「直列4気筒エンジン」は1,000~2,500ccクラスの標準的なエンジン形式ですが、それゆえ各メーカーでさまざまなエンジンが存在します。その中でも1990年代日産の主力エンジンであり、スポーツ用エンジンにも使われたのがSR20系でした。

 

Photo by Conor Luddy

 

 

SR20以前の2リッタークラス直4DOHC4バルブエンジン

 

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E3%83%BBFJ%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3

 

日産は1981年に登場したFJ20(上写真・FJ20ET)により、かつてスカイラインGT-R(PGC10 / KPGC10 / KPGC110)に使われていたDOHC4バルブエンジンを復活。

直列4気筒エンジンとしてはモータースポーツ用のLZ20Bに続き、市販車用としては初のDOHC4バルブでした。

ターボ化、インタークーラーターボ化を経てR30型スカイラインRSやS110 / S12シルビア / ガゼール(インタークーラー無し)にも搭載されたスポーツエンジンでしたが、旧式のH型生産ラインで職人の手作り同然だったため高コストにより短命に終わります。

後継はCAエンジンで、スポーツエンジンとしては1.8リッターDOHC4バルブターボのCA18DETがS12後期からS13前期のシルビアやU12ブルーバードに搭載されたものの、1990年代を迎えるに当たり、新世代の直列4気筒エンジンが準備されました。

 

1990年代の2リッター直4日産代表としてU12ブル後期から搭載

 

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89

 

1989年9月にU12型ブルーバードがマイナーチェンジされたのを機に、1.8~2リッターエンジンはCA系からSR系に換装。

スポーツグレードのSSSおよびラリー仕様のSSS-RにはSR20DEおよびインタークーラーターボ版のSR20DETが搭載されました。

基本スペックおよび初期スペックは以下の通りで、SR20DETは後に大幅に出力向上しますが、SR20DEはNVCS(VTEC以前から存在した日産の初期可変バルブ機構)採用版やオーテック版を除き、後々まであまりスペックは変わりません。

SR20系基本スペック

形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブ

ボア×ストローク(内径×行程):86.0mm × 86.0mm

排気量:1,998cc

各型初期の最高出力と最大トルク

SR20DE:140馬力 / 6,400rpm 18.2kgm / 4,800rpm

SR20DET:205馬力 / 6,000rpm 28.0kgm / 4,000rpm

 

SR20系の特徴・長所・短所

 

Photo by Conor Luddy

 

1990年代を通じて日産4気筒の主力として使われたSR20系には、以下の特徴がありました。

特徴

・ヘッド、ブロックともにアルミ製

・スポーツエンジンに多かった、カムで直接バルブを開閉させる直打式ではなく、Y字型ロッカーアームで油圧式ラッシュアジャスターを介しバルブを開閉させる

・ボア×ストロークは同一のスクエアタイプ

 

長所

・アルミ製エンジンのため軽量コンパクト

・油圧ラッシュアジャスターつきでバルブクリアランスの調整が不要

・ロッカーアーム式なのでバルブのリフト量を稼ぎ、挟み角を広げつつもエンジンの高さを抑えられる

・Y字ロッカーアームにより2つのバルブを開閉できるのに1つのカムで済む

 

短所

・従来のエンジンやRB系のような鋳鉄製では無いため、チューニングベースとした場合エンジンブロックの耐久性に不安がある(ただしノーマルでは十分)。

・ラッシュアジャスターにより高回転での追従性が悪い

・高回転の多用やオイル管理が悪いとロッカーアームが暴れて脱落、最悪の場合割れてエンジンブローする

・動弁機構が複雑によりパーツ点数や重量が増加し、アルミ製として軽量化した分を相殺してしまっている

上記のように動弁(バルブ開閉)機構はSR20系の大きな弱点で、チューニングカーに使用する際にはロッカーアームストッパーの装着や強化ロッカーアームへの交換が定番となっているのですが、それでもなおロッカーアームのスペアが欠かせないと言われます。

また、ノーマルエンジンとしては機械的なノイズが少なく滑らかに回り、オイル管理さえ適正ならメンテナンスの手間も少ないエンジンです。

それゆえ特にNA(自然吸気)仕様のSR20DEは、スポーツグレード向けというよりセカンドグレード、あるいはミニバンやステーションワゴンなど重量のある車種で出力に余裕を持たせる目的で多用されました。

 

オーテック版やトミーカイラ版には高回転型SR20DEもアリ

 

出典:http://www.autech.co.jp/history/sv/silvia_autechversion_1999.html

 

スポーツグレード向けエンジンと言えばターボ仕様SR20DETの印象が強く、SR20DEはスポーツ向けというよりスペック的にはトヨタのハイメカツインカム、3S-FE並の実用エンジンという印象があると思います。

しかし例外的にオーテックジャパンがその特別仕様車の一部に搭載していたSR20DEはオリジナルチューンが施され、高回転ハイパワー型となっており、ライバルメーカーの高回転高出力型NAエンジンに匹敵するスペックです。

オーテックオリジナルチューン版SR20DEの最高出力と最大トルク

出典:http://www.autech.co.jp/history/sv/silvia_autechversion_1999.html

P10プリメーラ用:180馬力 / 6,800rpm 19.6kgm / 5,600rpm

B14ルキノ / N15パルサー / ルキノハッチ用:175馬力 / 6,800rpm 19.0kgm / 5,200rpm

S15シルビア用:200馬力 / 7,200rpm 21.8kgm / 4,800rpm

 

また、少量生産スポーツカーのトミーカイラ ZZにはキャブレター仕様のSR20DEが搭載され、これも最終的には200馬力に達しています。

 

