NSR史上最強最速?88NSR

出典:http://motoimages.net/page/82
1987年11月に発売された型式MC18、通称ハチハチと呼ばれるモデルのデビューは鮮烈でした。
RS250と同時開発され、クランクケースの形状やシルエットだけ見ると、ほぼNSRかRS250。レーサーに保安部品をつけて、そのまま公道で走らせるつもりか?と疑ったほどです。
2スト市販車初のアクセル開度とエンジン回転数により点火タイミングを制御するコンピューター、PGM・PGMキャブレターを搭載し、RCバルブのコントロールにより、よりパワフルなエンジンに進化。
フレームもRS250に通じる五角断面フレームを新開発、車両をより軽量、コンパクト化することに成功しました。
MC16ではポジションもまだそれほど過激ではなく、公道を走る事もある程度考慮されていたように思えるのですが、88は今までの市販車ではありえないくらい、ハンドル位置も低く、ステップ位置も背の高い人では窮屈と感じるほど高いもので、前傾姿勢がきつく視界も制限されるため、公道には向かないと感じるほどでした。
後に同じ型式の89モデルでは、ステップのポジションは若干下げられるという処置がとられています。
年々過激になるパワー競争の中で、メーカーの自主規制として250ccは45psを課していましたが、実質はそれを超えているのではないかと言われています。
この年式まではスピードリミッターがついておらず、リミッターとしてRCバルブがノーマル状態だと全開にならないのですが、簡単な配線処理のみでRCバルブが全開になり、60ps近くを絞り出すという過激なつくりとなっていました。
コントロール性も独特で、コーナー奥まで突っ込んでブレーキをリリースすると同時に一気にフルバンクさせて向きを変え、リアステアでアクセルをあけながらトラクションをかけて行くと抜群の加速と旋回性を見せます。
しかし、初期旋回をミスするとライン修正がほぼ不能ではないかと言うほど非常に難しく、ブレーキを引きずりながら自由にラインどりができる、TZRのような走り方は向かない特性を持っていました。
スピードリミッターがない事や、他メーカーから批判が出るほど今までの市販車にはない過激なつくりが、88NSRが最強最速と言われる由縁です。
88モデルからSP仕様がラインナップされますが、前後ホイールがマグテックと呼ばれるマグネシウムホイールとなり、ロスマンズカラーとなっているだけで、後のSP仕様のように機能的に大きな差があるわけではありませんでした。
カラーリングは87NSRと同じファイティングレッドにテラブルーと、SPにロスマンズカラーが発売されました。
現在の中古車相場は45万~60万程度です。
本当に88が最強最速だったのでしょうか?その後モデルと比較しながらその事にも少し触れてみたいと思います。
PGMの進化、台形パワーと呼ばれるのPGMⅡ搭載89NSR

出典:http://shochan88nsr.blog120.fc2.com/blog-entry-101.html
1989年モデルは型式MC18で、マイナーチェンジと思われがちですが、内容はフルモデルチェンジに近いものでした。
外見上では、当時WGPでトレンドとなっていた空気抵抗を考慮して開発されたスラントノーズカウルを採用。
シートカウル付近まで立ち上げられた左右対称のテールパイプを持つチャンバーは、88年のNSR500をイメージしてデザインされています。
この長いテールパイプは、チャンバー内の排気ガスを吸出し効果によって排気効率を上げることを狙ったものとも言われています。
また、市販車では実質的にはこの効果はなく、単にデザイン上のものとなっており、ライディングポジションもステップ位置が若干下げられ、公道を多少考慮したスタイルになっています。
最大の特徴はPGMがさらに進化しPGM‐Ⅱに変更された事で、より高度に点火制御をおこなうこのPGM‐Ⅱは、台形パワーと呼ばれるパワーバンドを実現。
これはピークパワーの頂点のみを追求するのではなく、ピークパワーを多少犠牲にしてでも、安定したパワーを得る回転数を長くとったもので、実に1500回転もの間ピークパワーを絞り出し、トルク特性もゆるやかになり、乗りやすさにも貢献しています。
またこの年より施行された180km/h規制により、スピードリミッターが付いています。一般道での事故などの多さが社会問題となった事もあり、とにかく速く過激な方向に進んでいた路線から、乗りやすさ扱いやすさにも考慮された車両となりました。
ただ速さとパワーを追求した過激な乗り味の88と比べると、89以降はおとなしいフィーリングになっていること、88にはスピードリミッターが無い事などの理由から、フルノーマル状態では、ある意味最強最速と言えるかもしれません。
しかしその反面扱いにくさもあり、レースでは中間でのトルクがあって扱いやすい89モデルが88を圧倒。89に乗らなければレースには勝てないと言われるほど性能差がありました。
足回りではスイングアームがフレームと同じ五角形断面のスイングアームに変更されました。
これは当時ハイパワーのエンジンに見合った、より高い剛性をというレースでのトレンドを受けてのものでしたが、実際は剛性が高すぎてコーナーリング制約を受けてしまい、後のMC21では大幅にフレーム、足回りの変更が行われる事になりました。
SPモデル

