12インチホイールのレーサーレプリカモデル、NSR50、そしてNSR80をご存知ですか?ミドルクラスやリッタークラスと比べると「おもちゃ感」が漂いますが、バカにはできません。小さなフレームに速く走るための技術が注ぎ込まれた本気のレーサーレプリカです。今回はミニサーキットを主戦場にしたミニバイクレースの雄、NSR50/80を紹介します。
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誰もがオートバイに憧れた時代
WGP(世界ロードレース選手権)
ロードレースファンにとって1980年代は特別な時代でした。
その幕開けとして、1980年はWGP(世界ロードレース選手権)の500ccクラスで、キング・ケニーことヤマハのケニー・ロバーツが3年連続のワールドチャンピオンに輝きます。
その後、ホンダのルーキーであるフレディー・スペンサーと繰り広げたバトルはどれも歴史に残る名勝負であり、1983年には、お互いに12戦中6勝というモータースポーツ史に残る接戦でした。
最終的にはスペンサーが2ポイント差で年間タイトルを獲得、史上最年少での世界王座となりました。
翌年である1984年には250cc、500ccの両クラスにダブルエントリーし、見事にダブルタイトルを獲得します。
日本のロードレース
同じ頃、日本でもヒーローが誕生します。
それが、ヤマハのワークスライダー、平忠彦です。
1983年の全日本ロードレース選手権350ccクラス優勝を皮切りに続々とタイトルを獲得、1984年からはWGPにもスポット参戦しています。
1985年には鈴鹿8時間耐久レースにケニー・ロバーツとパートナーを組んで出場、惜しくもリタイアに終わりましたがロードレースファンに夢を与えてくれました。
文化としてのオートバイ
この時代はレースだけではなく、文化としてオートバイが受け入れられていました。
平忠彦は男性化粧品のCMに出演、また同時期に上映された映画「汚れた英雄」ではスタントライダーを務めています。
雑誌においては1980年代だけで21誌も創刊され、またコミックにおいてもオートバイが登場する作品が人気を博しました。
とくに、レースを舞台にした「バリバリ伝説」は多くの若者たちに支持され大人気漫画に
元GPライダーの中野真矢選手も熱狂的な愛読者の一人で、現役時代にゼッケン「56」を拝借したというエピソードは有名です。
ちなみに当時は「3ナイ運動」と呼ばれ、ほとんどの高校ではオートバイの免許取得が禁止されていました。
レーサーレプリカ全盛期
モータースポーツブームと相まって、バイクブームが盛り上がりを見せるころ、日本では規制緩和により市販バイクの「カウリング」が解禁されました。
そして1983年、フルカウルに身を包んだスズキRG250γの登場により一気にレーサーレプリカブームが訪れます。
しかしながら、レースの世界で生まれた最新技術を盛り込んだレーサーレプリカはどうしても市販価格が高額に。
あわせて、「3ナイ運動」のおかげで中型免許を取得できる若者も限られていました。
そのような背景もあり、バイク好きの少年たちは50ccクラスのスポーツバイク、いわゆるゼロハンスポーツに目を向けることになります。
当時主流だったゼロハンスポーツは、18インチホイールに2サイクルエンジンという仕様で、各メーカーがラインナップする250ccレーサーレプリカの弟分的な位置付けとして販売されていました。
代表的な車種は、ホンダのMBX、ヤマハのRZ、スズキのRGγ、唯一空冷エンジンを搭載したカワサキのARなど。
レプリカ直系のスタイリッシュな車体に原付免許で乗れることもあり、このクラスも非常に人気を博します。
仕掛人はスズキ このクラスでもH・Y戦争勃発
1986年、RG250γやGSX-Rシリーズなど、レーサーレプリカの先駆者でもあるスズキから新しいタイプのゼロハンGAG50が登場します。
このバイクは、10インチという小径ホイールを履いたフルカウルバイクであり、カラーリングもポップなデザインが多く、GSX-Rを凝縮したかのような愛くるしいフォルムは人気を呼び、新しい層のユーザーを獲得するほど支持されました。
「マイクロレーサー」というジャンルを築いたGAGでしたが、発売当時のキャッチフレーズは「遊びゴコロをフルカウル」であり、ゼロハンスポーツと呼ぶには少しカテゴリーが違っていたようです。
そして同年、ヤマハからYSRが発売されます。
車体はTZR250をイメージしたフォルムで、12インチホイールを履き、エンジンはGAGの4ストロークと違い2ストロークで、50ccと80ccがラインアップされました。
最高出力も7ps(50cc)となっていてGAGの5psより上回っています。性能をみるとGAGよりちょっと本気になっているのがわかるかと思います。
しかし、そんなヤマハのYSRを見て、更に本気になったのがホンダなのです。
