2020年11月1日(日)三重県にある鈴鹿サーキットで、全日本ロードレース選手権 最終戦 『第52回MFJグランプリスーパーバイクレースin鈴鹿』が開催されました。Motorzでは、今シーズンから始まった『ST1000』クラスに注目!『covid-19』の感染拡大によって幻となった今年の『鈴鹿8時間耐久レース』に参戦を予定していた3名のライダーに、独占インタビューをおこないました。各ライダーの『鈴鹿8耐への想い』とともに、リッターバイクバトルの行方をお届けします。

伊藤勇樹選手(伊藤レーシング EDPASヤマハ)ヤマハYZF-R1M             Photo by TEIJI KURIHARA

幻の『8耐』参戦予定ライダー達が鈴鹿に集結

「走る機会が増えて良い状態で迎えている」と語る渥美選手は決勝日ウォーミングアップランでは2番手タイムを叩き出す。 Photo by Kana Mike

世界中で猛威を振るい続ける『covid-19』の感染拡大は、ロードレース界にも深刻な影響を与え、2020年11月1日に延期された『鈴鹿8時間耐久ロードレース(以下8耐)』の開催が中止となってしまいました。

そしてMFJや鈴鹿サーキットなどにより全日本ロードレース選手権のスケジュールが見直された結果、8耐が中止となった同日に最終戦の『MFJグランプリ』を開催することが決定したのです。

今回は、最終戦ST1000クラスにエントリーしたライダーの中から、中止となった8耐に参戦を予定していた『伊藤勇樹』選手、『長谷川聖』選手、『渥美心』選手に話を聞いてきました。

アジアロードレース選手権から伊藤勇樹選手が参戦

「熟成されたヤマハYZF-R1Mは、素晴らしいハンドリング性能を生みだしている」と語る伊藤勇樹選手      Photo by Mike Kana

アジアロードレース選手権ASB1000(以下ASB)に参戦中の『伊藤勇樹』選手(伊藤レーシング EDPASヤマハ)は、MFJグランプリのみST1000クラスへスポット参戦。

ASBは、改造制限のあるFIMスーパーストック(1000cc)レギュレーションが採用されたマシンを使用し、イコールコンディションで行われるアジア選手権の最高峰クラスです。

伊藤選手は2019年のASB第3戦が行われた、雨の鈴鹿で表彰台を獲得したことに続き、2020年の開幕戦・マレーシア(レース1)でも雨の中、ASBでの初優勝を飾っています。

しかし、『covid-19』感染拡大に伴い、アジアロードレース選手権の第2戦以降のスケジュールは全てキャンセル。参戦を予定していた8耐までが、中止となってしまったのです。

「このままでは、不完全燃焼なシーズンになってしまう。あきらめきれずに全日本最終戦に出場したい。」

そんな伊藤選手の想いに応えるかたちで、伊藤レーシング(伊藤巧監督)がST1000マシンを用意し、今回のMFJグランプリへの参戦が実現しました。

PROFILE

Photo by Mike Kana

伊藤勇樹(ユウキ)選手 プロフィール

生年月日:1991年11月14日

千葉県出身 身長/体重 165cm/56kg

 

2014年  アジアロードレース選手権SS600 ランキング 2位

2015年  アジアロードレース選手権SS600 ランキング 4位

             全日本選手権JSB1000 参戦

2017年  アジアロードレース選手権SS600 ランキング 4位

2019年  アジアロードレース選手権ASB1000 ランキング 5位

2020年 アジアロードレース選手権第1戦マレーシア・レース1優勝

Q.アジア選手権ASBと比較した全日本ST1000について

使用しているタイヤは全く同じ(ダンロップ製)です。全日本は、アジア選手権とは違った空気感があり、日本人ライダー同士の『負けてたまるか!』という気持ちを、ひしひしと感じます。

参戦ライダーのレベルが本当に高い中、(ヤマハ)YZF-R1のハンドリングの良さから、レースではS字区間やコーナー旋回中のオーバーテイクを成功させることが出来ました。

