルーバン
現在の基準では「荷室から荷物が運転手になだれ込むようではいけない」(意訳)とされているので存在しませんが、1998年10月までの旧規格軽自動車には「ウォークスルーバン」というボンバン(ボンネットバン)のお化けのような商用モデルがありました。
その名の通りに荷室へのウォークスルーが可能な車で、初代L55型ダイハツ ミラへ1984年に追加されたのが始まり。
ボンネット後ろ端までのフロント部分はごく普通の軽自動車でしたが、その後ろは直立に近い角度でそそり立つ平板かつ巨大なフロントガラス、そして「箱」としか言いようの無い、ある意味軽1BOXバンよりよほど思い切ったボディ形状をしていました。
運転席は通常通りでドアもありましたが、左側面には内開き折戸式ドアがあり、そこから運転席後方の荷室へダイレクトにウォークスルーできたのです。
運転席以外に補助シートもあったので乗用に使えないこともありませんでしたが、停車したミラウォークスルーバンからバスのようにバシャッと折戸式ドアが開いて人が降りてくる様子は、「車ってこんなんだっけ…?」と不思議な感じがしたものです。
確かに荷物の上げ下ろしには都合が良かったので、スズキ アルトや三菱 ミニカも追従してウォークスルーバンを設定。
ミラほどには売れませんでしたが、この頭上空間の高さを活かせば乗用でもアンバイがいいと思ったのかもしれません。
そこからフルゴネットスタイル(Bピラーから後ろが高い)のアルトハッスルやトールボーイワゴンのミニカトッポが生まれ、やがてスズキ ワゴンRという歴史的名車が生まれます。
しかし元祖たるダイハツはなぜかそっちの方向には行かず、より奇想天外な車を発売したのでした。
移動販売に便利!(他に何ができるかは考えない)ミラミチート誕生
ミラウォークスルーバンのスマッシュヒットで味をしめたのか、ダイハツが次に作ったのはミラミチートでした。
このモデル、いつ頃デビューかは定かではありませんが2代目L70型ミラの時代にはすでにあったようです。
ボンネットから後ろが別ボディという点ではウォークスルーバンと共通ですが、そこから後ろも全く別で、まずAピラーとフロントガラスは後ろ上方へ向かって見事な曲線を描く丸いデザイン。
かと思えば、左右のドアはぺったんこの平板、その後ろのボディはやっぱり「箱」ですが、ウォークスルーバンと違って大きな1枚の窓がついています。
ウォークスルーバンではどうせ荷室だしと採光用に申し訳程度の窓があるのみでしたが、これは違うのか…と思っていると、何とその窓周辺が丸ごと「パカッ!」と上にはね上げられました。
ガルウイングドアならぬ、ガルウイングカーゴとでも申しましょうか?
実はこのミラミチート、用途としては「移動販売車」ということで、確かに開いたカーゴから外へ向かって対面販売するには便利な気はします。
開いたガルウイングも、ある程度は雨除けなどになり便利そうですが、それよりは「ウォークスルーバンのいかにも商用という雰囲気からちょっと変えたい」という意図もあったようです。
用途がわりと限られてくるのでかなりニッチな需要しか無さそうにも感じますが、3代目(L200系)・4代目(L500系)ミラにもミチートは設定され、新規格となった5代目(L700系)以降はウォークスルーバンと同じ理由で廃止されました。
そして、こればかりは他メーカーも追従せず、ガルウイングカーゴではないもののキャビン前面の曲線がよく似た日産 エスカルゴ(1989年)が同じく珍車として有名なくらいです。
特異な車だったので珍車マニアには重宝され、ウォークスルーバン同様にフロントを他の軽自動車や旧ミニとスワップされたり、ターボ化などエンジンスワップされるケースがよくありました。
「もっと丸くしたらシンデレラの馬車に」…はならなかった、ミラ・ミラーノ
ミラウォークバンに続きミラミチートまで出したダイハツが、いよいよその背高ノッポなコンセプトを乗用モデルに活かす日が来ました。
1991年の東京モーターショーに3代目ミラをベースとして登場した、その名もミラ・ミラーノ!
車名からして既に「真面目に考えているのか」とツッコミたくなりますが、その姿もミチートのように見事なカーブを描いたAピラーが、そこからルーフに…達せずそのままボディ後端までまたカーブを描いて落ちていきます。
そしてミチートのように平板なドアが今度は前後に各2枚。
そう、これは乗用モデルなので2列シート4人乗りで後席用ドア、しかも後ろヒンジのスーサイドドアがついていたのです。
コンセプト的には「シンデレラのカボチャの馬車みたいな車」を作りたかったのかもしれません。
リアシートはかなりフカフカしていそうで、立派なアームレストレストまでついています。
そしてボディ後端までがキャビンで、ラゲッジが無い代わりにギリギリまでリアシートを後ろに下げられるので足元スペースは広そうですが、このボディ形状ですとリアウィンドウに頭を圧迫されるような、あるいは直射日光が頭に直撃しないか気になるところです。
既に1990年に三菱 ミニカトッポが登場していたので、せめてBピラーから後ろがミニカトッポと同じようなボディ形状なら、もう少し実用性があったかもしれません。
残念ながらミラ・ミラーノは市販されずに幻で終わりましたが、もし市販されていたら今頃は珍車マニアに4気筒DOHCターボのJB-JLを乗せられたりして、それはそれで楽しそうです。
まとめ
一般的な自動車マニアからあまり顧みられることの無いダイハツですが、一度作り出すとガンコに妙なモデルにこだわって延々と作り続ける傾向があり、それがやがて花開く場合が多々あります。
軽トラでもハイゼット・ジャンボが最近はリフトアップしてバケットシートを装着したレジャー用軽ビークルとしてちょっとした人気になっています。
ウォークスルーバンに始まる「背を高くしたら荷物は積めるし移動販売は便利だし、乗用にすれば広々としていいじゃないか」という発想はよかったのですが、どうしてその情熱がムーヴを早く生み出さず、軽トールワゴンとしては後発になってしまったのか。
やたらと凝った先駆的モデルを作るもニッチすぎてなかなか大ヒット作に至らず、その後も背高モデルの先駆者としての意地かタントで大ヒットを飛ばしますが、ウェイクとハイゼットキャディでまたちょっと怪しい雰囲気に。
トヨタの100%子会社になったとはいえ、まだまだ今後もダイハツの作る面白い車に期待できそうです。
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