トミーカイラ版SR20DE(キャブレター仕様)の最高出力と最大トルク

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BBZZ

トミーカイラ ZZ(後期)用:185馬力 / 6,900rpm 20.15kgm / 4,900rpm

トミーカイラ ZZ-S(後期)用:200馬力 / 7,300rpm 20.59kgm / 6,400rpm

 

NEO VVL版SR20VEで面目を一新

 

Photo by RL GNZLZ

 

搭載車両のモデルチェンジなどを機に可変バルブ機構NVCSを組み込むなどして、スポーツグレード向けには高回転高出力型、実用グレード向けには出力を据え置きつつ低中速型と2つの流れに分かれていたSR20系ですが、NEO VVLの登場でNAのスポーツ向けは一新。

NVCSとは異なり、2つのロッカーアームを高回転用と低回転用で切り替えてバルブタイミングとリフト量を可変させるNEO VVLではより高回転化が可能になりました。

NEO VVL化されたSR20DEはSR20VEと名を変えP11プリメーラ後期やU14ブルーバード、Y11ウイングロードに搭載され、S15シルビア・オーテックバージョンほどでは無かったものの、高回転高出力型となっています。

ただし、組み合わせられたミッションは6速シーケンシャルシフトも可能なハイパーCVT-M6に限られており、コンピューターの保護プログラムでマニュアルモードでも最高出力に達する前にシフトアップしてしまうという、奇妙なセッティングとなっていました。

カタログ上のエンジンスペックを発揮できない問題は発売と共に批判の対象となり、P12プリメーラに搭載された際には6速MTとの組み合わせに変更されています。

また、P12プリメーラ用のSR20VEは市販一歩手前で実現しなかったオートバックスのオリジナル少量生産スポーツカー、ASL ガライヤのリアミッドシップに搭載されていました。

 

SR20VEの最高出力と最大トルク

出典:https://www.autobacs.co.jp/ja/company/en_img_03.html

P11プリメーラ / U14ブルーバード / Y11ウイングロード用:190馬力 / 7,000rpm 20.0kgm / 6,000rpm

(※ただし上記車種はいずれもCVT-M6の制御により、6,500回転付近で勝手にシフトアップまたはギア比変更)

P12プリメーラ / ASL ガライヤ用:205馬力 / 7,200rpm 21.0kgm / 5,200rpm

 

ドリフトを中心にモータースポーツで多用されたSR20DET

 

Photo by Bryce Womeldurf

 

一方、SR20DETはターボチャージャーによる大威力で、実用エンジンとしては重量級のミニバンでも余裕の走りや、スポーツ走行用としては特にドリフト用としてチューニングを受け活躍しました。

搭載して活躍した代表的なモデルは以下の通りです。

ラリー / ダートトライアル用

HNU12改 ブルーバードSSS-R

RNN14 パルサーGTI-R

 

ドリフト用

PS / KPS13 シルビアK’s

CS / S14 シルビアK’s / K’s MF-T

S15シルビア specR

RPS / KPPS13 180SX

 

これらは初期の205馬力(パルサーGTi-R用は230馬力)から末期のS15シルビア用では250馬力に達し、同世代のFRスポーツカー、ホンダ S2000(AP1)と同馬力でより大トルクを達成しています。

また、S2000(AP1)用のF20Cは最高出力(8,300回転)、最大トルク(7,500回転)ともに高回転域まで回す必要があるピーキーな仕様だったのに比べ、低回転でそれを発生するSR20DETは初心者でも扱いやすい特性でした。

SR20DET 代表的な最高出力と最大トルク

S13シルビア後期:205馬力 / 6,000rpm 28.0kgm / 4,000rpm

RNN14パルサーGTi-R:230馬力 / 6,000rpm 29.0kgm / 4,800rpm

S14シルビア K’s MF-T / S15シルビアspecR:250馬力 / 6,400rpm 28.0kgm / 4,800rpm

PNM12プレーリーリバティ ハイウェイスターGT4:230馬力 / 6,000rpm 28.0kgm / 3,600rpm

 

最終的に280馬力に達したSR20VET

 

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AB

 

SR20DETはシルビアや180SXなどスポーツクーペ向けとしては最後までNEO VVL化はされず、NVCSの追加やタービン変更による出力向上にとどまりました。

既にS15シルビアの時点でスポーツカー市場は大幅に縮小していた事により、SR20DETを改良して搭載しても採算が取れない事が原因と言われますが、極度の経営不振でルノー傘下入りを目前に控えた日産には、もはやその力が無かったのかもしれません。

ただ、エンジンそのものは開発が続いていたようで、唯一のNEO VVL仕様であるSR20VETは、2001年の初代エクストレイルに搭載されていました。

しかし、最終的に280馬力に到達したSR20VETでしたが、厳しくなった排ガス規制は通過できず、エクストレイルが2代目へとモデルチェンジしたのを機に2007年5月で廃止されています。

 

まとめ

 

三菱4G63やスバルEJ20がモータースポーツを中心とした性能競争で段階的に「別物」へと進化、排ガス規制も乗り越え300馬力級エンジンになっていったのに対し、日産のSR20系は総じてスペック上は地味です。

しかし、トヨタ3S-Gとともにモータースポーツでは派手に活躍し、搭載車がメジャーだったおかげで今でもドリフト会場ではSR20DETの熱いエキゾースト・ノートが轟いているのです。

日産の2リッター直4としてはおそらく最後のスポーツエンジンになると思われますが、タマ数がまだまだ豊富なだけに今後もしばらくは現役で使われ続けると思います。

 

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