Q.鈴鹿8時間耐久レースへの想いをひと言

8耐は世界選手権であるため、多くの人が注目し、(TV中継などで)何千万人の人が観てくれる、ライダーにとって夢の舞台だと自分は思っています。

そのため。(今年の8耐に自分が参戦する予定だったチームの監督である)原田哲也さんから声をかけて頂いた時は、本当にうれしくて「自分もようやく8耐に出れるんだ!」という感動を噛み締めていました。

そんな矢先に開催中止となってしまったので、本当に残念でなりません。

ただ8耐への挑戦は、まだまだ続けていきたいので、来年こそは出場したいと思っています。

MFJグランプリの金曜日のスポーツ走行で総合4位につけた伊藤選手は、予選をヤマハ勢最上位の総合6位で終えると、決勝日の朝のウォーミングアップ走行で、再び総合4位につける好調さをアピールします。

決勝では、スタートで少し出遅れましたが、その後4台による2位争いを展開し、スポット参戦ながら、見事2位表彰台を獲得しました。

異色のレギュラー参戦ライダー長谷川聖選手

ヨシムラが製作したチーム加賀山GSX-R1000ST仕様。長谷川選手曰く「ひと言で言えばマイルドな乗り味」  Photo by TEIJI KURIHARA

2019年の全日本ロードレース選手権J-GP3(250cc)チャンピオンの『長谷川聖』選手(TEAM KAGAYAMA powered by YOSHIMRA)は、中量級の600ccクラスのレースなどを経験せずに、いきなり1000ccのレースに挑戦している異色のライダーとして注目されています。

2020年8月におこなわれたST1000の開幕戦 菅生ラウンドでは、真夏の難しいコンディションにより転倒者が続出する中、18番手スタートから驚異の追い上げをみせ、見事4位を獲得。

続くオートポリスラウンドでもポイント圏内での完走を果たすなどの活躍を見せています。

10月には、FIM CEVMoto3ジュニア選手権アラゴンラウンドに、CIPジュニアチーム(マシンKTM RC250GP)からスポット参戦を果たし、世界のレベルを経験してきました。

PROFILE

Photo by TEIJI KURIHARA

長谷川 聖(ショウ)選手プロフィール

生年月日:2000年7月23日

鹿児島県出身 身長/体重165cm/58kg

2015年鈴鹿選手権、岡山国際選手権ダブルチャンピオン

2018年 J-GP3ランキング4位

2019年 J-GP3 チャンピオン

FIM Moto3茂木・スポット参戦

2020年 FIM CEVMoto3™アラゴン・スポット参戦

Team KAGAYAMA公式WEbサイトhttps://team-kagayama.com/

 

Q. J-GP3からいきなりST1000に挑戦してどうでしたか?

(TEAM KAGAYAMAの)GSX-R1000が、以前乗ったことがある他のリッターバイクと比べても、すごく乗りやすかったので(ファーストインプレッションでは)、特に苦労はなかったです。

ST1000へのレギュラー参戦ライダーは、JSB1000やJ-GP2を経験しているベテランが多いので、一緒に走るとライン取りやテクニック面ですごく勉強になります。

Q.鈴鹿8時間耐久レースへの想いをひと言

8耐は、小さい頃から出場するのが『夢』だった憧れのレースです。

8耐のDVDをよく観ていて、当時憧れていたライダーの一人が現在お世話になっている加賀山さん(TEAM KAGAYAMA代表)です。

小学生の頃、ミニバイクレースで所属していたチームが8耐にエントリーしたので、クルーとして参加しました。

ピットと『OGKカブト』のヘルメットサービスを往復する手伝いをしながら、初めて観る耐久レースの雰囲気に感動して、いつか自分も絶対に8耐へ出場して活躍してみせる!とその時から心に決めていました。                                  

CEVのMoto3のマシンから、ST1000マシンへの乗り換えに苦しみ、「自分の乗り方が出来ないまま予選を迎えてしまった。」という長谷川聖選手の予選タイムは2分11秒台で総合15位。

決勝では、予選を上回るラップタイムを刻みながら、総合15位でゴールし、リッターバイク初挑戦のシーズンを、ランキング12位で終えました。(注 第4戦茂木欠場)