出典:http://www.imgrum.net/tag/mc18
1989年モデルでは、サーキットユースに向けて3000台限定でSPモデルが発売されました。
当時全日本で優勝し世界グランプリで活躍していた清水雅広選手がライディングする、味の素ホンダレーシングのGPテラカラー。
乾式クラッチにマグネシウムホイール、減衰力調整付の前後サスペンションという豪華装備となっていました。
特に乾式多板クラッチの切れ味や、独特の音がレーサー気分を味あわせてくれる魅力の一台だったのです。
RKモデル

出典:http://moto.zombdrive.com/honda/1989-honda-nsr250r.html
1984年から1991年までの間、市販車改造クラスとしてTT-F3クラスというレースが行われていました。
そのレース専用としてHRCからコンペティション用コンプリートマシンが発売されています。
SPをベースに専用の補強フレームや車高調整フルアジャスタブルサスペンション、エンジンや電装も多数の変更が加えられていて、スリックタイヤが装着されていたため、ホイールもRS250と同じ。
HRC専用パーツを多数使用しており、RS250と見間違えるほど手が加えられています。
GP250クラスと互角に近いタイムを出すほどの車両となっていました。
カラーリングはSTDモデルにファイティングレッド、テラブルー、ブラック(シードカラー)SPモデルにテラシルバー(GPテラカラー)が発売!
中古相場はSTDモデルで20万~70万と幅がありますが、平均相場で言うと40万~50万が一般的です。
SPモデルで60万~80万となっています。
基本スペック
型式:MC18
エンジン:MC16E 水冷2サイクル・ケースリードバルブ90度Vツイン
排気量:249cc
最高出力:45ps/9500rpm
最大トルク:3.8kg-m/8000rpm
フレーム:ダイヤモンドフレーム
全長:1980mm
全幅:650mm
全高:1060mm
サスペンション:Fテレスコピック Rスイングアーム(プロリンク)
ブレーキ:Fダブルディスク Rシングルディスク
フレーム・足回りの大幅な変更により、ハンドリングに各段の進歩を遂げた’90NSR

