メルセデス・ベンツのなかのチューニング部門、AMG。このブランドは元々ベンツの一部門だったわけではなく、設立当初はダイムラーから独立した2人のエンジニアによって興された会社でした。当初からモータースポーツへの情熱を燃やしていたこのメーカーは、今では名門チューナーとしてその名を轟かせています。
CONTENTS
AMGとは
「AMG」は、ダイムラー社が展開する自動車ブランドのうちのひとつで、レーシングチューンに特化したブランドです。
「究極のハイパフォーマンスを実現すること」を理念に掲げ、このブランドでしか体感できない走りに特化した、高性能モデルの開発を続けています。
特に彼らが力を入れているのがエンジンであり、4気筒の量産型ターボエンジンでは世界一と言われる「2リッター4気筒ターボエンジン」や、環境性能とパワーを両立した「V型8気筒直噴ツインターボエンジン」などを開発。
モータースポーツでの経験をフィードバックし、洗練された技術によって開発されたこれらのエンジンは、メルセデス・ベンツ車に搭載され、これまでモータースポーツ界に数多くの記録を残してきました。
ではそんなAMGは、いつ頃誕生したのでしょうか。
そこにはモータースポーツへの情熱を持て余していた、2人の若きエンジニアの努力がありました。
AMGの誕生
1955年、フランスのサルトサーキットで開かれたル・マン24時間耐久レース。
ベンツはこのレースに、ガソリン直噴エンジンとエアブレーキを装備した『300SLR』で参戦したものの、開始から2時間半後の午後6時28分、300SLRがBMCの『オースチン・ヒーレー100』に追突し、観客席の近くで爆発。
ドライバーと観客合わせて83名の死者を出す大事故を起こしてしまい、ダイムラーはこの件以降、モータースポーツへの参加を見送り続けることになります。
そんな状況の中、モータースポーツへの情熱を持ち続けた、2人の若きエンジニアがいました。
1人はハンス=ヴェルナー・アウフレヒト氏、もう1人はエバハルト・メルヒャー氏です。
ハンス=ヴェルナー・アウフレヒトと、エバハルト・メルヒャー /出典:https://www.youtube.com/watch?v=8hWSWEbd5V4
彼らは1955年のル・マン以降、ダイムラーがモータースポーツへの積極的な参加を控えている状況でも、“いつか再びベンツがレースに復帰する日”が来ると考え、ひそかに新しいエンジンの開発を続けていたのです。
そしてモータースポーツへの情熱を形にするべく、この2人のエンジニアはベンツから独立し、1967年にモータースポーツ用エンジンの設計会社「AMG」を創立します。
1967年当時のAMG / 出典:https://www.youtube.com/watch?v=8hWSWEbd5V4
社名の由来は2人の名前、“アウフレヒト(Aufrecht)”と“メルヒャー(Melcher)、そして創業地にしてアウフレヒトの故郷、“グローザスバッハ(Großaspach)”の頭文字でした。
AMGの伝説
創業した当初、ほかの会社の例に漏れず、AMGは無名の存在でした。
それが一躍有名になったのが、1971年に開催された「スパ・フランコルシャン24時間レース」です。
AMGはこのレースに「AMG Mercedes 300SEL 6.8」で参戦。
当時ニュルブルクリンクとほぼ同じ長さであった14km近いコースを走破し、見事クラス優勝を果たします。
これによってAMGの技術力が世界中に知れ渡ることになり、続く1986年から始まった「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」にも参戦。
このDTMでは通算160以上のレースで勝ち、ドライバーズタイトルの総数は10、コンストラクターズタイトルの総数は15と、名誉ある成績を残しました。
また1980年代頃からはメルセデス・ベンツへのパーツ供給と、車の共同開発を行うようになり、1996年からF1のメディカルカーとセーフティカーも製造するようになります。
そんな2人のエンジニアの情熱から誕生したAMGは、1970年代の栄光以降、多角的にモータースポーツに関わる、巨大ブランドへと成長していったのです。
AMGの現在
今のAMGは先述したように、メルセデス・ベンツの1部門として存在しています。
1999年にベンツのブランドとなったあと、AMGは以前と同様、モータースポーツへの積極的な関与とメルセデス・ベンツのスポーティモデルを担当することになりました。
AMGモデルの製造はベンツが新車開発に着手する段階から始まっており、AMGが開発したモデルを発表するのもベンツが新車を発表するのとほぼ同じタイミング。
これは初期段階で双方が情報を共有することによって実現できており、近年ではベンツの通常モデルにも、AMG製のアルミホイールやエアロがオプションとして用意されています。
またオプションで、AMGモデルと同等の外装に仕上げられる、“AMGスポーツパッケージ”も存在しており、現在のベンツとAMGは、お互いに深く関わり合うようになっているのです。
AMGの特徴
今では巨大なチューニングブランドへと成長したAMG。
そこには創業当時から変わらない理念と、独自の技術力があります。
ここからはそんなAMGの技術力が生み出したエンジンの一部と、彼ら独自の“こだわり”について見ていきましょう。
4リッターV型8気筒ツインターボエンジン
4リッターV型8気筒ツインターボエンジンは高パフォーマンスと効率性に優れたエンジンで、2つ存在するターボチャージャーをVバンクの内部に配置することで、サイズの小型化を実現。
小型ながらも圧倒的なパワーとトルク、環境にも配慮した性能を誇る名機として完成しています。
搭載されているのは、C-ClassとGTモデルです。
V型12気筒ツインターボエンジン
V型12気筒ツインターボエンジンは、12本もの気筒を備えたハイパワーエンジンで、2つのターボチャージャーと水冷式インタークーラー、マルチスパークイグニッションシステムを装備。
ハイパワーエンジンでありながら燃費も良く、環境性能にも優れたエンジンとしてその名を轟かせています。
このエンジンは、S-ClassとG-Classに搭載されています。
サスペンションへのこだわり
AMGモデルには全車共通で、サーキット走行を想定した高性能サスペンションが装備されており、ハンドリングの正確さを実現。
4輪すべてにスプリングを備えた“AMGスポーツサスペンション”、リアにスプリングを装備した“AMG RIDE CONTROLスポーツサスペンション”を展開し、後者に“マジックボディコントロール”を追加したものもあります。
One man-one engine
AMGには、1人のマイスターが1つのエンジンを組み立てる、“One man-one engine”のこだわりがあります。
1人のマイスターが手作業で全ての工程を行い、作業開始から終了までほかの人に代わることはなく、エンジンが組み上げられるのです。
その証として各マイスターは、エンジンに自身の名前を書いたネームプレートをはめ込みます。
これこそが、AMGのエンジンであるという証明になのです。
この理念はブランドだけではなく、そのファンにとっても非常に大切であり、このこだわりから外れたAMG 43のエンジンは、“AMGのものではない”という人もいるほどです。
またエンジンに組み込まれている部品も、サスペンションやシートなどと同様、AMGの専用設計となっています。
まとめ
AMGがドイツの名門チューニングブランドとして、世界に名を轟かせている理由が、お分かり頂けたかと思います。
2人の若きエンジニアの情熱が生み出した、AMG。
その歩みは、今後もモータースポーツと共にあり続けることでしょう。
Motorzではメールきを配信しています。
編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?
配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!