8耐SSTクラス覇者の渥美心選手がST1000へ参戦

新型BMWS1000RRはECUが素晴らしく渥美選手曰く「タイヤを空転させすぎない様にコントロールしてくれる」という  Photo by Mike Kana

昨年(2019年)の8耐に出場し、見事『8耐SSTクラス優勝』を果たしたのが渥美心選手(TONE RT SYNCEDGE4413)です。

2016年から8耐に参戦している渥美選手は2019年、EWCセパン8時間耐久レースのSSTクラスで3位表彰台を獲得。

J-GP2に参戦していた時代には、鈴鹿でフロントロー(予選2位)を獲得するなど、スプリンター的なイメージだった渥美心選手が、年齢を重ねると共に『耐久のスペシャリスト』というイメージへと変貌しています。

コロナ禍で翻弄されてしまった2020年は、TONE RT SYNCEDGE4413から全日本ロードレース選手権 ST1000クラス第3戦オートポリスと第4戦もてぎに連続出場。

第4戦もてぎでは、新型BMW S1000RRの実力を示すかのように、新型ホンダCBR1000RR-R勢6台の中に食い込み、見事4位入賞を果たしました。

PROFILE

Photo by Mike Kana

渥美心(ココロ)選手 プロフィール

生年月日1995年10月27日
静岡県出身 身長/体重 172cm/60kg

 

2015年 全日本ロードレース選手権 J-GP2 ランキング6位

2017年 全日本ロードレース選手権 JSB1000、

鈴鹿8時間耐久ロードレース 参戦開始
2019年 全日本ロードレース選手権 JSB1000 ランキング29位
鈴鹿8時間耐久ロードレース 13位(SSTクラス優勝)
FIM世界耐久選手権セパン8時間耐久ロードレース 15位(SSTクラス3位)

渥美心選手オフィシャルWebサイト http://cocoro.spo-sta.com

 

Q ST1000参戦体制などについて(タイヤ、バイク)

タイヤが昨年までのピレリからダンロップに変わりましたが、フロントタイヤの使い方が少しが変わったくらいのイメージです。

以前、(J-GP2時代)ダンロップを履いていた時より、リヤタイヤがしっかり前に進んでくれる感じで、良いタイヤに仕上がっています。

新型BMW S1000RRは電気系が凄く良く出来ていて、エンブレの調整なども『何速、何回転』まで細かくアジャスト出来るんです。

また、しなやかなフレームによりスムーズに旋回していってくれる、とても良いバイクだと思います。

Q.鈴鹿8時間耐久レースへの想いをひと言

8耐が(レース活動の)メインなので、鈴鹿にはもちろん出たいという感じで全日本に出場しています。

8耐はもちろんですが、自分の中では海外に行きたいという気持ちがすごくあって、FIM EWC(世界耐久ロードレース選手権)のボルドールだったりルマンへの参戦を目指しています。

現在は、24時間(耐久)を戦ってみたい気持ちがすごくあるので、それに向けて動いている最中で、チームも応援してくれています。

来シーズン以降は、そういう方向で活動していきたいと思っています。

 

渥美心選手は、MFJグランプリの金曜日のスポーツ走行を総合3位で終えると、公式予選では2分9秒台後半に入れ、総合5位につけました。

「バイクも良くなってきている」と話してくれた渥美選手は、決勝日のウォーミングアップ走行で、予選タイムを上回る2分9秒台前半というラップタイムを叩き出し、総合2位と絶好調。

決勝ではスタート直後、6番手につけて上位グループを形成していましたが、2周目のデグナー進入時に他車と接触するレーシングアクシデントが発生し、転倒リタイヤとなってしまいました。

MFJグランプリST1000リザルト

名越 哲平選手(MuSASHi RT HARC-PRO)ホンダCBR1000RR-R                 Photo by TEIJI KURIHARA

ST1000決勝レースは、1周目のデグナーカーブ進入で気合いの2台抜きを見せたホンダCBR1000RR-Rの名越 哲平選手(MuSASHi RT HARC-PRO)がトップに浮上し、激しい2位争いを尻目に独走状態を築きます。