出典:http://chinapet.net/bbs/topic-1816638.html
1990年2月に、型式MC21モデルが発売されました。
87年(実際は86年から販売されていますが87年モデルの為)からバブルの恩恵とレースブームの後押しで毎年モデルチェンジを繰り返してきたNSRがついに4代目として大幅な変更を加えられ、新たな一時代を築きます。
88・89モデルでは小さくて視認性が悪かったヘッドライトが横置きに二つ並ぶ形の、2灯薄型幅広の形に変更され視認性がアップ。シートも後部が跳ね上がったよりレーシーなスタイルになりました。
そして、大幅に変更されたのがフレームです。
WGPなどのフィードバックにより、パワーに合わせ剛性をひたすら高めていくことがトレンドとなっていた時代を超え、縦剛性を高める代わりに横剛性を落として適度にしなるものへと変更され、格段にコーナーリング性能を向上させました。
88・89モデルと比べるとメインフレームが縦長でかなり薄いものとなっています。
そしてもっとも特徴的で大幅な変更となったのが、ガルアームと呼ばれたスイングアームです。
くの字型に湾曲したスイングアームは2ストエンジンのパワーの肝となるチャンバーの容量やレイアウトに自由度が増すと同時に、バンク角を確保する事に大きく貢献し、格段の性能アップをもたらしたものでした。
エンジンはクランクケース、クランクシャフト、シリンダーヘッド、シリンダーと新設計となり、コンピューターがPGM‐Ⅲへと進化。
新たにギヤポジションセンサーなどが追加され、より細やかな出力制御を可能にすることによって、より扱いやすいエンジン特性とパワーを持たらせたのです。
15年以上経った現在でもジムカーナのトップクラスの選手が、いまだにMC21を使い上位を占めているという事実は、MC21の驚異的な動力性能、運動性能を物語っています。
カラーリングはロスホワイト(赤青白のトリコロールカラー 青黄白のトリコロール の二種類) パッションレッド(赤黒)ブラック(黒赤)が発売されました。
中古相場は35万~80万と幅がありますが、50万~70万が平均相場となっています。
SP・SEモデル

出典:https://www.autowp.ru/honda/nsr/111803/108558/pictures/waik37/
90~93年モデルにはSPモデルがあります。
89SPと同じく前後減衰力調整付のサスペンションですが、89SPではフロントサスペンションには伸び側の減衰力の調整ができなかったものが、伸び側も調整できるものに変更され、乾式クラッチ、マグネシウムホイール(マグテック)が装備されています。
また、91年よりメーカー自主規制で、250ccクラス新型車に40psが適応されることになり、ホンダではモデルチェンジを行わない方向となりました。
それに伴い販売力強化のためにSPモデルをベースとして、アルミホイールに変更したSEモデルを発売しています。
そんなSEモデルをメインモデルに置き、廉価版としてのSTDモデル、上位モデルとしてSPモデルとすることにより、NSR人気を不動のものにしたのです。
カラーリングは SEモデルとして ロスホワイト(赤青白トリコロール) 92年モデル ロスホワイト(赤白青 トリコロールフラッシュ)ブラック(黒赤)。
SPモデルとして 90年 ファイティングレッド(キャビンカラー) 92年 ロスホワイト(ペンタックスカラー) 93年ロスホワイト(ロスマンズカラー)、ロスホワイト(赤青白トリコロールフラッシュカラースペシャル)というラインナップ。

出典:http://www.400greybike.com/forum/viewtopic.php?f=23&t=35619&start=10
中古相場はSEモデルの平均相場が60万~80万 SPモデルで120万~150万となっています。
基本スペック
型式:MC21
エンジン:MC16E 水冷2サイクル・ケースリードバルブ90度Vツイン
排気量:249cc
最高出力:45ps/9500rpm
最大トルク:3.7kg-m/8500rpm
フレーム:ダイヤモンドフレーム
全長:1975mm
全幅:655mm
全高:1060mm
サスペンション:Fテレスコピック Rスイングアーム(プロリンク)
ブレーキ:Fダブルディスク Rシングルディスク
NSR250Rの最終進化 プロアームとPGMⅣ

