昔のレースでは見かけなかった、レーシングドライバーが首に巻いているアレ、ご存知ですか?そう、「HANS」ことFHR(頭部および頸部保護システム)。レースなど猛スピードで激しいクラッシュからドライバーを守るための最も新しいデバイス、レースを今から始めたい人にも是非おススメのアイテムです!

©︎Tomohiro Yoshita

クルマでのクラッシュ時の首への衝撃、ご存知ですか?

出典:http://tatdaily.ru/page/cheri-krash-porno

たとえモータースポーツでのスポーツ走行に無縁な方でも、交通事故で首を痛めたり、あるいはその後遺症に苦しむ人もいるかと思います。

直接的な打撃を受けていないため外傷が無くとも、人間は重たい頭部を細い首で支えているので、頭を思い切り揺さぶられるほどの強い衝撃を受けた場合、首がその衝撃を吸収しきれないことが多いのです。

その結果として首の筋肉や神経、骨などに深刻なダメージを受け、比較的軽い追突事故などでも、日常的に首で頭を支えることすら困難になることも少なくはありません。

交通事故経験者であれば、何となく想像ができるのではないでしょうか?

それが公道とは比較にならない速度で走行するモータースポーツの場合、より深刻な事態を招く事になりかねないのです。

 

決して届かないはずのところまで伸びる首

出典:https://wikimedia.org

皆さんも見たことがあるかと思いますが、レーシングドライバーのほとんどは体を包み込むようなサポート性の高いシートに体をうずめて4点以上のシートベルトで体を固定しています。

さらにヘルメットやレーシングスーツなど安全装備に身を固めた上で、万が一の事故に備えながらスポーツ走行やレースに挑むのです。

あるフォーミュラカーのドライバーがコースアウトしてスポンジバリアに正面から突っ込む、激しいクラッシュをしました。

前述の通り、シートにガッチリ固定された体は前方に投げ出される事も無く、異常は見られませんでした。

しかしそのドライバーの頭部は、どれだけ首を前に傾けても届くはずのないステアリングにヘルメットを強打していたのです。

皆さんがそれを実感しようと思えば、椅子に座って肩をしっかり背もたれに押し付けた状態で、少し曲げた程度の両腕を前に伸ばして、何かをつかんでみてください。

どうでしょう?肩を背もたれから離さず、腕をさらに曲げないままで、その掴んでいるものに頭を当てることができるでしょうか?

猛烈なスピードによるスポーツ走行のクラッシュでは、「首が肉体の限界を超えて伸びる」など、未知の現象が起こりうるのです。

 

過去の惨事を繰り返さないよう、生まれたHANS

出典:http://simpsonraceproducts.com/

モータースポーツの世界では昔から、主に高速域のレースや競技において、大きなクラッシュがドライバーの首へ深刻なダメージを与えてきました。

もっとも深刻な形でダメージを受けた場合、脊髄損傷による半身不随や死亡事故も多発しています。

そんな「首が肉体の限界を超えて伸びる」ことを抑止できれば生還できたドライバーもいたはずなのです。そのために開発されたのが頭部および頸部(首)の保護システムFHR、製品名「HANS」でした。

HANSの開発を始めるキッカケは1981年、米IMSA GTUクラスでクラッシュし、還らぬ人となったパトリック・ジャックマールの死因がキッカケとなりました。

柔らかい砂山に突っ込んで衝撃が吸収されたはずのルノー5 アルピーヌターボの中で、彼は頭蓋骨骨折により死亡しました。

その直接的な原因が「伸びた首」によるもので、研究が勧められた結果、首に装着したサポーターとヘルメットを強固な紐で接続し、首が頭ごと前に投げ出されることを防げば、頭部への衝撃が80%低減されることが判明したのです。

©︎Tomohiro Yoshita

そして1990年から製品化されたHANSは、当時レースでドライバーの肉体に深刻なダメージを与えるクラッシュが多発していた事もあり、急速に普及したのでした。

 

日本のJAF公認レースでは2017年1月より装着が義務化!

出典:http://www.n-one-owners-cup.jp/

現在ではF1などトップカテゴリーのレースはもちろん、ある程度スピード域の高いレースやラリー競技ではHANSが義務付け、あるいは推奨されています。

日本でも2015年国内車両規則第4編 付則の「レース競技に参加するドライバーの装備品に関する付則」により、2015年1月1日以降は排気量2,000cc未満のナンバーつき車両を除くレースでFHRシステム(HANSの公式名称)の装着が義務化されました。

さらに、2017年1月1日からは全てのレース競技で義務化されており、2017年現在のJAF公認レースでは、HANS無しの参戦はできません。

そしてラリー競技やジムカーナ、ダートトライアルといったスピード競技でも装着時に適正な効果を発揮させるため、HANSの装着方法についても厳密に定められています。

もっとも、義務化以前からホンダN-ONEカップレースではレース規則により義務化されており、トヨタTRDヴィッツラリーチャレンジのように補助金を出して装着を促しているケースも存在するほど重要視されています。

 

HANSに問題は無いのか?

出典:Bo Nash

ドライバーの安全性を飛躍的に向上させるHANSですが、万能では無く、以下のような問題はあります。

・安くても税抜6万円台からと高価

・安価な類似品は、JAF公認レースや競技では使用が認められていない

・HANSと接続可能なヘルメットが必要

・体型によってはワンオフ製作が必要

・構造上「首を左右に振る」ことには向いていない

以前はHANSそのものが体にフィットせず、横Gなどでケガをする元になったり、脱着に時間がかかるなどのデメリットがありましたが、現在ではほぼ解決されています。

そしてツーリングカーレースやラリー競技で「首を左右に振れない」ことから普及が進みませんでしたが、初期のものよりは可動域が広いモデルも登場しています。

また、それでも競技によっては首を大きく振って進路を確認したり、スピード域が低いことからHANSの必要性が薄いカテゴリー(ジムカーナやオートテスト)もあり、必ずしも全てのモータースポーツで必須と考えられている訳ではありません。

ただし、純粋に安全性を重視するドライバーでのHANSの導入率は年々増え続けているのです。

また、HANSの使用には「スポーツ走行用にホールド性の高いシート、それに固定する4点式ベルト、HANSを装着可能なヘルメット」が必須条件となっています。

この事から、4点式シートベルトの装着が公道で認められていない日本においては、4輪車のドライバーが公道でHANSを使う機会はありません。その代わりにエアバッグが頭部や首への衝撃を抑制しているのです。

 

あらゆるスポーツ / 競技で広まるHANS

出典:https://sportsland-sugo.co.jp

JAF公認レースでHANSの使用が2017年から完全義務化になった事は前述の通りですが、それ以外のレースや競技でもHANSで安全性を高めようという動きが広まっています。

一例として、新規格NA軽自動車での参戦に限定されたレース「東北660選手権」です。

一見、非力でスピード域の低い印象がある、軽自動車レースでも、義務化こそされていないものの、上級者から初心者まで全クラスでの着用が推奨されています。

 

まとめ

©︎Tomohiro Yoshita

ヘルメットの話に続いて少し固い話になってしまいましたが、モータースポーツに参加する上で一番大事な事、それは「無事に帰ってくること」です。

順位や結果、チェッカーを無事受けられたか、リタイアか、それよりも重要なのは、ドライバーが無事に帰ってくる事なのです。

観戦者は無事に帰ってきたドライバーなど乗員を称えてほしいと思いますし、参戦者は、何があっても無事に帰ることを一番に考えて頂きたい。

安全性が上がれば上がるほど、より攻め込み、楽しむことができる。

それがモータースポーツの醍醐味だと思います。

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