ポイントリーダーの高橋裕紀選手(日本郵便HondaDream TP)は、ジャンプスタートの裁定からライドスルーペナルティを消化するかたちで、一時は30番手までポジションダウン。

トップを独走する名越選手が優勝した場合、ポイントを計算すると高橋選手がチャンピオンを獲得する条件が『20位以内でゴールすること』となっていたため、チャンピオン争いの行方は最終的なリザルト次第となっていました。

レース結果は、名越選手がトップのまま2連勝を飾り、高橋選手は執念の追い上げをみせて総合16位。ST1000初代チャンピオンに輝きました。

Pos No Rider         Team Type Lap Total Time Best Time
1 634 名越 哲平 MuSASHi RT HARC-PRO CBR1000RR-R 11 23’46’089 2’08.888
2 76 伊藤勇樹 伊藤レーシング

EDPASヤマハ

YAMAHAYZF-R1M 11 23’51.795 2’09.313
3 17 作本 輝介 KeihinHonda Dream SI Racing CBR1000RR-R 11 23’52.852 2’09.595
4 85 津田拓也 Westpower/S-SPORTS/SUZUKI GSX-R1000R 11 23’53.431 2’09.685
5 64 岩戸 亮介 PTT Vamos Racing with A-TECH Ninja ZX-10RR 11 23’54.177 2’09.653
6 71 榎戸 育寛 SDG Mistresa RT HARC-PRO CBR1000RR-R 11 23’57.325 2’09.930
7 46 星野 知也 TONERTSYNCEDGE4413 BMW S1000RR 11 24’03.663 2’10.524
8 104 國川 浩道 TOHO Racing CBR1000RR-R 11 24’03.818 2’10.465
9 52 山口 辰也 TeamT2ywithNOBLESSE FAMILY CBR1000RR-R 11 24’03.923 2’10.487
10 33 藤田 拓哉 SpeedheartDOGFIGHTR YAMAHA YZF-R1 11 24’09.401 2’10.950
11 87 清末 尚樹 TeamWITH 87 KYUSHU ZX-10RR 11 24’12.533 2’10.928
12 51 寺本幸司 TERAMOTO@J-TPIP Racing GSX-R1000 11 24’17.023 2’11.412
13 14 谷本音虹郎 SpeedheartDOGFIGHTR YAMAHA YZF-R1 11 24’17.215 2‘11.262
14 14 伊藤和輝 Will raise RacingRS-ITOH ZX-10RR 11 24’19.532 2’11.423
15 12 長谷川 聖 TEAM KAGAYAMApowered byYOSHIMRA SUZUKI GSX-R1000 11 24’19.961 2’11.809
*DNF     95 渥美 心       TONE RT SYNCEDGE4413    BMWS1000RR                                 LAP1

ST1000クラス初代チャンピオンを獲得した高橋裕紀選手(日本郵便 HondaDream TP)           Photo by Mike Kana

まとめ

長谷川 聖選手(TEAM KAGAYAMA powered by YOSHIMRA )SUZUKI GSX-R1000      Photo by TEIJI KURIHARA

2020年10月31日、MFJ グランプリの予選終了後、鈴鹿サーキットで全世界へむけた発表が行なわれました。

その内容は、2021年シーズンに『ヨシムラ』が、フランスのSERTと組んでSUZUKIファクトリーチームとして 世界耐久ロードレース選手権(以下EWC)へフル参戦を開始するというセンセーショナルなものでした。

既にEWCには、F.C.C. TSR ホンダフランス、WEBIKE SRC カワサキフランス TRICKSTARなど、日本と外国チームの提携参戦が活発となっており、来シーズン以降は『ヨシムラ SERT Motul』が加わることで、より白熱した耐久シーンが期待されます。

さらに、MFJグランプリ決勝日には、2021年の鈴鹿8時間耐久ロードレースが7月18日に開催されることが正式に発表されました。

幻となってしまった2020年の8耐を、走ることが出来なかったチームやライダー達の活躍が、今から楽しみです。

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