本気のゼロハンスポーツNSRデビュー
GAGやYSRが発売された翌年の1987年、ついにホンダからマイクロレーサーNSRが発売されます。
NSRは「本物のマイクロレーサー」をコンセプトに、レーシングマシンNSR500の3/4スケールダウンモデルとして開発されたNSR50。その性能はレーサーと呼ぶに相応しいものでした。
心臓部の2サイクルエンジンはクラス最高の7.2ps(50cc)を発生。ダイヤモンドフレームをフルカウリングで包みサスペンションは油圧ダンパー式を採用、軽量の12インチアルミホイールに、前後ディスクブレーキを装備しています。
最高速は90キロを軽く超え、コーナーリング性能にも優れるなどGAGやYSRとは一線を画していました。
50ccのボアアップバージョンとして80ccもラインアップされ、最高出力12ps、ボディサイズは同一ですが、乾燥重量において50ccが76kgに対して、80ccは77kgになっています。
モデルチェンジ
1989年に最初のモデルチェンジが施されます。
外観ではカウリングのデザイン、そしてマフラーがダウンチャンバーからアップチャンバーへと変更されています。
駆動系においてはミッションをクロス化し二次減速比を変更。また50ccにおいてはリアサスペンションを強化することにより中低速域でのレスポンスとコーナーリング性能が更に向上されました。
1993年にはホイールのデザイン、プッシュキャンセル式のウィンカースイッチ、それにアジャスター式のクラッチレバーへと変更しています。
そして1995年に大幅なモデルチェンジが行われます。
まずは吸気システムを見直すことにより吸入効率を高め、フライホイールも軽量化、そして点火方式を変更し低回転から高回転域まで全域にわたりレスポンスを向上させ、ラジエーターの容量もアップして冷却効果を高めています。
駆動系ではクラッチ板を5枚から7枚に増やすことによりパワーロスを軽減、またリンク式チェンジペダルを採用し、よりスポーティなライディングを楽しめるように仕上げています。
足回りにおいてはリアサスペンションに5段階調節ができるアジャスター機構を採用、それによりサスペンションのセッティングを容易に行うことを可能にしました。
外観ではNSR500をイメージしたリアカウル、新形状の2分割ハンドルにアルミ製トップブリッジを採用しています。
1999年にはマイケル・ドゥーハン選手のWGP5年連続チャンピオン獲得を記念し「レプソルホンダカラー」モデルの発売を最後に生産終了となります。
ミニバイクレースでは表彰台の常連
NSRはその高い性能から現在でもミニバイクレースで活躍しています。
主な出場クラスは3クラスで、ミッション付きのノーマルバイクで行われる「Mクラス」、Mクラスのバイクにチャンバー交換が可能な「SPクラス」、そして改造無制限の「オープンクラス」になります。
また、その人気から生産終了になった現在でもカスタムパーツが多く販売され、エンジン回り、足回り、電装系からラップタイマー内臓のデジタルメーターまで手に入れることが可能です。
ちなみにレースを本気で楽しみたいオーナーには保安部品を排除したレース専用車両、NSR Miniもラインアップされています。
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気になる中古市場
NSRはすでに生産を終えているため、手に入れるには中古で購入するしかありません。
非常に人気が高いバイクだけあって価格は新車時と同等、年式によっては新車価格より高い金額で取引されています。
また、もうひとつの理由として、排気ガス規制により2ストロークゼロハンスポーツが姿を消した事も要因のひとつと言えるでしょう。
現在の中古価格相場では20万円前後から、そして後期型に至っては40万円前後の車体も見受けられます。
この異様な人気の高さは、ライバルのヤマハTZM50R(YSRの後継車)が20万円前後ということからも伺えるかと思われます。
しかし、レースに使用される車体ということもあり、カスタムされた車体や、酷使された車体が非常に多いので、購入の際は注意が必要です。
まとめ
ロードレース人気が高まりバイク少年たちがこぞって峠などのワインディングに繰り出していた時代、走り屋からレースに転向するのは容易なことではありませんでした。
才能や情熱はもちろんですが金銭面のハードルがクリアできずに諦めた若者も多かったと思います。
NSR50はミニバイクではありますが「レース」というフィールドを身近にしてくれた存在ではなかったのではないでしょうか。
ファクトリーマシンNSR500のスケールダウンモデルとしてモータースポーツの楽しさを詰め込んだNSR50。
その雄姿は今でもサーキットで健在です。
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