出典:http://www.nsr250.net/history_mc28.html
1993年10月型式MC28 最終型となるNSRが発売されました。
カウルはレーサーNSR500を模して全体的に丸みを帯びた形状になっています。
外観上特に特徴的なのは、プロアームと呼ばれる片持ちのスイングアームで、ガルアームのパテントをヤマハが持っており、その使用期限が切れたという大人の事情(?)もあり変更されたものでした。
プロアームのパテントは独創的なシャシーを創る事でも有名なエルフ(elf) が持っており、スイングアームにエルフのコーションプレートが付いています。
これも一部のコアなレースファンにとっては心くすぐるものがあったのですが、これは耐久レースなどでタイヤ交換のしやすさを狙ったもので、ガルアームに比べて、ばね下重量が重くなるというマイナス面もありました。
MC28は電子化が進んだことが特徴的な車両で、メーター周りもスピードメーターがデジタルとなり、二輪車初のカードメモリーキーを採用。
このカードメモリーキーは、ハンドルロックの解除とエンジン始動の時に使用するものでしたが、同時にHRCから発売されていた競技用キー、通称HRCカードを差し替えるだけで競技用のコンピューターに簡単にセッティング変更できるものでもあり、あわせてウィンカーなどの保安部品が作動しなくなるようになっています。
これは当時、フルパワー化するためにコンピューターを変更して公道を走るなどの違法改造車両を防止するための策でもありました。これらの制御をする為にコンピューターがPGM- Ⅳへと進化しています。
残念ながらMC28は自主規制の関係からチャンバーの入り口を絞る事やPGM- Ⅳなどの点火制御などで、40psに変更されていますが、チャンバーをカスタムする事で本来のパワーに近いものとなります。
乗り味はとにかく素直で、MC21までは切り返しの時にパタンパタンと切れ味が鋭く、荷重移動だけで勝手に向きが変わって行く印象でしたが、MC28はライダーが寝かしこんでいくだけ寝ていく印象で、乗りやすさ速さを併せ持ち、完成されたNSRとして評価の高い車両でした。
1990年後半、バブル崩壊後のレースブームの終焉と共にネイキッドブームが訪れ、NSRの販売にも陰りが訪れました。
それに加えて排ガス規制の元、ほかの2スト車両と共に、1999年を最後に販売終了となり、一時代を築いたNSRの歴史の幕は降ろされたのです。
カラーリングはロスホワイト(赤青白のトリコロール)
中古相場は平均で70万~80万となっています。
SP・SEモデル

出典:http://www.nsr250.net/history_mc28.html
SP・SEモデルともにMC21と内容は同じラインナップですが、SPのフロントサスペンションが路面追従性を向上させたニューカートリッジ式に変更されています。
カラーリングは SEが ロスホワイト(青白オレンジ)ロスホワイト(白赤青) 96年以降が、ロスホワイト(青白黄赤) ロスホワイト(赤白黄色青)
SPが94モデルとして ロスマンズカラー 95モデルとして HRCカラー 96モデルとして レプソルカラー が発売されています。

出典:http://www.nsr250.net/history_mc28.html
中古相場はSEで平均で85万~95万 SPモデルは130万~165万となっています。特に94モデルのロスマンズが限定500台と台数も少なく高額となっています。
基本スペック
型式:MC28
エンジン:MC16E 水冷2サイクル・ケースリードバルブ90度Vツイン
排気量:249cc
最高出力:40ps/9000rpm
最大トルク:3.3kg-m/8500rpm
フレーム:ダイヤモンドフレーム
全長:1970mm
全幅:650mm
全高:1045mm
サスペンション:Fテレスコピック Rスイングアーム(プロアーム)
ブレーキ:Fダブルディスク Rシングルディスク
まとめ
バブル絶頂期、レースブームの真っ只にさらなるパワーと進化を求めて、毎年のようにモデルチェンジされてきたNSR。
ほぼレーサーと同じように開発された、NSRの進歩は目覚ましいものでした。
まるで実験機のように最新テクノロジーを満載し、アップデートされ続け市販されていた事が、いまだに人の心をひきつけてやまない理由の一つではないでしょうか。
そして驚くべき事に運動性能だけで言えば、今のSSにも劣らないほどで、ジムカーナの世界においては未だトップに君臨していることは驚嘆以外の何物でもなく、当時の技術が素晴らしく、進歩がいかに目覚しかったかを物語っています。
またGPの世界をそのまま公道に持ち込めるのは、やはり今でも夢のような話ですよね。
フレディー・スペンサー ワイン・ガードナー ミック・ドゥーハンなど、歴史に名を残すWGPチャンピオンを生み出してきたレーサーNSRのレプリカというだけで、心躍るのは私だけではないと思います。
もう二度と創られない、2STレーサーレプリカの中で永遠に残る名車として時代に名を残したNSRは、当時のホンダ技術陣の魂の一台なのかもしれません。
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